平均年齢69歳のシニアが週5で「VALORANT」!高齢化率全国1位の秋田県でシニアeスポーツに本気を出す理由とは?

平均年齢69歳のシニアが週5で「VALORANT」!高齢化率全国1位の秋田県でシニアeスポーツに本気を出す理由とは?
2025.06.06.FRI 公開

シニア × ゲームと聞くと、「暇つぶし」や「脳トレ目的」というイメージがないだろうか。しかし、65歳以上の割合が全国1位の秋田県では、昨今盛り上がりを見せるeスポーツのシニア限定チームを創成。なんと彼らは週5日で練習に取り組み、本気で強くなることを目指しているという。そのシニアチーム「MATAGI SNIPERS(マタギスナイパーズ)」を創設した秋田県のIT企業、株式会社エスツーの担当者土門悠さんとシニア世代の選手のみなさんに、なぜ今eスポーツに熱中するのかを伺った。

月~金で毎日練習!夜にはゲーム実況も配信する本気度

オフラインで「VALORANT」の練習をする選手たち

「おばんです」。なかなか聞きなじみがない第一声から始まったゲーム実況配信サービス「Twitch(ツイッチ)」のライブ。配信者はMATAGI SNIPERSに所属するプレイヤー、mark25さん(69)だ。本気度が伝わるヘッドフォンとゲーミング用の眼鏡を装着し、手慣れた様子で実況しているのは、5vs5で戦うシューティングゲーム「VALORANT」。現在MATAGI SNIPERSは、トップチームの(mark25さん含む)5人とアカデミー生2人の、計7人で構成されている。メンバーは、日々この「VALORANT」の練習に励んでいるという。

「VALORANT」はFPSと呼ばれる一人称視点のシューティングゲームだ。FPSは、スピードや展開が早く、動体視力がものをいう。しかし、実力に応じてランク分けされるため自身の現在地をつかみやすく、明確な目標を持つことができ、シニアでも取り組みやすいようだ。

トップチームのメンバーYossyさんは、「VALORANT」の魅力について「全部で27のキャラがいて、それぞれに得意や不得意があります。特徴を理解して仲間と協力しながら戦う戦略性があるんですよね」と語る。
仲間との協力プレーにもやりがいを感じるようで、mark25さんも実況中、ランダムで仲間になったプレイヤーから若そうな声で「ナイス」などと話しかけられ、嬉しそうに敬語で応えていた。

また、彼らのeスポーツへの本気度は、その練習量からも伺える。平日月~金で午後1時~5時まで実施するだけでなく、メンバーは持ち回りで午後7時~10時までゲーム実況の配信をするというから驚きだ。

mark25さんは「午後練習をして、夜に配信をするとなると、寝る以外の時間は常にやることがある状態です。もしチームに加入していなければ、草取りして、車洗って、となんとなく一日が終っていたと思います。定年退職した会社の30~40代の元同僚に『あんなのよくできるね』と言われますね。昔、子どもがゲームを長時間やっていて注意したものですが、最近は私が注意される側になってしまいました」と笑っていた。

25段階のランクのうち、現在ブロンズ1と下から4番目のmark25さん。基礎固めとスピード感への順応を通じてランクを上げるという目標を掲げ、「体が動く限り」VALORANTを続けたいという。

プロとしての強さを目指し、トライアウトも行う徹底ぶり

選手の募集用ポスター

そもそも、MATAGI SNIPERSのようなシニア限定eスポーツチームが作られたきっかけは何だったのだろうか。
チームを作ったのは秋田県に本社を置くIT企業の株式会社エスツー。秋田にeスポーツチームを設立しようという代表の意向で、まずは若年層チームが誕生。その後、2020年に高齢化率1位の秋田ならではのチームとして、シニア限定版を設立することになったという。名前は秋田県にちなみ、クマなどを狩猟する「マタギ」が採用された。

「私は秋田出身ですが、高校卒業後に大学進学と就職で一度秋田を離れました。15年ぶりにUターンで戻ってきて、街の元気がなくなって閑散としているなと感じたんです。この状況を少子高齢化というとネガティブですが、高齢者が何かに真剣に取り組む姿勢を見せていくことで、前向きにしたいと思いました。この取り組みは全国で一番高齢化率の高い秋田だからこそインパクトがあることだと思います」(チーム責任者の土門さん)

MATAGI SNIPERSは2021年に選手を初公募。それ以降これまでに3回の募集をしてきた。多くの選手たちは定年退職後のセカンドライフの場を求めて入団しているようだ。ゲーム歴はまちまち。「RPGが大好きで、ドラクエ、ファイナルファンタジーが大好きです」という選手から「子どものやっていたスーパーファミコンを見る程度」、「インベーダーゲームをやったことがあるくらい」という人まで多種多様だ。

