ジャパンパラで全勝優勝! 新しいスパイスで、チーム力の底上げを図る女子ゴールボール日本代表

ジャパンパラで全勝優勝! 新しいスパイスで、チーム力の底上げを図る女子ゴールボール日本代表
2023.03.15.WED 公開

「2023ジャパンパラゴールボール競技大会」が3月11日と12日の2日間にわたってアリーナ立川立飛で行われた。

女子代表の強化を目的に行われている同大会は、3大会ぶりに海外チームの招へいが実現。東京2020パラリンピック銀メダルのアメリカ(世界ランキング3位)、すでにパリ2024パラリンピックの出場権を手にしている韓国(同16位)、パリ大会に開催国枠で出場するフランス(同18位)が、世界ランキング2位の日本代表と激突した。結果は日本代表が全勝で予選を勝ち上がり、準決勝、決勝も快勝。大会を全勝優勝で飾り、パリ大会出場権獲得に向けて弾みをつけた。

2019年以来の有観客。4ヵ国による国際親善試合も久しぶりに実現した

エース萩原が大車輪の活躍

予選のハイライトは初戦の日韓戦だろう。12月にポルトガルで行われたゴールボール世界選手権。日本代表は上位2チームに与えられるパリ大会出場権獲得を目指したが準々決勝で韓国に敗れた。パリ切符を持ち帰った因縁の相手に雪辱を果たし、悪夢を払拭したい――チームは一丸となっていた。

パワーのある投球を繰り出す韓国のソ・ミンジ

エースの萩原紀佳は、こう明かす。
「強化合宿で男子チームに強いボールを投げてもらったり、大きな声の(特徴がある)韓国選手の真似をしてもらったりと対策をすごくして挑みました」

その成果もあり、日本代表は韓国に先制を許した後、すぐに取り返すメンタリティの強さを見せて5対1で初戦を飾った。

「スロースタート」が課題だった日本代表。ライバルに勝利し、チームにいい流れを作った

守備の要である高橋利恵子は「全員で声を出し合いながらしっかり鼓舞し、先制された中でも盛り上がっていった」と語り、初戦が全勝優勝の大事なポイントになったと振り返った。

また、萩原も「しっかり得点を取り、最少失点で勝てて本当によかった」と胸をなで下ろした。

アメリカとの初戦は苦しい展開になるも、国際大会デビューの新井が2得点を挙げて勝利した

決勝は、東京大会銅メダルの日本代表、銀メダルのアメリカがぶつかる好カードとなった。前半はエース萩原のグラウンダーで先制した日本代表が、もうひとりのエース欠端瑛子の回転投げで追加点を挙げると、萩原がコースを突いたボールで決めてアメリカを突き放した。ディフェンスもセンターの高橋を中心に粘り強く戦ったが、後半は日本代表のメンバーを新戦力に替えたことも影響し、痛恨の2失点。それでも萩原が大車輪の活躍を見せて日本代表は6対2で勝利した。

「今日の準決勝、決勝では、コントロールが乱れず、安定した投球をすることができて自信になりました」と笑顔を見せた萩原。これまで疲労が溜まった状態で戦う決勝トーナメントではコントロールが乱れるという課題があったというが、今大会では決勝でも5得点を挙げて完全優勝の立役者となった。

世界選手権で敗北した悔しさを乗り越え、パリ大会で世界一になるために「気持ちで負けない」と決意を固めている萩原。大会では決勝の後半から出場した新人、新井みなみの緊張をほぐそうと抱きしめて迎え入れる姿も見られ、精神面でもエースとしての自覚を垣間見せた。

トレーニング量を増やしているという萩原は、大会を通して投球の安定性が増したという

化学変化を図る日本代表

東京大会では新人だった萩原がエースへと変貌し、僅差のゲームで守り勝つ、日本代表の堅守のイメージは変わりつつある。

レフトの欠端、ライトの萩原という二枚看板を擁し、攻撃力もアップ。それでも世界選手権でパリ切符を掴むことができなかった日本代表は、今大会から新たな体制や発想を取り入れることで、より強いチームにパワーアップしようとしている。

パリ大会の出場権獲得に向けて「コミュニケーションの危うさなど、まだまだ課題がある」と欠端

その試みのひとつが、これまでの市川喬一総監督ではなく、工藤力也ヘッドコーチ(HC)がベンチで指揮を執ったことだ。工藤HCは「指揮する人が変わることで、選手それぞれに求めるものも変わってくる。これまでの形を破るきっかけになるのかな」と説明。たとえば普段はボールを投げることがほとんどないセンターの選手も攻撃に参加させるなど、新たなチャレンジを取り入れ、今まで以上に自分たちの発想で動くゴールボールを追求したという。

「市川さんのように細かい指示はなかったが、自分たちで考えることで(コミュニケーションを取るので)選手同士の雰囲気も良かったと思う」と欠端が話すなど、実際にいい変化も生まれつつあるようだ。

さらに、今大会からキャプテンがリオ大会以降チームを支えた天摩由貴からセンターの高橋に変わった。新たな船出となり、重責を担う高橋は「大会前に(元キャプテンであり、同じポジションだった)浦田理恵さんがLINEで激励の言葉をくれてほっとした」と明かした。

新キャプテンは、大会を振り返り「失点してもみんなでカバーし合う動きも見られたし、チーム力が大きく成長した」と手ごたえを口にした。

「チーム一丸となって優勝できてうれしい」と新キャプテンの高橋

新人の活躍と競争の激化

若手起用も目的だった今大会は、20歳のウイング・新井みなみ、21歳のセンター・神谷歩未が実力を発揮。2人の活躍により、今後の代表選考は激しさを増すことになる。

「新しいメンバーも加わり、私たちも負けていられないという感情にもなった」と萩原が語るように、新戦力の躍動はチームに大きな刺激を与えた。

今大会で存在感示した175㎝の大型ウイング新井と146㎝のセンター神谷

女子は5大会連続でパラリンピックに出場しているが、東京大会銅メダルの日本にとって出場への道のりは簡単ではない。8枠あるパリ大会の残り「5」をかけて「約30ヵ国に枠を取るチャンスがあり、厳しい状況」と市川総監督は気を引き締める。

これからパリ大会の出場権争いが激化していくが、若手が国際試合の経験を積んだ日本代表は、パリへの出場権を掴めば、不気味で面白い金メダル候補になるはずだ。

text by Asuka Senaga
photo by X-1

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