アフターコロナの新しい働き方!? 野沢温泉村のウェルビーイングビレッジでスポーツワーケーションを

アフターコロナの新しい働き方!? 野沢温泉村のウェルビーイングビレッジでスポーツワーケーションを
2022.08.12.FRI 公開

コロナ禍を経験した現代のビジネスパーソンにとって、身体的・精神的・社会的に健康で満たされた状態である「ウェルビーイング」を高めることは、いい仕事をする上で重要課題のひとつとなりつつある。そんな中、長野県野沢温泉村をウェルビーイングビレッジとして活用しようというプロジェクトが動き出した。スポーツもバケーションも仕事も充実させる新時代の働き方をご紹介しよう。

スポーツワーケーションでウェルビーイングを高める

「野沢温泉村のウェルビーイングビレッジ推進における連携協定」の締結式

2022年3月、野沢温泉村と、一般社団法人野沢温泉観光協会、東日本旅客鉄道株式会社長野支社、株式会社日本総合研究所の4者が「野沢温泉村のウェルビーイングビレッジ推進における連携協定」を締結した。

これは、野沢温泉村の豊かな自然やスポーツ環境を活かし、村に滞在した人がウェルビーイングになれる「ウェルビーイングビレッジ」を目指そうというもの。野沢温泉村は、国内最大級のスキー場を有するほか、最近ではトレッキングや、マウンテンバイクで山の上から山麓まで下るダウンヒルなどが出来る場所としても人気となっている。

そんな1年を通して恵まれたスポーツ資源を、近年脚光を浴びているワーケーション(ワーク×バケーション)と融合させた「スポーツワーケーション」ができる場所にして、訪れる人たちのウェルビーイングを高めようというわけだ。

スポーツワーケーションで集中力や創造性がアップ

このプロジェクトを担当する、株式会社日本総研リサーチ・コンサルティング部門の佐藤俊介氏

なぜこのプロジェクトに野沢温泉村が選ばれたのか。その理由を株式会社日本総研リサーチ・コンサルティング部門の佐藤俊介氏はこう語る。

「野沢温泉村は人口が約3500人と小さい村で、村のどこにでも歩いて移動できてしまうほどコンパクトにまとまっています。それでいてスポーツができる環境が充実しているので、スポーツと生活がものすごく近い環境にあることが魅力のひとつです。その他にも小さな村の中に13もの共同浴場があることや、豊かな自然があること、食べ物が美味しいなど、ウェルビーイングを高めるには充分な要素がそろっていました」(佐藤氏)

協定の締結に向けて、2021年の3月には野沢温泉村において実証実験が行われた。実験は、東京と大阪の企業4社から約20名のビジネスパーソンが参加。滞在期間中の行動は基本的には自由だが、ウインタースポーツを1日最低1時間程度はしてくださいというお願いをしていたという。

「スキー場のメインのインフォメーションセンターの会議室をお借りして、シェアオフィスにしました。皆さん普通に会社に出社するようにインフォメーションセンターに来て仕事を始めます。その後は、各自が好きな時間に着替えて、1、2時間スキーをしたら、また戻ってきて仕事をするといった感じです。朝イチで滑る方もいましたし、午前中はずっと仕事をしていて午後からスキーをする人など、皆さんのやりやすい形で過ごしていただきました」(佐藤氏)

この実験をメンバーを入れ換えて複数回行ったところ、ウェルビーイングが高まったという結果が出たという。

出典:日本総研公式サイト コラム「スポーツによるフロー状態の実現と創造性の向上~2021野沢温泉スノーワーケーション実証結果を踏まえて~」(https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=102543

「スポーツワーケーションの実験ですから、まずはスポーツをすることで生産性が高まるのかという測定をしました。1日1時間以上スポーツをしてもらい、戻ってきたあとに創造性テストというものを受けてもらったんですね。脳波計を頭につけて、表情をカメラで撮影し、心拍数を測りながら、アイデアを出し続けるというテストですが、スポーツをした後の方が数値がよくなっていました。また、人によってはスポーツ後にアルファー波の状態がよくなっていたという結果も出ています。さらにスポーツ選手が『ボールが止まって見える』と言ったりする超集中状態、『フロー状態』というんですが、このテストでは、やはりスポーツ後にスコアが高くなっていることがわかりました」

ご褒美があることでモチベーションがアップする?

