ゴールボール アジアパシフィック選手権、今年最大の戦いで日本代表は男女ともにメダル獲得!

ゴールボール アジアパシフィック選手権、今年最大の戦いで日本代表は男女ともにメダル獲得!
2019.12.23.MON 公開

東京2020パラリンピックまであと259日となった12月10日、「2019 IBSA ゴールボール アジアパシフィック選手権大会」の会場となった千葉ポートアリーナは歓声に沸いた。この日、行われた決勝戦と3位決定戦で、日本の男女代表チームはともに勝利を収め、男子チームは銅メダル、女子チームは3大会連続となる金メダルを獲得したのだ。

女子は大会3連覇を達成し、東京パラリンピックっでの金メダル奪還に弾みをつけた

~女子代表~ 中国を破り3連覇を達成!

女子代表チームの決勝戦の相手となったのは、前日まで5日間に渡って開催された予選で唯一破れている中国。日本にとって長年のライバルであり、世界ランキングでも格上に位置付けられる相手だ。しかし、試合の流れは開始早々から日本チームに傾く。ライトのキャプテンの天摩由貴が対角線を狙うクロスに打ったグラウンダーのボールが、中国チームのゴールに吸い込まれる。開始13秒での先取点という、これ以上ないかたちでスタートを切った。

決勝戦で先制点を決めるなど活躍したキャプテンの天摩

その後も、中国の猛攻に対して日本チームのサーチが冴える。サーチとは、目視ができない中で相手の足音や鈴の音に耳を澄ませ、どこからボールが来るのかを探る技術。ゴールボールでは、コートを横に9分割し、位置を番号で呼ぶが、相手チームがボールを持った瞬間から日本チームの3人は「3!」「4から来るよ」というように互いに声をかけ合い、コースを読む。彼女たちの声に耳を澄ませていると、そのサーチの正確さに驚かされる。番号で呼ばれた位置は、寸分違わずに実際に相手チームのボールがある位置なのだ。

そして、ボールが投げられると、ギリギリまで引きつけてから体をコートに投げ出すようにしてディフェンスをする。ボールの出どころがわかったとしても、狙ってくるコースや球種まではわからない。コートを転がるグラウンダーボールなのか、バウンドするボールなのかも鈴の音を聞き分けて判断し、ディフェンス時の体勢を使い分けるのだ。

ディフェンスの要となるセンターを務めた高橋理恵子。身長は157cmと小柄だが豊富な運動量でゴールを守る

オフェンス面でも日本チームの戦術は多層的だ。ボールを持った選手と同時に持っていない選手も走って、ショットの出どころをわかりにくくしたり、ウイングが位置を変える際に、センターが軽く手拍子や声を出し、移動時の足音を消す工夫が健在だ。

また、狙うコースも、相手センターの右側にボールを集めて意識をそちらに向けておいてから左側を狙う、あるいはクロスを投げておいてライン際のストレートを狙うなど、緻密に計算されている。日本はその戦術がハマり、3分過ぎにはレフトの欠端瑛子がライン際ギリギリのストレートにショットを放ち、追加点を奪う。欠端は「ライン際のコースは狙っていた」と試合後に語ったが、そのコースを狙うためにその前にはセンター側に強いバウンドボールを何本か続けて投げ、意識を中央寄りに集めておいてから本来の狙っていたコースに投げる戦術にも注目しておきたいところだ。

パワフルなショットが持ち味の欠端だが、そのショットの裏には緻密な戦術がある

だが、中国もこのままでは終わらない。前半残り3分20秒でポイントゲッターのシュー・ミンヤオが中央に放ったパワフルなショットを高橋が弾き、両ウイングがフォローに駆け込むものの、こぼれたボールがゴールラインを割ってしまう。得点2-1と追い上げられた状態で日本チームはハーフタイムを迎えた。

後半は中国チームの猛攻がさらに勢いを増す。ディフェンスの要であるセンターも、ボールをキャッチすると積極的にショットを打ってくる。市川喬一ヘッドコーチ(HC)も試合後に「あれはデータになかった動き」と語ったように、普段は攻撃に加わらないセンターも駆り出すほど、中国チームも本気で勝ちに来ているということだろう。

