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Sports /競技を知る
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妊娠中のトレーニングでより強く。パラノルディックスキー・阿部友里香が愛娘に見せた勇姿
愛娘の前で今の力を十分に発揮できた。それが何よりも嬉しかった。
ミラノ・コルティナ2026パラリンピック冬季競技大会のパラクロスカントリースキー女子スプリントクラシカル(立位)に出場した阿部友里香。本命と位置づけるこの競技で、予選を全体の7位で通過した後、準決勝で敗退。決勝の舞台に立つことはできなかったが、レース後の表情は実にすがすがしかった。
「今日は朝からしっかり決勝まで行くぞという気持ちで、このレースに臨みました。予選はいい順位で滑ることができましたし、セミファイナルでは上がり(上り坂)で苦しくなってしまったのですが、最後まで諦めずゴールまで行けました」

photo by AFLO SPORT
阿部がパラリンピックでスプリントクラシカルに出たのは、2018年の平昌大会以来だ。
「8年前は予選で落ちて悔しい思いをしたので、その時と比べたら今回はレースの内容的にも良かったと思います」
レベルを一段上げられたことにも胸を張っていた。
妊娠中のトレーニングが競技力向上を後押し
4度目の出場となったパラリンピックだが、今回は過去3度とは異なる気持ちで臨んだ大会だった。もうすぐ3歳になる愛娘の妊娠出産を経てから出た最初の大舞台。阿部は「自分の今の力を出し切る」と、固い決意で挑んでいた。
高校3年生だった2014年のソチ大会からパラリンピックに出場してきた阿部は、2021年3月に結婚。子どもが欲しいと考えていたため、2022年の北京大会後、2022年に妊娠。ただし、ミラノ・コルティナ大会出場を見据え、出産予定日から半年後となる2023‐24シーズンの国内レースに復帰をするために「妊娠中もトレーニングをしたい」と、医師やトレーナーの指導で、出産直前までトレーニングを続けた。

photo by X-1
体力や筋力をほぼ維持できたうえに、母体への負荷が少なく早期回復が見込める無痛分娩を選んだこともあり、産後の回復もいたってスムーズ。産後3週間目にはトレーニングを再開した。
「睡眠時間が削られたり、想定外のことが次々と起こったりして、赤ちゃんのいる生活は想像以上にハードでしたが、以前より時間の使い方を考えるようになりました」と話す。計画通り、2023‐24シーズンの大会も初戦から参戦。阿部自身、不安もあったと振り返る。しかし、ふたを開けてみれば、妊娠出産前と同じかそれ以上のパフォーマンスを発揮できたと感じることもしばしばだった。

photo by Tomohiko Sato
その一因について、阿部は妊娠中のトレーニングが功を奏したと感じている。 というのも、阿部の主治医でもある、西別府病院スポーツ医学センター長の松田貴雄医師によると、「妊娠中は、筋肉を成長させる男性ホルモンが中高生の男子並みに分泌されるため、適切なトレーニングをすれば、筋肉量を増やし、競技力向上が期待できる」からだ。
いつかこの日のことを語りたい
しかし、阿部にとって最大のパワーの源は、愛娘をはじめとした家族の存在だろう。今大会、夫と愛娘も現地に応援に駆けつけた。
「最後の上り坂では体力が残っていなくて苦しかった」と言うが、「ここのコースは下りが急。転倒する選手もいたし、何が起こるか分からない」と最後まで全力を尽くすことだけを考えて走りきった。それが本当に誇らしかった。

photo by AFLO SPORT
「パラリンピックという特別なところで滑っている姿を見せられたのは良かったと思いますし、(娘は)覚えていないかもしれませんが、将来写真を見返したときに伝えられたらいいなと思います」
パラリンピアンから母の顔に戻って、阿部は優しい笑みを浮かべた。
text by TEAM A
key visual by AP/AFLO






