SC軽井沢クラブが挑む「子どもの体験格差」解消。大切にするのは「大人の価値観を押し付けない」こと
軽井沢で活動しているスポーツコミュニティ軽井沢(SC軽井沢クラブ)は、カーリングの強豪としてよく知られているスポーツクラブだ。一方で、競技活動以外でも、“軽井沢こども未来基金”を立ち上げ、子どもの体験格差をなくすため、困難な状況にある子どもたちにスポーツと文化芸術に触れる機会提供を行う活動を行っている。どんな活動なのか、同クラブの真山嘉昭氏にお話を伺った。
子どもたちのために、各所と協力し活動

SC軽井沢クラブは、軽井沢で地域スポーツクラブを運営するNPO法人だ。カーリングチームを運営していることでも知られる。子どもを対象としたスポーツスクールを運営していたことが、“軽井沢こども未来基金”への取り組みに繋がっていったと語るのは、同クラブの理事の真山氏だ。
「子ども向けのスクールを始めて20年ほどになりますが、親御さんが送迎ができなくなったとか、会費を払うのが難しいといった理由で(スクールを)辞めるケースがこのところ増えてきました。貧富の差が広がり社会が二極化しているということはよく耳にしますが、確かにその通りだと実感するにつれ、スポーツが富裕層のみができるものになりかねないという危機感が募ってきました。そういう状況に少しでも歯止めをかけるため、子どもたちにスポーツ、文化・芸術の体験機会を持ってもらえるように“軽井沢こども未来基金”を立ち上げました」
SC軽井沢クラブが子どもたちのためにまず取り組んだのが、児童養護施設の子どもたちを対象とした、クラブへの送迎バスの運行だった。軽井沢という土地柄、観光用のバスはあっても、子どもの活動する時間帯の便は少ないという課題があったからだ。しかし、ここで意外な反応に戸惑うことになる。子どもたちが送迎車に乗りたくないと言うのだ。
「公的な資金を利用して送迎車を購入すると、車には“○○募金”などというように、恵まれない子どもたちへの援助だとわかるような、提供元の名前がペイントされています。そんな送迎車に乗っているところを見られると、自分たちは人から助けてもらわなければいけない存在だと周囲から見られてしまうからと、乗車を嫌がるのです。
この声からわかるように、子どもも親御さんも、困っている実情を知られたくないという思いが強くあります。そのため、支援の手があってもその手をとれなかったりして、行政も貧困のリアルな状況を把握しづらくなっています。それで私たちは、「知られたくない」という思いがある貧困状態にある方々も安心して活動できるよう、行政だけに頼るのではなく自分たちでスポンサーを募ることにしました。“軽井沢こども未来基金”は多くのスポンサーや、アスリートの方々の力で成り立っています」
子どもたちの体験格差をなくす3つのサポート

“軽井沢こども未来基金”による子どもたちへの支援の柱のひとつは、上述の“コミュニティバス”。現在は、児童養護施設の子どもたちの送迎だけではなく、町内の小学校と運動施設を結ぶ路線バスとしても機能している。そのほか、“放課後スポーツ文化プログラム”と“体験イベント”をあわせた3つを中心に取り組んでいる。
軽井沢こども未来基金の3つの支援
①コミュニティバス(路線バス)の運行
②放課後スポーツ文化プログラム
③体験イベント
「一つ目の路線バスは平日16時から19時まで、親御さんが送迎するのが難しい子どもなど、誰でも使ってもらっていいものです。二つ目は、SC軽井沢クラブや町内団体が運営しているスイミング、サッカー、ダンス、バスケットボール、空手などのスポーツプログラムに加え、地域で行われている将棋道場などへの参加費を支援するのが“放課後プログラム”。そして三つ目の“体験イベント”とは、毎年1回著名なアスリートに来てもらって、子どもたちがスポーツに触れ合う機会を持つ“軽井沢スポーツ祭”を開催しています。今年は5月に第2回目を行いましたが、好評でした」
アスリートと触れあった子どもに大きな変化が

