「中学で女子がサッカーを辞める時代」を変えた。なでしこリーグ・大和シルフィードが挑む、地域と描く新しい未来

「中学で女子がサッカーを辞める時代」を変えた。なでしこリーグ・大和シルフィードが挑む、地域と描く新しい未来
2026.10.02.FRI 公開

今年のワールドカップで高まった日本のサッカー熱。男子日本代表の活躍が記憶に新しいが、女子日本代表も負けていない。2011年の女子サッカーワールドカップ優勝という金字塔をはじめ、現在は海外のビッグクラブで活躍する選手も増え、国内でもWEリーグが発足。日本の女子サッカーは着実にレベルアップを果たしてきた。

しかし、かつての日本では、女子が中学・高校になってもサッカーを続けられる場所はほとんどなかった。

そんな時代に、「女の子たちが大好きなサッカーを続けられる場所をつくりたい」という思いから誕生したのが、神奈川県大和市をホームタウンとする女子サッカークラブ・大和シルフィードだ。

創設から約30年。現在は競技力の向上だけでなく、女子サッカー体験会や、エンパワーメントプロジェクトなど、年間11ものイベントを展開している。
こうした活動には、他とはちょっと違うクラブ創設の物語や、ホームタウン「大和市」ならではのサッカーの歴史にちなんだ思いが詰まっていた。

設立当初、メンバーは全員女子中学生だった

創設当初の大和シルフィード

大和シルフィードは神奈川県大和市をホームとする女子サッカークラブだ。大和市は、1970年代頃からすでに女子サッカーの土壌がある、当時としては珍しい地域だった。

クラブの創設者である大和シルフィードの加藤貞行会長は、当時小学生だった娘さんがサッカーを始めたのをきっかけに、地元のサッカークラブ・林間レモンズと関わるようになる。子どもたちの真剣な姿に心を打たれ熱心にサポートするうちに、チームのコーチを任されるようになった。

だが、子どもたちがどんなに熱心にサッカーに打ち込んでも、小学校卒業後の女子選手の受け入れ先がない。そこで、中学・高校生年代になってもサッカーを続けられる環境を作ろうと、1998年に大和シルフィードを立ち上げた。

そのため設立当初、大和シルフィードの選手は全員が中学生。その中に後にワールドカップ女子日本代表として活躍する川澄奈穂美選手、上尾野辺めぐみ選手がいた。その後、同クラブはなでしこリーグに昇格し、海外のクラブチームで活躍する選手を輩出するなど、全国でも注目を浴びる存在となった。

また大和市も「女子サッカーのまち」を掲げ、地域全体で大和シルフィードを応援するなど、大和シルフィードは地域に密着したクラブとなっている。

女子サッカークラブだからこそできること

大和シルフィードの選手と一緒にピッチへ入場するエスコートキッズ たち

スポーツ、サッカーで地域を元気にする。

そう話すのは、大和シルフィード株式会社代表取締役社長の橋本紀代子さんだ。

「チームを強くしてたくさんのお客さんに来ていただいて応援してもらう、それはもちろんですが、女子サッカークラブだからこそできることを地域に還元し、社会課題を解決することを、我々は非常に大事にしています。

たとえば、障がいの有無に関係なくスポーツを楽しめるインクルーシブな場を作ること。また、ウーマンエンパワーメントを掲げ、女性の活躍の場や、女性の健康あるいは女の子たちのためのスポーツの場、スポーツの機会といったことに関連するアクションをしています」(橋本社長、以下同)

切断の障がいがある人がプレーするアンプティサッカーを体験できるブースも

今年6月に行われた「インクルーシブスタジアムデー」では、同クラブのホームスタジアム・大和なでしこ三機スタジアムで、大和シルフィードのアカデミーチームと神奈川県障がい者女子サッカードリームチームのエキシビションマッチを開催。

会場ではサッカー未経験者や障がいのある人、運動が苦手な人など、さまざまな来場者が、パラスポーツ体験ブースで電動車いすサッカーやブラインドサッカー、アンプティサッカーなどを楽しんだり、誰でも参加できるウォーキングフットボールイベントで汗を流したりした。

「インクルーシブスタジアムデーは、今年で5年目となるアクションです。サッカーを見て楽しんでくださる人は健常者だけではありません。大和市だけを見ても人口約24万人のうち、障害者手帳を持っている人は1万人近くいます。我々のアクションとしては、どんな人でもサッカーを楽しめる、スポーツを楽しめる場を作っていきたいと考えています」

