前回金から4年、パラクロスカントリースキー川除大輝が最後まで示した王者の全力滑走

前回金から4年、パラクロスカントリースキー川除大輝が最後まで示した王者の全力滑走
2026.03.12.THU 公開

ミラノ・コルティナ2026パラリンピック冬季競技大会で、2022年の北京大会に続く金メダル獲得に挑んだパラクロスカントリースキー川除大輝。現地3月11日の男子10kmクラシカル(立位)では、表彰台にあと一歩及ばず4位という結果だったが、小柄な体を目いっぱい使って滑る姿は、見る者の心をつかんで離さなかった。パラリンピック金メダリストとしての真摯な思いは、30分あまりの滑走にしっかりと投影されていた。

楽しみながら全力出せた

レース直後、川除はまず、結果について率直に語った。

「4位という結果、メダルを獲れなかったのは本当に皆さんに申し訳ない気持ちがあります」

それでも言葉はすぐ前を向いた。

「でも、楽しむというもう一つの目標は達成できたと思います。昨日(男子スプリントクラシカル)のレースから今日にかけて、楽しんで自分の全力を出せました。4位ですけど、自分の中では出し切れたという気持ちが大きいです」

男子10kmクラシカルに出場した川除大輝
photo by AFLO SPORT

スプリントクラシカルでは、油断からスピードを緩め、まさかの準決勝敗退を喫していた。

「不甲斐ない滑りをしてしまいました」

痛恨の思いを晴らすためにも10㎞クラシカルでは、「本当に最後まで出し切ろう」と決めてスタートラインについた。

世界が「クレイジー」と称賛する滑り

2001年、富山県生まれ。両手足の指の一部がない先天性の障がいがある。ただ、競技を始めたきっかけは特別なものではなかった。

「最初は(周りの)みんながやっているからというのが大きくて、(スキーに)乗れるようになりたい、滑れるようになりたいという気持ちが強かったです」

転機となったのは中学生のとき。北海道旭川市で行われたワールドカップで世界のトップ選手を初めて目の当たりにし、そこから「自分もこの選手たちに勝ちたい」という思いが芽生えていった。

やがて国際舞台で戦うようになると、小柄な自分の滑りが海外の選手に強い印象を与えていることを自覚するようになる。

「海外の選手の一歩は僕の二歩くらいになるんです。その中で、海外の選手は僕の(足の)回転数が上りでもずっと変わらないことがおかしいと笑って言ってくれる。川除の滑りはクレイジーだ、くらいの勢いで言ってくれるのがうれしいですね」

日本代表の川除
photo by AFLO SPORT

ポールを使わない滑走スタイルで誰よりも足を動かし、急坂を上り続ける。大柄な外国勢から見れば信じられないくらい高速で小刻みなステップが川除の武器であり、世界が驚く理由でもある。

雪面コンディションに苦しめられ

驚異の登坂力はミラノ・コルティナ大会の会場である「テーゼロ・クロスカントリースキー・スタジアム」でも観衆を魅了した。

テーゼロのコースには、イタリアの名選手の名にちなんだ通称「ゾルジ坂」と呼ばれる難所がある。急勾配の上りゾーンで、ここをいかに攻略するかが勝敗の分岐点と言われる。2月のミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックのクロスカントリースキーでは、ノルウェーのヨハンネスヘスフロト・クレボがこの坂で異次元の登坂技術「クレボステップ」を駆使し、金メダルに輝いた。

パラクロスカントリースキーの川除
photo by AFLO SPORT

「ゾルジ坂」が勝負のカギを握るのはパラリンピックも同じ。「大輝ステップ」とも呼べる高回転ステップを持つ川除にとっては、最大の見せ場でもある。

ただこの日、雪面のコンディションはこれまでに経験がないほど荒れていた。約2.5キロのコースを4周する10㎞クラシカル。川除は得意の上り坂でアドバンテージを握ろうとしたが、雪面が予想以上に崩れてザクザクな状態になっていた。スキー板の先端が雪にのめり込んだり、場所によっては足首まで埋まったりすることも。そのため、普段はほとんど転ばないという川除が2周目と4周目に合計2度も転んだ。

トップとの差は開いた。けれども、最後まで川除はあきらめなかった。

「過去に見ないぐらいの厳しい状況だったんですけど、その中でも自分の滑りはできたし、メダル争いにも絡むことができました。自分では調子もよかったし、いい滑りができたなと思います」

誰もが全力を出し尽くしたうえでの結果を、川除は正面で受け止めた。

金メダリストとして充実の4年間

前回の北京大会では、男子20kmクラシカル(立位)を制した。そして今回は、堂々の金メダリストとしてミラノ・コルティナ大会に乗り込んだ。この間にはワールドカップ総合優勝や世界選手権金メダル獲得があり、世界から注目される存在となっていた。川除自身も「自分に期待しましたし、メダルは獲らないと、と思っていました」と語る。

男子スプリントクラシカルに出場した川除
photo by AFLO SPORT

4年間、さまざまなものを背負いながら競技と向き合う時間であり、「金メダリストになってからの4年間は、濃い4年間だったと思います」としみじみ言った。

そして、「応援してくれる人たちに滑りを見て元気になってもらったり、頑張りましたというところが伝わればいいなと思います」と心からの思いを言葉にした。

それはどんな困難に直面しても決してあきらめず、やれる限りのことをやってきたエースの矜持だった。

edited by TEAM A
text by Yumiko Yanai
key visual by REUTERS/AFLO

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