これに対して日本チームのベンチも動く。効果的にタイムアウトを取り、中国チームを勢いに乗らせない。また、中国チームがウイングにバウンドボールの得意なワン・ツェンホァを投入してきたタイミングで、欠端を下げバウンドボールのディフェンスが上手い若杉遙を入れるなど選手交代も的確。そして、どちらも得点のないまま迎えた後半終了間際には、再びタイムアウトを取り、時間をしっかり確認する。攻撃側はボールを10秒以内に投げなければならないルールだが、残り時間は5.5秒。再開後、3選手は声を合わせて「1、2、3、4……」と数え、最後は若杉がボールを投げたところで試合終了の笛を聞いた。

世界ランキングで日本は4位に対して中国は2位と、格上に位置付けられる相手だ

試合後、市川HCは「前半から欠端を入れた攻撃的な布陣で行く作戦で、2点取るところまでは作戦通り。2-0で勝てると思っていたので、1点取られたのは計算外だったが、その後もよく守ってくれた」と試合を振り返る。東京パラリンピックに向けた選手選考については「全員が良いところを出してくれたので、非常に悩ましい。うれしい悲鳴ですが」と語り、パラリンピックでのメダル獲得にも手応えを掴んでいる様子。ロンドン大会以来の金メダルを獲る姿が、来年は見られるかもしれない。

体格に優れるオーストラリア選手の攻撃力も日本の脅威だ

~男子~ 価値のある銅メダル!

前日の準決勝で惜しくもイランチームに破れ、大会初制覇の夢は崩れてしまった男子チームは3位決定戦で韓国チームと対戦。予選では勝利しているチームだが、試合開始1分で2点を許し、いきなりのビハインドとなってしまう。しかし、江黒直樹HCが試合後に「今のチームには取り返す力があるとわかっていた」と語ったように、チームは動揺を見せない。そして冷静にコースを狙ったショットを投げ続ける。レフトの金子和也とライトの山口凌河が位置を変えながらの攻撃を見せるなど、バリエーションも多彩だ。

サウスポーの金子。今大会ではライン際を狙った好ショットも見せた

そして、前半の4分30秒にサウスポーの金子が放ったライン際を狙ったバウンドボールが韓国のゴールネットを揺らす。その1分後には山口がクロスに放ったショットで同点に持ち込むと、その後も金子と山口が2点ずつを奪い、終了間際に韓国に3点目を許したものの、6-3のリードで前半を折り返す。一度得点が入ると、同じコースに逆サイドのウイングもショットを放つなど、冷静な攻撃が光った。

後半に入っても日本チームの勢いは衰えない。ライトは山口から佐野優人に交代したが、その佐野も4分過ぎには得点を奪う。直前のショットで相手のディフェンスがボールを弾き出し、ベンチから「今のチャンス」と声がかかったコースを正確にトレースしての得点だった。バウンドボールとグラウンダー、クロスとストレートを使い分ける金子は後半にも3得点をあげる。残り5分で宮食行次と交代したものの、その宮食も試合終了の笛と同時に韓国ネットを揺らし(残念ながら得点は認められなかった)、終わってみれば11-5の大差で勝利し、銅メダルを獲得した。

強豪チームの反撃の芽を摘んだ田口侑治

「序盤は緊張があったが、金子、山口の両ウイングが早いタイミングで得点してくれたのがよかった」と試合を振り返った江黒HC。「今まで積み上げてきた成果を発揮でき、その上の課題も見えてきた。アジアチャンピオンになって東京パラリンピックを迎えるという夢は破れてしまったが、来年はさらにパワーアップした姿を見せたい」と東京パラリンピックに向けて抱負を語った。

男子の決勝戦では中国がイランを相手に1得点も許さず、10-0のコールドゲームで圧勝。優勝チームに与えられる東京パラリンピックの出場権を獲得した。予選も含め、今大会は全勝で日程を終えており、来年のパラリンピック本番でも日本チームの強力なライバルとなるのは間違いないだろう。

イランは手足の長さを活かした攻撃力が武器
【2019 IBSA ゴールボール アジアパシフィック選手権大会 in 千葉 リザルト】

女子:
1位 日本
2位 中国
3位 韓国
4位 オーストラリア
5位 タイ
6位 インドネシア

男子:
1位 中国
2位 イラン
3位 日本
4位 韓国
5位 タイ
6位 オーストラリア
7位 インドネシア

なお、12月22日、日本ゴールボール協会より東京パラリンピックの日本代表第一次内定選手が発表された。残りの選手も3月までに内定、発表される予定。

text by TEAM A
photo by Yoshio Kato

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