半年ごとにクラブ活動を変更できる制度を導入した千葉県立東葛飾中学校。生徒の反応は?

半年ごとにクラブ活動を変更できる制度を導入した千葉県立東葛飾中学校。生徒の反応は?
2025.06.20.FRI 公開

学校のクラブ活動(部活動)には、共通の興味や関心を持つ生徒たちが集まって、普段の授業とは違う学びをできる時間として重要な意義がある。一方で、最近では指導する教師の負担軽減のため、部活動の地域移行の取り組みも始まっている。そんなクラブ活動を、より生徒主体の活動にし、多種多様な体験を得られるようにしようと千葉県立東葛飾中学校で考えられたのが、半期(半年)で所属するクラブを変えられるという「半期選択制」。これは生徒たち、そして教師たちにどのような変化をもたらしたのか、同校でクラブ活動を担当する庄司健教諭にお話を伺った。

目的は生徒一人ひとりのニーズに応え、個別対応の時間を増やすこと

東葛飾中学校が、クラブ活動の「半期選択制」を導入するきっかけとなったのは、2018年3月にスポーツ庁が策定した「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」だったという。この発表を受けて学校では部活動のありかたについて議論を重ねていったそうだ。

「中でも私たちが重要視したのは、生徒主体の活動にしていくこと、生徒のニーズに合わせた多様な活動のあり方を確立しようということでした。子どもたちの自主運営を目指して、もっと任せられるところは任せていこうということになったんです。そこで出てきたのが“半期選択制”という制度です」(庄司健教諭、以下同)

“半期選択制”とは、文字通り半期で所属するクラブを変えることができるということ。つまり、前期にスポーツ系のクラブに所属していた生徒が、後期は別のスポーツ、あるいは文化系クラブに所属を変えたり、逆(文化系からスポーツ系へ)も可能。また、前期にクラブに所属していなかった生徒が、後期に新たにクラブに所属するケースもある。この制度の導入には3つの目的があったのだという。

  1. 1.生徒個別の実態に即して、それぞれのニーズに合わせた主体的活動を選び取ることができるようにする
  2. 2.さまざまな種類の運動や文化的活動に触れる機会を作ることで、生徒の成長の機会を増やしていく
  3. 3.部活動を改革することにより、教師の授業の準備、個別の生徒への対応の時間を確保する

「1に関しては、半期毎に部活動を選択することにより、生徒が半年間の自分の活動がどうであったかを振り返り、変更するか継続するか、どちらも可能であるということで進めています。3は、スポーツ庁のガイドラインにもありましたが、先生方の働き方改革という部分と、部活動に多くの時間が取られ過ぎてしまうと、それ以外の部分で生徒の話が聞けなかったり、学習のフォローがしにくくなるという現状がありましたので、このあたりも部活動の改革によって変えていけるようにしようという意味合いです」

さまざまなスポーツ、文化的活動に触れ成長の機会を増やす

ただ、誤解してはいけないのは、この“半期選択制”は決して半期でクラブ活動を変えることを推奨しているわけではないということだ。東葛飾中学校の教育方針のひとつに“「スチューデント・ファースト」で生徒一人一人の成長を支援します”とある。つまり生徒のためにどうしたらいいかということを、議論を重ねながら模索した結果生まれた制度だという。

「一番は“生徒主体”、そして“自主運営”ということを重視しています。ちなみに令和6年度は部活動全体として『子どもたちの“たい”に寄り添うクラブ活動』をテーマとして掲げました。“たい”とは、たとえば“高校生と練習をしたい”“大会に参加したい”“○○ができるようになりたい”など、ひとりひとりの“たい”を実現するクラブ活動というイメージです」

この“半期選択制”を導入して3年目になる今年、1年生で前期から後期でクラブを変えた生徒は約1割だったそうだ。変えた動機や感想を庄司教諭が尋ねた結果をご紹介しよう。

(1)理科クラブからテニスクラブへ/女子

<きっかけ>運動をしている人がかっこよく見えたので、私も運動クラブをやってみようと思いました。
<結果>自分自身の趣味の中にアニメ、スイーツというものがありましたが、テニスというものもランクインするぐらい充実しています。他のクラスの友達も増えて楽しく活動しています。

(2)書道クラブからバスケットボールクラブへ/女子

<きっかけ>新しいことにチャレンジしようと思ったからです。スポーツは水泳の経験はありましたが、チームスポーツを経験するのは初めてです。
<結果>今まで関わったことがなかった人と関わることができるようになって、楽しく活動しています。

