初心者でもプロの強打を打ち返せる⁈ テニスと卓球のいいとこ取り、全米大流行の「ピックルボール」が楽しすぎる理由
皆さんは「ピックルボール」という競技をご存知でしょうか? 今、アメリカを中心に世界的に流行中で、競技人口はなんと約5000万人にも上ると言われるほど爆発的な勢いで増え続けている大注目のスポーツです。
その最大の魅力は、子どもから大人まで、家族や友人みんなで一緒に楽しめる「手軽さ」にあります。年齢や性別、運動経験、さらには障がいの有無すらも関係なく、誰もが同じコートに立って対等に打ち合えるのです。 最近では日本でも愛好者が急増していて、全国各地に専用コートができるなど、大きな盛り上がりを見せています。
今回は、車いすテニスの選手で、ピックルボールもプレーしていて普及活動も行っている眞田卓(さなだ・たかし)選手に、なぜこれほど多くの人が夢中になるのか、ピックルボールの楽しさや魅力について伺いました。
ブーム到来! そもそも「ピックルボール」ってどんなスポーツ?

アメリカでは身近なライフスタイルの一部としてすっかり定着したピックルボール。最近の海外ドラマや映画を見ていると、登場人物たちが休日にコートで汗を流したり、ラケットを片手に楽しそうに談笑したりするシーンがごく自然に登場するようになりました。その市場規模は今や数兆円にのぼるとも言われ、日本にもそのビッグウェーブは確実に届き始めています。
では、そもそも「ピックルボール」とは一体どんなスポーツなのでしょうか。 簡単に言うと、「テニスとバドミントンと卓球のいいとこ取り」をしたようなラケットスポーツです。基本的なルールや特徴は以下のようになっています。
コートの広さ:バドミントンのダブルスコートとほぼ同じ広さ(約6.1m×13.4m)。テニスコートの約3分の1
使う道具:「パドル」と呼ばれる板状のラケットと、無数の穴が空いたプラスチック製のボールを使用
プレー人数:1対1の「シングルス」も可能だが、競技大会や愛好家の間では、2対2で行う「ダブルス」が主流
勝ち負けのルール:サーブ権を持っている側(攻撃側)だけが得点できる「サイドアウト方式」を採用。先に11点を取ったチームが勝利
サーブの打ち方:必ず腰より下の位置から「アンダーハンド」で打たなければならない
バウンドのルール:サーブに対するレシーブ(2球目)と、その返球(3球目)は、必ず「1バウンド」させてから打ち返さなければならない(ツーバウンドルール)。4球目以降はノーバウンドで打ってもOK
これらがもたらす最大のメリットは、スポーツ初心者への優しさです。 テニスのように広いコートを全速力で走り回る必要がなく、強烈な弾丸サーブでいきなり得点が決まることもないため、ラリー(打ち合い)を楽しむことができます。眞田選手が「ラケットもボールも軽いので、非常に操作が簡単なんです」と語る通り、プラスチックボールの「ポコン、ポコン」という軽快な音を響かせながら、まったくスポーツ経験がない人でも20分ほどレクチャーを受ければ、その日のうちにゲームを楽しめるようになると言われています。
テニスの縮小版ではない。トップアスリートがハマった「独自の奥深さ」

そんな手軽で親しみやすいピックルボールですが、実はトップレベルの競技者たちをも深く熱中させる独自の奥深さを秘めています。 今回お話を伺った眞田選手は、パラリンピックや四大大会など、車いすテニスで世界中を転戦してきたアスリート。
「最初は、アメリカでシニア向けのスポーツとして始まったと聞いていました。同じラケット競技ですし、コートが小さくてパドルもボールも軽いので、車いすテニスをやっている自分も簡単に始められそうだな、と思ったのがきっかけでした」
実際にプレーしてみると、車いすでの操作性も高く、とてもスムーズにゲームに入り込めたそうです。
「見ている分にはすごく簡単そうに見えるんですよ。でも実際やってみると、非常にアグレッシブで奥深いんです。ただ速く打てばいいというものではないし、ただ単にボールを打ち返しているだけでもポイントは取れません。自分のポジション取りや、ボールのスピード、コースのコントロールなど、本当にテニスと同じくらい高い集中力が必要な競技だなと、やればやるほど感じています」
コートが狭い分、相手を左右に走らせて空きスペースを作るのが難しいため、いかに相手の体勢を崩すかという戦術がカギを握ります。短いボールを落とし合って相手に攻めさせないようにする駆け引きや、反射神経が求められるスピーディーな打ち合いなど、あらゆるラケットスポーツの要素が絶妙にブレンドされています。
初心者でもすぐにラリーが続くハードルの低さがありながらも、極めようとすればするほど戦術的で技術的な要素が求められる。これこそが、一流のアスリートをも夢中にさせる独自の魅力なのです。