今は考えられないような未来を、この手でつくる

「エンパワーメントプロジェクト」で、選手やスタッフと触れあいながら、身体を動かす楽しさを体験する子どもたち

こうした活動はすぐに目に見えるような効果が出るものではないが、それでも橋本さんは、「続けること」に大きな意味があると話す。実際に活動を継続してきたことで、少しずつ変化も生まれてきたという。

「継続している取り組みの1つに『エンパワーメントプロジェクト』というアクションがあります。子どもたちを集めて、選手たちと一緒にサッカーを楽しんでもらったり、ワークショップに取り組んだり、将来の夢に向けたアクションを考えたりするプログラムです。

参加する子どもたちは、スポーツが苦手、スポーツをやめてしまったという子や、女の子も、男の子もいてさまざまです。障がいのある子どもたちも参加してくれていますが、大和シルフィードがやるイベントは障がいがあっても参加していいんだということを認知してもらえたようで、イベントだけでなくクラブのホームゲームを見に来てくれたり、我々がやる他のイベントにも積極的に参加してくれる方もいらっしゃいます」

「エンパワーメントプロジェクト」のひとコマ。大和シルフィードの選手・スタッフがファシリテーターとなって対話をし、子どもたちの将来的なアクションをエンパワーメントしていく

近年、日本でも町や建物のバリアフリー化が進んでいるとはいえ、やはり障がいのある人の中には、健常者と一緒のイベント参加や、初めて行くスタジアムでのスポーツ観戦はハードルが高いと感じる人もいるだろう。

「でも大和シルフィードが開催するイベントなら、大和シルフィードの試合なら行ってみようと思ってもらえるようになってきているので、それはすごく嬉しいですね」

とはいえ、まだまだ課題はあると橋本さんは冷静に現状を分析する。というのも、スポーツ庁が実施した「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」によると、中学生の場合、男子に比べて女子のスポーツ離れが深刻化しているという結果が出ているからだ。

実際に女子サッカークラブの大和シルフィードが開催するイベントでさえ、参加する子どもたちの男女比はよくて半々だという。

「これがもしJリーグのチームが開催するイベントだったら、参加者自体はたくさん集まるけれども、男の子が多くなるだろうと思います」

橋本さんが言うように、女子サッカーが盛り上がってきているとはいえ、Jリーグの男子サッカーに比べると、なでしこ主催のイベントや試合の観客数は少ないという現実がある。

「我々はいろんなアクションをしていますが、それがもっと周知されて、広がっていくためには、1つは大和シルフィードがしっかり大きくなったり、強くなったりしていくことが不可欠です。そしてもう1つ大切なのは、今やっているようなアクションの数を増やし、さらに単発ではなく続ける、継続していくことだと思っています」

試合を観戦するサポーターの皆さん。大和シルフィードのイベント参加を通じて、ファンになる人も多いという

日本は、ジェンダーギャップ指数の順位が世界的に見て低い。女子サッカークラブが強くなり、さらに社会活動を継続してその認知度を高めていくのには、まだ長い道のりがある。

「私も子どもの頃からサッカーをやっていましたが、日本の女子サッカーが2011年にワールドカップで優勝したとか、なでしこリーグがこんなに大きくなってチーム数が増えたとか、あるいはWEリーグができて女子サッカーが仕事になるというような今の状況は、当時は想像もできないことでした。

でもそうしたことが現実に起こっていることを見れば、今は考えられないような未来があるというふうに、私の中で信じているものがあります。ですから、それを信じてこれからもさまざまなアクションを継続していきたいと思っています」


橋本さんは取材中、何度も「スポーツの力」という言葉を口にしていた。大和シルフィードはサッカークラブなので、さまざまなアクションを通してサッカーの裾野を広げていくことは大切なことだが、橋本さんはサッカーに限らず、スポーツの楽しさ、ワクワク感、そしてスポーツの持つパワーを1人でも多くの子どもに感じてもらえたらと話していた。

こうした大和シルフィードのような地域に根ざしたスポーツチーム、子どもたちのロールモデルになるようなアスリートの存在は、子どもたちの健全な未来を作る上で欠かせない存在なのではないだろうか。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:大和シルフィード

『「中学で女子がサッカーを辞める時代」を変えた。なでしこリーグ・大和シルフィードが挑む、地域と描く新しい未来』

「中学で女子がサッカーを辞める時代」を変えた。なでしこリーグ・大和シルフィードが挑む、地域と描く新しい未来