(3)理科クラブからバスケットボールクラブへ/男子

<きっかけ>親からスポーツに取り組むようにと勧められたことと、体育の授業をやっていてバスケットボールが楽しくてトライしてみようと思ったことです。
<結果>他学年の先輩と話ができるようになって、親しくなれています。

(4)理科クラブからバスケットボールクラブへ/男子

<きっかけ>友だちからの誘いがあったことと、せっかく半期選択制ができる中学校なので体育の授業以外でも運動をしてみたいと思う気持ちから変えました。
<結果>先輩と交流ができたり、バスケットボールでもできることが増えたりと、とても充実しています。

(5)バレーボールクラブからフェンシングクラブへ/男子

<きっかけ>仲の良い友だちからの誘いがありましたが、一番の理由は、夏休み中にテレビでオリンピックを見てフェンシングがかっこいいと感じ、自分でもやりたいと思いました。
<結果>大会に出たい、勝ちたいという目標を持って今取り組んでいます。

(6)無所属(クラブに入っていなかった)からフェンシングクラブへ/女子

<きっかけ>夏休み中にテレビでオリンピックのフェンシング選手の活躍を見て感動したため、自分でもチャレンジしてみたくて入会しました。
<結果>高校生と一緒に活動することができて、優しく教えてくれるので、楽しく、やりがいにつながっています。
※東葛飾中学校は中高一貫校で、フェンシングクラブは中高連携部活動として運営されている

この結果を見ると、半期選択制の2つ目の目的である「さまざまな種類の運動や文化的活動に触れる機会を作ることで、生徒の成長の機会を増やしていく」も達成されているようだ。

指導というより、褒める機会が増える結果に

上記の生徒たちの声からは、東葛飾中学校がクラブ活動の“半期選択制”を導入したことでよい効果が出ていることがわかる。一方で、教師の個別の生徒への対応の時間を確保するという目的に関してはどうだろうか。

「クラブ活動における安全面の配慮や管理などは教師がしていきますが、クラブの方針や練習日程、練習の内容などは生徒たちに委ねています。その分、子どもたちができるようになったことや、進んでやっていることを丁寧に見るようになり、彼らの成長を見守ることが可能になりました。その結果、指導というより褒める場面がすごく増えてきたという実感はありますね」

生徒たちにとっては、自分たちで主体的にクラブを選び、運営に携わることで多種多様な学びがあると言える。そして、教師から褒められれば人間力もつくだろう。

「クラブ活動で何をしたいかは、一人ひとり違います。レクリエーション的に楽しみたい子もいれば、先輩後輩との交流を楽しみたい、中にはストレス発散をしたいとか、運動をして体力をつけたいという子もいます。一人ひとりのニーズに応えられるように、私たちも今努力しているところです」

一方で、競技志向が高い生徒にとって学校のクラブ活動は多少物足りないということもあるそうだ。その場合は、学校のクラブ活動には参加せず、地域の野球チームやサッカーチーム、スイミングスクールなどに通いながら全国的な大会を目指すこともあるという。そこで最近取り沙汰されているのが、冒頭にも触れた学校のクラブ活動の地域連携だ。学校や教師の負担軽減のため、地域でその運営を担う。それに関して、東葛飾中学校ではどのように考えているのだろうか。

「千葉県でも地域全体で子どもを育てる学校部活動、地域クラブのあり方についてガイドラインも出ていて、共感する部分は多いです。ただ、現状ではまだ地域クラブの環境が充分に整っていない部分もあり、まずは中高一貫校として校内でできることに重点を置いて考えていきたいと思っています」


生徒たちの本音の言葉に、この制度の重要性が表れているのではないだろうか。オリンピックでフェンシング選手の活躍を目にした生徒が、その感動も冷めやらぬうちに憧れのフェンシングに挑戦できるのだから。人間としての成長という意味でも貴重な時期にさまざまな体験ができ、先生からも丁寧に見守られる時間を過ごせるクラブ活動の“半期選択制”の意義は大きいだろう。

text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
photo by Shutterstock

『半年ごとにクラブ活動を変更できる制度を導入した千葉県立東葛飾中学校。生徒の反応は?』

半年ごとにクラブ活動を変更できる制度を導入した千葉県立東葛飾中学校。生徒の反応は?