消防士おすすめの熱中症対策。軽い運動で暑さに慣れる「暑熱順化」に注目!

近年、熱中症で救急搬送される人の数が増加している。総務省によると2024年5月から9月までの間に、全国で熱中症によって救急搬送された人の数は累計9万7578人にのぼり、2008年の調査開始以降、最も多い人数だった。最悪の場合、命にかかわる熱中症だが、その対策として東京消防庁では「暑熱順化(しょねつじゅんか)」を推奨している。「暑熱順化」とは何なのか? 具体的に何をすればいいのか? 東京消防庁にお話を伺った。
「暑熱順化」とは?

ただでさえ高温となる火災現場で、さらに防火衣を着て活動する消防士の皆さん。さぞや暑さには強いのだろうと思いきや「よく聞かれますが、決してそうではありません。消防士だって熱中症になることもあり得ます。だからこそ、普段から暑さに慣れておくこと、『暑熱順化』が大切になってきます」と話してくれたのは、今回お話を伺った東京消防庁企画調整部広報課報道係の東勇斗主任だ。
暑熱順化とは、日頃から汗をかく習慣をつけ、暑さに体を慣らす熱中症対策のひとつ。その方法はたとえば以下のようなものがあるそうだ。
・ウォーキング 1回30分/2日に1回程度
・サイクリング 1回30分/週に3回程度
・適度な運動(筋トレやストレッチなど) 1回30分/週5回から毎日
・入浴(湯船につかる) 2日に1回
特に運動は効果があるとされているが、ある研究では体の「深部体温が1℃程度上昇する中強度の運動を7日間程度継続すると、暑熱環境下での運動時に深部体温や心拍数の上昇抑制、発汗量の増加などの効果が得られる」という結果が出ているそうだ。
「最近では6月から30℃を超える日があるので、その2ヶ月程前の4月頃から徐々に運動をして体を暑さに慣らしていくのがいいとされています。また、体が熱さに慣れたからといって運動をやめてしまわず、暑さが終わる9月頃までは運動は続けたほうがいいですね」(東さん)
適した運動量と注意点

運動でおすすめなのは先ほど紹介したウォーキングやサイクリング、筋トレなどだが、高齢で外での運動が難しいなどという場合は、踏台昇降やスクワット、ラジオ体操などでも効果は期待できるそう。
「いずれの場合も重要なのは水分補給です。運動中だけでなく、その前後にも適度な水分を摂るようにしてください。喉が渇いたなと思う前に飲むことが大切です。汗をかくと水分だけでなくカリウムが失われるので、経口補水液やスポーツドリンクを飲むのもいいですが、塩分や糖分が含まれているので、飲み過ぎは糖尿病などの病気になる可能性があり注意が必要です」(東さん)
また、汗をかこうとわざわざレインウェアなどの通気性の悪い衣服を着て運動をしたり、高強度な運動をしたりしなくても、暑熱順化の効果は十分に得られるという。

「東京消防庁には暑熱順化の研究や、我々消防士が現場で使う資器材の検証などをする安全推進部安全技術課という部署があります。その部署が、消防隊員を被験者に通常着用している雨合羽や防火衣などを着た実証実験を行ったところ、雨合羽などを着て運動をしなくても暑熱順化の効果は十分にあったという結果が出たそうです」(東さん)
また、この実験では運動強度も低強度または中強度でも効果があるという結果がでたそう。むしろ激しい運動は日頃から運動習慣のある人でなければ、無理にしないほうがいいとのことだ。
「大切なのは、軽い負荷の運動でも継続すること。そして、どんな人でも、その日の天候や、睡眠時間、体調などによっては熱中症になる可能性はあるので、決して無理はしないことです」(東さん)
暑熱順化には自分にあった強度の運動を暑さがピークになる前から始めて、それを継続することが大切なのだ。
熱中症かな? と思ったら

しかし、どんなに気をつけていても絶対に熱中症にならないわけではない。暑熱順化の対策はあくまでも熱中症のリスクを低くするための対策だ。それでは、もし熱中症かも? と思ったらどんな対応をすればいいのだろうか。以下はめまい、立ちくらみ、しびれ、こむら返りなど、熱中症の初期症状が表れたときの対処法だ。
1.木陰や室内など、涼しい場所へ移動して衣服を緩める。衣服を緩めることで風通しをよくすることができる。
2.体を冷やす。氷のうがある場合は、首や脇の下、太ももの付け根など、太い血管がある場所を冷やすといい。
3.自力で水分を補給する。他人が無理に水分を補給させると、誤って水分が気道に流れ込む可能性があるので注意を。
以上はあくまでも軽度の場合。たとえば近くに意識がない、うまく動けず体に麻痺が見られる、言動がおかしく暴れたりするといった症状がある人がいたら、迷わず119番をしていいそうだ。

「もし、熱中症で倒れている人を見つけたら、119番をして1から3の対応をしてほしいのですが、救急車を呼ぶというのは、なかなか体験しないことです。中にはパニックになって、適切な処置ができなくなるといったケースもあるので、倒れている人がいたら、まずは周囲に声がけをしてください。通りすがりの人でも誰でもいいです。複数人で協力することで対応を分担したり、冷静になれたりしますから」(東さん)
今年の夏も猛暑日が続くことがすでに予想されている。今からでも遅くないので、無理のない範囲で適度に体を動かし、徐々に暑さに体を慣らしてみては。ただし、それでも熱中症になってしまう可能性はある。仕事などでやむを得ない場合以外、買い物は涼しい時間に済ませる、暑い時間には屋外に出ない、エアコンを正しく使うといった基本的なことにも気をつけてほしいと東さんは注意喚起する。基本を大切にしつつ、まずは今年から、暑熱順化を夏を迎えるための習慣にしてみてはいかがだろうか。
取材協力:東京消防庁
参考文献:「広報とうきょう消防第57号」
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
photo by Zin Suzuki, Shutterstock