ミリ単位の攻防戦! 射撃の全日本選手権に国内トップ選手が集結

ミリ単位の攻防戦! 射撃の全日本選手権に国内トップ選手が集結
2019.11.14.THU 公開

秋晴れとなった11月9日から10日の2日間、千葉市郊外にある千葉県総合スポーツセンター射撃場で、「第32回全日本障害者ライフル射撃競技選手権大会」が開催された。

今大会の1日目に行われた種目は、10m先にある円状の標的の中心を狙う「10mエアライフル」「10mエアピストル」。60分の間、肉眼ではっきりととらえるのは難しいであろう小さな標的のど真ん中を狙い続ける集中力と精神力、そして技術力と体力が要求されるのだ。

日本一を決するファイナルは独特の緊張感が漂う

東京に向けて水田が自己ベストで優勝

その意味でさすがのパフォーマンスを見せたのが、10月のWSPS世界選手権にて、東京パラリンピック出場枠(ダイレクトスロット)を射止めたエアライフル伏射60発混合SH2クラスの水田光夏だ。

白いヘッドフォンとピンク色のヘアゴムでまとめたツインテール姿で射場に登場した水田。視線を一身に集める中、試射から10点台後半の高得点を連発。その勢いのまま試合に入り、安定した点数を撃ち続ける。途中、9.9点を出したところで、初めてライフルから手と顔を離し、持参した水筒から水分を補給してリセット。その後、一度9.8点を出したものの全体的には安定した点数を撃ち続け、結果、自己最高となる633.3点でフィニッシュした。

自己最高となる633.3点を記録した水田光夏

「何回か外してしまいましたが、気持ちのリセットがうまくいって、ずるずると引きずらなかったのがよかった。毎回、自己ベストを更新するという目標を掲げているので、今回はそれが達成できたのもよかったです。(報道陣が多かったが)周りに人がいても気にならなかったですし、試合だからといってとくに緊張しなかったり、9点台を撃っても次は大丈夫だろうと前向きに考えたりできる性格は射撃向きかもしれません。一つひとつ課題を克服していければ、もう少し点数が上がってくると思うので、東京パラリンピックに向けてがんばっていきたいです」(水田)

なお、同クラスのみ、決勝戦に当たるファイナルも実施。水田にとっては、東京2020パラリンピックへ向けて経験を積む貴重な機会となった。

東京パラリンピックに向けて射撃の注目度も急上昇。多くのメディアが訪れた

課題が浮き彫りとなった佐々木と山内

一方、「お話にならない。お恥ずかしいです」と沈んだ表情を見せたのが、エアライフル伏射60発混合SH1クラスの佐々木大輔だ。東京パラリンピック出場資格を得るためには、公認大会で基準点を2回撃つ必要があるのだが、佐々木はすでにその条件を満たしており、開催国枠での出場も期待できる位置につけている。しかし、本人はあくまで自力での出場枠(ダイレクトスロット)と内定の獲得を目指すという。

佐々木大輔もダイレクトスロット獲得にこだわる

「練習ではダイレクトスロットと本番でのファイナル出場を狙える点数を撃てていますし、常にそこを基準に練習しています。しかし、今日は(報道陣の数の多さや距離の近さが)気になってしまいました。もともと周りが気になるタイプではあるのですが、そんなことはいっていられないので、イメージトレーニングを重ねるしかありません」(佐々木)

一人で練習を行うことが多いというだけに、自身が課題として挙げている環境への対応力をいかに高められるかが大きなポイントとなりそうだ。

世界選手権で得た収穫と課題について語る山内裕貴

佐々木同様、ダイレクトスロットを狙っているのが、10mエアピストル60発立射SH1クラスの山内裕貴だ。WSPS世界選手権では、ダイレクトスロットを2点差で逃した。

「世界選手権では、技術面で自分の射撃はこうだと言い切れるものがあともう一歩足らなかったのかなと思います」(山内)

とはいえ、収穫もあったという。

「点数的には悔しい結果に終わりましたが、課題にしている時間の使い方がうまくいき、いいリズムで撃てましたし、試合全体を通して集中できたため、自信になりました」(山内)

東京パラリンピックに近い位置につけている山内

それと比べると、今大会では課題が残ったと振り返る。

「最初の第1シリーズと呼ばれる10発目から第2シリーズの20発目あたりは、緊張度は高かったものの、そこそこの点数を出せて、良い入り方ができました。ところが、そこで記録を出せるかもという欲が出てしまい、結果、集中が切れて中盤の点数が落ちてしまいました。後半でなんとか盛り返しましたが、結局、ぎりぎりいっぱいまで時間を使うことにもなり、時間の使い方の弱さが出たかなと思います」(山内)

山内も佐々木同様、東京パラリンピック出場の基準点を2回以上達成しているが、最後までダイレクトスロットを狙っていくと語る。

「まずはダイレクトスロットを獲得することが第一の目標です。そして、ずっと目標にしてきた東京パラリンピックに出場してファイナルの舞台に立ち、表彰台を目指します」(山内)

いつもとは違う独特な雰囲気に苦戦したという佐々木

今後、ダイレクトスロットを狙える大会は、来年5月にペルーで開催予定のワールドカップのみだという。出場枠と内定獲得に向けた争いは、ぎりぎりまで続きそうだ。

【第32回全日本障害者ライフル射撃競技選手権大会 リザルト】

AP60M-SH1:1位 山内裕貴/2位 齋藤康弘/3位 森脇敏夫
AR60W-SH1:1位 武樋いづみ
AR60M-SH1:1位 望月貴裕/2位 照井彬 /3位 江口利哉
AR60MW-SH2:1位 木下裕季子/2位 鈴木努
AR60PR MW-SH2:1位 水田光夏/2位 古賀貴裕/3位 鈴木努
AR60PR MW-SH1:1位 佐々木大輔 /2位 片山友子/3位 渡邊裕介
BP40 MW-SH1 :1位長谷部信夫
BR40T MW-SH1:1位 東宏/2位 荻原幸子/3位 渡辺英雄
BR40T MW-SH2:1位 高橋祐衣
BR40 MW-SH1 :1位 渡辺英雄
BR40 MW-SH2 :1位 高橋祐衣
BR40F MW:1位 東宏/2位 宮城柚那/3位 黒田恭亮
R3×40 W-SH1 :1位 武樋いづみ
FR60PR MW-SH1 :1位 渡邊裕介/2位 望月貴裕/3位 片山友子

世界選手権代表の渡邊裕介はAR60PR MW-SH1で3位(後列左)だった

text by TEAM A
photo by X-1

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