当初65歳以上だった加入要件は60歳以上に下げたが、ゲームへの本気度を徐々に上げている。「プロとしてやるからには強くないといけない」と土門さん。3回目となる昨年の募集は初となるトライアウトを実施。試合形式で所属選手と実践をしてもらった。監督のれもんさんは「合格基準は実力と技術面、あとはコミュニケーション力を重視しています」と話す。

トライアウトで入団したアビィさんは入団をきっかけに青森から秋田に移住。「eスポーツが話題で、高齢者のチームを探していたのですが、青森にはありませんでした。ですが、秋田にあるのを知ってすぐにメールを送りました。FPSはやったことがないですが、がんばっています」と声を張った。

チームでは、選手の実力の向上に加え、スポンサーを集めてプロとして活躍できる環境の整備を進めている。土門さんは「スポンサーさんは県外企業もいます。高齢者とあまり親和性のないゲームやITといった分野を結ぶプロジェクトなので、スポンサーさんにとっても新しい顧客層の開拓になるのではないでしょうか」と話す。

eスポーツはシニアの人生に何をもたらしたのか?

ラジオに出演するmark25さん

選手たちに目標を聞くと、「もっと上のランクで戦えるようになりたい」「キャラクターの特徴を理解して使いこなせるようになりたい」「トップチームに上がりたい」など、技術の向上やトップを目指す声が次々と上がる。しかし、シニア世代の彼らがなぜ今そこまでゲームに真剣に取り組んでいるのだろうか。

「退職した時、会社を辞めて好きなことをしようと思って寝ていました。でもそうしていると体力はすぐに落ちて動けなくなりますね。ゲームは頭の活性化になっていると思います」と話すのはトップチームに在籍するひろBooさん。

最高齢76歳の馬場目の岩魚さん(秋田の地名と趣味の魚釣りにちなんだ名前)も「朝起きてやることがないのは嫌なんですよね。ただ、MATAGI SNIPERSに参加していると、新しい知り合いができるので、生きがいになっています。近所の人が私がゲームをしている写真が載っている記事を持ってきてくれたこともありました。『この写真、そうですよね?がんばってますね』って。通院している病院のお医者さんもゲームをしていてVALORANTの話で盛り上がったこともありました」と交友関係の広がりにうれしさを隠せない様子だ。

「年齢からは想像もできないくらい元気があると思いますよ」と土門さん。にわかには高齢者と信じられないほどオンラインゲーム環境に慣れている選手たち。気軽に一緒にプレイする間柄というが、今時のオンラインコミュニティらしく互いの本名などプライベートなことはあまり知らないというから驚きだ。

本気で喜び、本気で悔しむ。世界を目指すMATAGI SNIPERS

取材を受ける選手たち。eスポーツの魅力について熱く語っていた

「先入観を壊せ、限界はない」。これは新メンバーを募集するポスターに書かれたキャッチフレーズだ。高い目標を掲げ、そこに向かうことに年齢が関係ないことを意図している。

最後に土門さんは「少子高齢化は止まりません。だから止めようと思うのではなく、高齢者がイキイキ過ごせるような解決策を作っていきたいです。仕事を辞めてから本気になれること、というのはなかなかないと思いますが、MATAGI SNIPERSに加わると、本気で戦って、勝って喜んで、負けて悔しむことがあります。先日参加した大会ではVtuberチームに“ボコボコ”にされましたが、終了後に本気で悔しそうにしながら反省会をしていた選手たちを見ました。年齢が何歳でも関係ありません。VALORANTは世界大会までのピラミッドがあります。まだまだ全く届かない現状ですが、いずれ世界に出ることを目標にしています。本気でやることは元気の材料。こういう歳の取り方があるっていうのを強くなるために真剣になっている彼らの姿から示していきたいですね」と語ってくれた。


自治体の高齢化対策では一般的に、健康維持、孤立防止、生きがい支援、地域包括ケアといった取り組みが行われている。しかし、今回のMATAGI SNIPERSのような取り組みは、従来の「サポート」ではなく、年齢を理由とせず当事者自身が高みを目指す新しい視点の高齢化対策、と言えるのではないだろうか。今後、大会でしっかりと結果を残し、プロとしてさらに脚光を浴びることになれば、秋田だけでなく全国の高齢者の希望になるはずだ。

text by Taro Nashida(Parasapo Lab)
写真提供:株式会社エスツー

『平均年齢69歳のシニアが週5で「VALORANT」!高齢化率全国1位の秋田県でシニアeスポーツに本気を出す理由とは?』

平均年齢69歳のシニアが週5で「VALORANT」!高齢化率全国1位の秋田県でシニアeスポーツに本気を出す理由とは?