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Sports /競技を知る
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最多メダル記録更新のアルペンスキー村岡桃佳、快挙の裏にあった葛藤
攻めの滑りでつかみ取ったシルバーメダルに笑顔が弾けた。現地3月12日に行われたミラノ・コルティナ2026パラリンピック冬季競技大会のパラアルペンスキー女子大回転(座位)で、村岡桃佳が今大会2度目の表彰台に上がった。
冬季パラリンピックで日本選手最多11個目のメダル
2本滑った合計のタイムで競う大回転。村岡は1本目に1分15秒66で2位につけると、2本目も2番手となるタイムの1分16秒26をマークし、合計2分31秒92で2位になった。
村岡のメダルは、今大会の日本勢第1号メダルとなった現地9日のスーパー大回転に続いて2つ目。村岡自身にとってはパラリンピック通算11度目の表彰台となり、今大会の日本選手団団長を務める元パラアルペンスキー選手の大日方邦子氏の10個を上回り、冬季パラリンピックの日本選手最多メダルとなった。
安堵感が前面に出ていた3日前とは打って変わり、充実した様子が口調にもはっきりと現れていた。

photo by REUTERS/AFLO
「やり切りました。もう、何もありません!」
その言葉にすべてが詰まっていた。
結果は2位。目指していた大回転での3連覇はかなわなかったが、悔しさ以上の爽快感が村岡を包んでいた。
「本当に攻め切ったな、やり切ったな、という気持ちでした」
2本目で覚悟のフルアタック
この1年、村岡は2度の大ケガを経験した。雪上に戻るまでの時間の焦りや不安、そして戻ってからも続く恐怖心。アルペンスキーのスピードの中で「攻める」ことは、体だけでなく心の壁を越えることでもある。
それでも「この種目にフォーカスしてきた」という大回転のスタート位置についたとき、心にあった思いはただ一つだった。
「今日は金を獲りたい。その気持ちだけでした」
1本目は戦略的な滑りをした。直前に有力であるスペインのオードリー・パスカル・セコの転倒を見て、レース全体の組み立てを変えた。

photo by REUTERS/AFLO
「直前でオードリーが転んだのを見て、1本目から完全にフルアタックで行くよりも攻め方を切り替えました。自分の中では(首位と約)0.5秒差の2位というのはプラン通りでした」
そして迎えた2本目。今度は逆転を狙うフルアタックを敢行した。ところがスタート直後の斜面でバランスを崩してしまい、一瞬ではあるがスピードを抑えざるを得なかった。
「そこで止まりかけたことによるタイムロスが大きかったのが、もったいなかったというか悔しいポイントだったなと思います」
それでも、悔恨だけに支配されたわけではない。
「悔しいです。悔しいけどそれ以上にやりきったという気持ちなので、悔しくてもう涙が止まらないというのではなく、やりきった! 悔しい! 楽しかった! という思いです」
湧き上がるさまざまな感情すら心地よかった。今の自分ができるすべてを出し切ったという実感があった。
「やっぱり時間が足りなかったという思いはありますし、この状況でこの場に立って自分のベストを尽くしました。満足です」
自身の競技初日だったスーパー大回転では、レースを「楽しめなかった」と話していた。
恐怖心が色濃く残っていたうえに、本命種目の大回転を控えた段階で大ケガをするわけにはいかない。置かれていたのは攻めることよりも無事に滑りきることを優先すべきシチュエーション。わかってはいたが、元来負けず嫌いな村岡には葛藤もあった。しかし、この日は違った。
「今日はそんなのは気にせず、もう1回(ドクター)ヘリに乗ってでもいいからフルアタックをしようと思っていました」
そんな風に言って笑いを誘った。
悔しさと誇りを胸に
ケガの不安も、恐怖心も抱えたまま。それでももう一度、攻める滑りを取り戻した。その姿を、特別な人が現地で見守っていた。陸上競技の指導をしてくれた松永仁志コーチだ。
「陸上ではメダルを獲ることがかなわなかったので、自分のホームである(パラアルペンスキーの)この姿を見てもらえたのはすごくうれしかったですし、遠いイタリアの地まで来てくれたので、ベストを尽くした姿を見てもらえて本当によかったです」

photo by AFLO SPORT
元コーチの前で見せた、攻め抜く滑り。そして表彰台に上がった姿。この銀メダルで、村岡は冬季パラリンピックの日本選手最多メダル記録を更新した。だが本人の思いはシンプルだ。
「記録を更新するのであれば金メダルがいいなと思ってはいたので、正直ちょっと悔しくはあります。ただ、最多記録を更新できたことには誇りを持ちたいと思います」
悔しさと達成感。その両方を胸の奥に持ちながら、村岡のパラリンピックは続いていく。
text by TEAM A
key visual by AFLO SPORT