なぜピックルボールは、「初心者がその日のうちに楽しめる手軽さ」と「アスリートが熱中する高い競技性」を両立できるのでしょうか? その秘密は、プレーヤー同士の筋力や体格の差をフラットにしてくれる”魔法のようなルールと構造”に隠されています。
1つ目の秘密は穴あきボールです。プラスチック製のボールには無数の穴が空いているため、風の抵抗を強く受けます。 「アスリートが思いっきりボールを強打しても、時速60キロも出ないくらいで、失速するのもすごく早いんです。パドルもテニスと違ってトランポリン効果(ガットの反発力)がないので、極端なスピードの差は生まれにくいですね。目が慣れれば、しっかりと反応して返せるようになります」と眞田選手。

2つ目の秘密が、ネット際にある「ノンボレーゾーン(通称:キッチン)」という独自のエリアです。 ここでは、ノーバウンドでの強打が禁止されています。そのため、ネットの目の前に張り付いて、背の高い人や力のある人が上から強烈なスマッシュを叩き込むといった力技がルール上できません。
強打を打つにはネットから離れる必要があるため、初心者でもボールに反応してパドルを出す余裕が生まれます。さらに、反発力のないパドルでただブロックするだけで、相手のパワーが吸収され、ネットのすぐ裏にポトリと落ちる「絶妙なコントロールショット」になりやすいのです。
「極端な話、目をつぶってパドルを出しても、ボールに当たりさえすれば相手が取りにくいすごい球が返っていく可能性が高いです。100球打ったら、10球か20球は、思わぬスーパープレーが出てしまう、そういった面白さがありますね」
アスリートの強打を、初心者が奇跡的なリターンであっさり打ち返してしまう。そんな番狂わせもピックルボールの醍醐味です。このパワーを無効化する構造のおかげで、たとえば車いすユーザーと立位の人が同じコートでペアを組んだとしても、過剰な配慮や手加減は必要ありません。お互いの長所を活かし、純粋な戦力として対等に真剣勝負が楽しめるという、インクルーシブな環境ができあがっているのです。
ネット越しの会話と笑い声。ピックルボールが繋ぐ「誰もが混ざり合う」未来

ピックルボールのコートは非常にコンパクトです。特に試合中、「キッチン」のラインぎりぎりまで前に出て、短いボールを打ち合う場面では、ネットを挟んだ相手との距離がとても近くなります。
「距離が近いので、プレー中にも自然とコミュニケーションが生まれるんです。相手を讃え合ったり、ポイントを取れば味方同士でハイタッチをしたり。どこをカバーしてほしいかといった戦術の相談も頻繁にします。遠慮したりネガティブな気持ちになったりする空気がなく、純粋に会話を楽しめますね」(眞田選手)
実際に眞田選手が参加している練習現場や大会でも、70代のシニアプレーヤーから小学生くらいの子どもたちまでが、一緒になって同じコートで汗を流しているそうです。「参加者の半数近くが、これまでスポーツの経験がなかった人たちなんですよ」と眞田選手も驚きます。
現場ではごく自然に「今度、一緒にあの大会に出ましょうよ!」と声を掛け合い、新しいコミュニティやチームが結成されていく光景を何度も目にしてきたと言います。こうしたエピソードからも、ピックルボールが単なる運動不足解消にとどまらず、世代を超えた孤独解消やコミュニティ形成のツールとして素晴らしい力を秘めていることがわかります。
最後に、ピックルボールの今後の展望について伺いました。
「世界中でプロツアーが開催され、賞金大会もどんどん増えています。日本でも7月に宇都宮で賞金大会が実施されたりと、競技志向の盛り上がりを見せています。今後はオリンピックやパラリンピックの正式競技になっていくのではないかと強く期待しています。
ただ、そうして競技レベルが上がっていく一方で、エンジョイ層の人たちも変わらずに楽しめるのが、このスポーツの最大の良さです。ハードルが低く、誰でも気軽に参加できるピックルボールを通して、健康を促進し、日本中を元気にしていってほしいという大きな期待を持っています」
コートが狭く、折りたたみ式のネットを使えばどこでも簡単に設営できるため、最近では銀座の地下や東京タワーの中など、身近なおしゃれスポットにもコートが誕生しつつあるそうです。「昔の卓球ラウンジのように、お酒や会話を楽しみながらプレーするスポーツとしても取り入れてもらえたら」と眞田選手。年齢も、運動神経も、障がいの有無も関係なく、誰もが同じコートで笑い合えるピックルボールの自由で新しい楽しみ方は、日本でもこれからさらに広がっていきそうです。
text and photo by Yoshio Yoshida(Parasapo Lab)
写真提供:眞田卓






