ベルリン映画祭史上初の2冠を獲得!映画『37セカンズ』主演女優、佳山明さんにインタビュー

ベルリン映画祭史上初の2冠を獲得!映画『37セカンズ』主演女優、佳山明さんにインタビュー
2020.03.12.THU 公開

昨年、ベルリン国際映画祭をはじめとする数々の映画祭で絶賛された映画『37セカンズ』が、2020年2月7日に全国公開された。障がいのある女性の成長を描いた本作で主人公・ユマを演じるのは、自身も主人公と同じ障がいのある佳山明さん。演技未経験で本作のオーディションに挑み、一般公募による約100人の応募者の中から抜擢されたという。

2020年を代表する日本の傑作に、世界中が熱狂!

©︎37 SECONDS FILMPARTNERS

生まれたときに、たった37秒息をしていなかったことで障がいを抱えてしまった主人公ユマ。漫画家のゴーストライターとして働きながら、過保護な母親と2人でひっそりと暮らしているが、周囲の言いなりになるしかない生活に息苦しさを感じている。そんなユマが、窮屈な世界から抜け出して、自己表現の道を切り開こうとするのだが…。

よくある障がい者を描いた作品とは一線を画し、幅広い人に共感と感動をもたらす本作。第69回ベルリン国際映画祭のパノラマ部門で観客賞と国際アートシネマ連盟賞をW受賞するという史上初の快挙を達成した他、第44回トロント国際映画祭、第18回トライベッカ映画祭など、数々の映画祭で大きな話題を集めてきた。

脚本・監督を務めたのは、アメリカを拠点に活動するHIKARI監督。初の長編作となる『37セカンズ』がハリウッドの目に止まり、現在オファーが殺到しているという。
当初HIKARI監督は、2016年に脳性麻痺の活動家・熊篠慶彦氏のアメリカ取材に同行したことをきっかけに、およそ2年の歳月をかけて、幼少期の交通事故で脊髄を損傷した女性のラブストーリーを書き上げたという。しかし、オーディションで先天性脳性麻痺の佳山明さんと出会った監督は、物語の設定や内容を大きく変更。その結果、佳山さんのナチュラルな魅力や生い立ちなどが織り込まれたリアリティのある作品となった。

HIKARI/大阪府出身。高校卒業後に渡米。南ユタ州立大学を卒業後、舞台女優やカメラマンなど、多彩なキャリアを積む。30歳のとき、ジョージ・ルーカスなどを輩出した映画の名門、南カリフォルニア大学に入学。現在は、米国の大手エージェンシーに所属し、大型映画など複数のプロジェクトを進めている。

人の心にある “見えない壁”をなくしたい

佳山明/1994年生まれ、大阪府出身。生まれたときに脳性麻痺となる。日本福祉大学卒業後、社会福祉士資格を取得。

『37セカンズ』は明るく前向きな作品だ。しかし、物語序盤のユマは、周囲の人間に遍在する閉鎖的な意識のせいで、自己表現や自己決定が思うようにできない。佳山さんにも「これさえなかったら」と思うような障壁はあるのだろうか。そう問いかけると、「私はまだまだ人生経験が浅いので、自分の言葉に自信を持って発言できないんですけど」と前置きした上で、慎重に言葉を選びながら、今、感じていることを教えてくれた。
「たとえば海外の人は、障がいのある私のことを気に掛けているけど気にしてないって感じで、接し方がフラットだなと思ったりします。ドイツのような高福祉国でも、タイの田舎町でも、自然に接してもらえたので、壁を感じるようなことはほとんどありませんでした。でも日本で生活しているとちょっと違うかなと思ったりします。例えば、店員さんや駅員さんが一緒にいる友だちや介助者としか話してくれないとか…。人は関わり合うことでお互いを理解できるものだと思うので、障がいの有無に関係なく、関わってもらえると嬉しいです。第一印象はちょっとインパクトがあるかもしれないけど、話してみたら『(健常者と)変わらないな』と感じてもらえると思うので(笑)。そしたら、私のような障がいのある人も障がいのない人も、いろいろ変わるんじゃないかなって思います。今年はオリパラもあるので、いろんな意味でユニバーサルになって欲しいですね」

一歩を踏み出す勇気があれば、世界は変わる

株式会社ハーバー研究所(※1)主催の『37セカンズ』試写会および『映画ポスターチャレンジ』授賞式にHIKARI監督とともに登壇する佳山さん。奥は『映画ポスターチャレンジ』で上位に入賞したエイブルアート・カンパニー(※2)所属アーティストたち。

今回、佳山さんは自身が反映された役を演じたわけだが、佳山さんにとってユマはどんな存在なのだろうか。

「ちゃんとユマを演じられていたのか不安になることもあるけど、私にとってユマは、『私であり、私でない』みたいな存在。リアルに描かれているので、私と重なるところや共感できる部分があります。ただ、ユマのパワーは本当にすごいと思います」

大学卒業後、福祉の仕事をしながら演技未経験で『37セカンズ』のオーディションに挑戦した佳山さん。以前、とある試写イベントでオーディションの応募動機について訊ねられた際、「(当時はわからなかったが)今思えば、何か見えてくるものがあったらいいと思ったのかもしれない」と答えているが、実際に見えるものはあったのだろうか。映画出演後の今、感じていることを教えてもらった。

「オーディションを受けた日から、ユマを通して自分自身のことをじっくりと見つめたりして、いろんな意味で学びの多い2年間だったなぁと思います。これから自分に何かができるのかわかりませんが、国際的に活躍できる人になりたいという新たな目標ができたので、大学で学んだことやこれまでの経験をベースに、さらに学びを深めたいと思っています」

※1:化粧品メーカー。2010年からスキンケア&メイク講座を開催し、障がいのある人の社会参画をサポートしている。※2:障がいのある人がアートを仕事にできる環境づくりを目的に設立された団体。所属アーティストの作品は、07年からハーバー会員向け情報誌の表紙絵に採用されている。

すべての人がすべての登場人物に共感できる作品

©︎37 SECONDS FILMPARTNERS

最後に、主人公ユマと同じように自分の道を切り開こうとしている佳山さんに、この映画の魅力を聞いた。

「自分が出ていると思うと気恥ずかしいですが、リアリティや普遍性のある作品なので、観ていただいた方がご自身のことを振り返るきっかけになればと思います。そして、ユマの冒険を皆さんのパワーやエネルギーにしてもらえると嬉しいです」

ユマの成長を美しい映像で描いた映画『37セカンズ』。障がいのある人が出ているというだけで、多くの人は生きづらさを強調した“お涙ちょうだい映画”と捉えてしまうかもしれないが、本作は違う。たまたま障がいがある女性というだけで、誰にでもある葛藤や希望を取り扱っているにすぎない。言うなれば、障がい当事者、その家族、女性、男性、クィアなど、すべての人が共感できる“バリアフリー映画”だ。

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『37セカンズ』
2020年2月7日より新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー

監督・脚本:HIKARI
出演:佳山明、神野三鈴、大東駿介、渡辺真紀子、熊篠慶彦、萩原みのり、宇野祥平、芋生悠、渋川清彦、奥野瑛太、石橋静河、尾美としのり/板谷由夏
2019年/日本/115分/原題:37 Seconds/PG-12/配給:エレファントハウス、ラビットハウス/ ©︎37 Seconds filmpartners

公式サイト:http://37seconds.jp

text by Uiko Kurihara(Parasapo Lab)
photo by Tomohiko Tagawa

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