“軽井沢こども未来基金”の目的には、子どもの“心と身体を健やかにし「生きる力」を育成すること”とある。具体的にスポーツのどのような側面が、子どもの心身の健康に役立つと考えているのだろうか。
「スポーツには、技術を磨いてトップを目指すという側面もあれば、レクリエーション的な効用もあると思います。SC軽井沢クラブには両方ありますが、時代的に求められているのは後者でしょう。今の子どもたちは大人に管理されていて、自由に遊ぶ時間というのがほとんどありません。すると周囲とのコミュニケーションの仕方を学ぶ機会がなく、ストレスは溜まるし、心理的な成長も望めません。しかし、日常的にスポーツに触れることができれば、体力も付くし、対人関係もだんだんうまくなっていくと思います。毎日通っている学校のクラスメイト以外の子どもたちや大人と出会うことにより、違うコミュニティ、第三の居場所ができるのです。スポーツで得た経験や場所は、子どもが将来生きていく上で、大きなお守りになるのではないでしょうか」
真山氏がバスで送迎していた子どもたちの中には、心に傷を負っているのではと、傍目にも気になってしまう子がいた。普段、バスを乗り降りするときに一切声をかけてこなかったその子が、“軽井沢スポーツ祭”でアスリートたちとふれ合った後、急に挨拶をしてくれるようになったのだという。
「一人ひとりの子どもたちとふれ合ってくれた、アスリートのエネルギーのすごさを感じた瞬間でしたね。アスリートの方々は、軽井沢に来るとまず児童養護施設を訪問するのですが、そこで『子どもたちがどんどん変わっていくのを目の当たりにして、エネルギーをもらった』という声もありました。普段はあまり一緒になることのない、違う種目のアスリートと交われるのも面白い機会だとも言っていただいています。一方的に与えるのではなく、このようにお互いに与え合うような関係が根付いていくと良いなと思います」
子どもに大人の価値観を押しつけない

“軽井沢こども未来基金”が立ち上がって間もなく4年になる。学校には行きたくないけれども、ここには来たいという子どもも少なくないという。自分の居場所があるということ、皆と一緒に身体を動かすのは楽しいと感じられること。それらが子どもたちに力を与えている。
「私たちは指導者ではありますが、自らの価値観を押しつけることだけは絶対にするまいと思っています。そもそも教育が、私たちが子どもの頃と今では全く違っています。何が面白いか何が面白くないかという価値観も異なります。ですから私たちは、むしろ子どもたちに教えてもらうつもりで、どんなことをすればみんなが楽しめるのかを彼らとキャッチボールしながら作っていくようにしています」
児童養護施設の子どもたちのためを思って始めたバスの送迎も、最初は予想外の拒絶を受けた。良かれと考えたことが、必ずしも相手のためにならないことは少なくない。
「私自身、色眼鏡をかけて子どもたちを見ているところはありました。“かわいそうな子どもたち”として見る目が、彼らを傷つけてしまう。可哀想かどうかを、大人が勝手に決めるべきではありません。また、児童福祉施設にいる子に限らず、地域の子どもたちすべてに向けて支援を行うと、お母さんにとっては夕方の家事の時間に余裕を持つことにもつながります。それがひいては地域全体の余裕にもつながり、コミュニティとしての結びつきの強化を得られたのではないかと思っています」
2021年の国民生活基礎調査に基づく、相対的に貧困の状態にある子どもの割合は11.5%、特にひとり親世帯の貧困率は44.5%と高い。子どもの貧富の格差は、将来の日本の格差でもある。その分断の溝を埋め、人々に余裕を与え温かなコミュニティを作っていくためにスポーツの果たす力は大きい。SC軽井沢クラブの取り組みは、そうした課題解決のヒントになるのではないだろうか。
text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
写真提供:軽井沢こども未来基金