©Shutterstock

こうした数値の他にも参加者に行ったアンケートでは、都心で仕事をするよりも集中できたと感じた人が多かったそうだ。日本総研が大阪大学とスポーツ用品メーカー、アシックスの協力のもとに行った実験では、ランニングマシーンを使って室内で走ることと、自然を感じながら屋外を走ることでは、その後の脳の活動に違いがでるという結果が出たそうだ。

「私も実験に同行していたのでわかるのですが、皆さんすごくメリハリのある生活をされていました。集中して仕事をして10分早く切り上げれば、10分間滑る時間が増えるとか、温泉に入れるといったように考えるので、無駄な仕事は極力しないようになります。スポーツをする時間を決めておくことで、それまでにいかに仕事を圧縮して終わらせるかと考えるようになるんです」

さらに夜は夜で、仕事を早く終わらせたくなる気持ちが高まる環境が野沢温泉村には整っているという。

クラフトビールの店「里武士」のほか、野沢温泉村ならではのグルメが楽しめるのも魅力

「スノーリゾートの場合、大抵は宿で夕飯を食べるので、飲食店があまりないですよね。でも、野沢温泉村は飲食店が複数あって、しかも村がコンパクトなので歩いてお店をはしごできるんです。なので、参加者は毎日違う店に行ったり、店をはしごして楽しんだりしていました。昼間は仕事に集中して、なるべく残業をしないようにし、夜は参加している他社の方と地元のジビエを食べに行ったり、クラフトビールを飲みに行ったり」

好きなスポーツをして、温泉に入り、夜は美味しいものをみんなで食べに行く。そうしたご褒美がある環境で仕事をすると、ダラダラと無駄な仕事をする人はいなくなると佐藤氏は実感したそうだ。

野沢温泉村は100年前からウェルビーイングビレッジだった?

長坂ゴンドラは2020年に世界最新鋭のゴンドラを導入。中には床までスケルトンのゴンドラキャビンもあり、オールシーズン豊かな自然を楽しむことができる

この実験結果を踏まえ、今後はJR東日本と連携した企業向けのウェルビーイングビレッジのプランを構想しているとのこと。またウインタースポーツだけでなく、サマースキーやマウンテンバイクなどオールシーズン利用できるような企画も検討するという。これに対して受け入れる側の野沢温泉村観光産業課の竹井勝氏は、村の特性と今回のプロジェクトの親和性の高さについて次のように語ってくれた。

「最近になって、スポーツを活用したまちづくり、地方創生に取り組む自治体が増えていますが、野沢温泉村ではすでに100年ほど前からそうした村づくりをしてきました。最初はスキーが得意な方達がスキークラブをつくり自分たちで楽しんでいたそうです。それがだんだん大学生などに広まっていって、最終的には日本有数のスキー場になっていったわけです。その間、外部資本が入ることなく、スキー場を村で運営してきたのも珍しいと思います。さすがに村だけで続けていくのは難しいということになり2005年にスキー場を運営する株式会社野沢温泉をつくりました。現在はそちらが中心になって、ウインタースポーツだけでなく1年を通してスポーツを楽しめるまちづくりを行っています」(竹井氏)

つまり、野沢温泉村は100年も前からスポーツと健康(温泉)とまちづくりという、スポーツを通したウェルビーイングに村をあげて取り組んでいるのだ。
そのため、設備投資も万全だ。日本国内のスキー場のスキーリフトやゴンドラの多くは、スキーが全盛期だった1990年前後に建設されたもので、老朽化が進んでいる。しかし、野沢温泉村では2020年の冬に世界最新鋭のラグジュアリーなゴンドラを導入。360度にわたって景色が楽しめるガラス張りのゴンドラは10人乗りで、マウンテンバイクを乗せることもできるので、夏にはダウンヒルなどのアクティビティを手軽に楽しむことも可能になった。

スポーツが解決するさまざまな社会課題

このプロジェクトは単にビジネスマンの生産性を高めるだけでなく、コロナ禍で打撃を受けたリゾートが産業の地方自治体にとっても、あらたな人流ができ、地方創生に繋がるというメリットがある。

「ワーケーションなので訪れた人が一定期間滞在しますから、その自治体にお金が落ちます。つまりその地域独自のスポーツをコンテンツ化してワーケーションすれば、「地方創生」と「働き方改革」のふたつの社会課題を解決することにも繋がります。ですから、いずれは日本全国でスポーツワーケーションを実施できればいいなと思っています」(佐藤氏)

ただ、スポーツワーケーションを個人で実施するのは、まだまだ日本では難しい。いきなり来週から野沢温泉村で仕事をしますと言っても、受け入れてくれる職場は少ないだろう。そこでまずは企業に働き方改革の一環として導入して欲しいと佐藤氏。野沢温泉村では、後継者のいない旅館や空き家などをスポーツワーケーション用にシェアハウスとして利用するといったことも検討しているという。これは日本全国で問題となっている、空き家問題の解決策にもなるかもしれない。スポーツを通してさまざまな可能性が広がりそうだ。


佐藤氏は実証実験などで野沢温泉村を訪れた際、村の人たちが温かく迎えてくれたことが印象的だったと言う。何度も通ううちに共同浴場や飲食店で顔見知りになった人と挨拶や世間話をするようになり、まるで自分の故郷にかえってきたような安心感を得ることができたのだそうだ。そうした、温かな人と人との繋がりもウェルビーイングを高める重要な要素なのかもしれない。野沢温泉村のウェルビーイングビレッジ、今後の展開に注目したい。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:野沢温泉村観光協会/野沢温泉スキー場

アフターコロナの新しい働き方!? 野沢温泉村のウェルビーイングビレッジでスポーツワーケーションを

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