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渋谷発!話題のお土産「シブヤフォント」

渋谷発!話題のお土産「シブヤフォント」
2020.02.07.FRI 公開

いよいよ今年は東京オリンピック・パラリンピックで、日本各地から、そして海外からも多くの人が来日する。そこで今回、都市開発によってさらなる変化を遂げている流行の発信地、渋谷から生まれた話題のお土産「シブヤフォント」に注目してみた。

ポップでカラフルな注目の渋谷土産

渋谷再開発事業の一環として注目を集める47階建ての大規模複合施設「渋谷スクランブルスクエア」が2019年11月にオープンした。このビルの目玉でもある展望台「渋谷スカイ」のお土産ショップ「SHIBUYA SKY SOUVENIR SHOP」に、渋谷で生まれたポップなお土産が売られているのをご存じだろうか。
たとえば渋谷を象徴するスクランブル交差点や、ディープな円山町エリアをイメージしたポップでユーモアあふれるイラスト、文字を使ったタンブラーやタオルなど。渋谷ならではのデザインが魅力的なラインナップだ。

実はこの商品に使われている文字やイラストは、渋谷で暮らし、働く、障がいのある方たちが描いた文字や数字を、渋谷で学ぶ学生がフォントとしてデザインしたもの。渋谷区が生み出した「シブヤフォント」というパブリックデータで、個人ならば専用サイトからダウンロードして無料で使うこともできる。

この新しい試みで誕生したデザイン性の高いパブリックデータは、お土産の枠を超え、建物の常設サインやホテルのルームキーホルダーのデザインに採用されたり、2019年にグッドデザイン賞を受賞したりと、デザイン界からも注目を浴びている。

斬新なコラボによって生まれた「シブヤフォント」

こんなに楽しいフォントが、いったいどのようにして生まれたのか、その誕生秘話を「シブヤフォント」のディレクションを手がける磯村歩さん(株式会社フクフクプラス 代表取締役)に伺った。

――「シブヤフォント」はどういうきっかけで誕生したのですか?

最初は渋谷区長の長谷部さんが「渋谷区のお土産を作りたい」と、区役所内のいろいろな部署に声をかけたところから始まりました。その企画に手をあげたのが、障がい者福祉課だったそうです。障がい者福祉課の方たちには、渋谷のお土産を作ると同時に、障がいのある人たちの工賃向上を目指したい、さらに、できれば地域と連携したものづくりをしたいという思いがありました。 ちょうどその頃、私は渋谷区にある専門学校(桑沢デザイン研究所)で「福祉施設のものづくり」をテーマに講師をやっていたので、障がい者福祉課の方から声をかけていただき、学生と区内の福祉施設とをつなげるかたちで、2016年にこのプロジェクトがスタートしたんです。

――お土産ではなく、なぜフォントを先に作ろうと思ったのでしょうか?

最初、8人の学生に頼んでいくつかのアイデアを出してもらうことにしました。そのディスカッションの中で、ある学生が「文字」を扱ってみたいと言ったので「じゃあ、こういう風にしてみたら」という風に私もアドバイスをしたりして、コミュニケーションをとるうちに、フォントを作るというアイデアが生まれたんです。

計画開始から数カ月後の選考会では、3Dプリンターを使ったもの、機織りや紙すきなどの手工芸の世界のアイデアもあったんですが、最終的に障がいのある人の書いた文字をフォント化するという発想が選ばれました。
施設にいる方たちの障がいの程度はさまざまです。その中でものづくりをする場合、みんなが共通してできることは何だろうと考えたとき、文字を書いたり、絵を描いたりすることならできそうだということがありました。また、フォントというデータ形式なら、渋谷にある企業と将来的にコラボレーションできるかもしれないというのも大きな魅力のひとつでした。
そんな風にして、渋谷区と区内の福祉施設、そして選考会に参加してくれた方々の思いが一致してできたのが「シブヤフォント」です。

(写真提供:シブヤフォント)

――具体的に「シブヤフォント」はどのように活用されていますか?

まず1年目は3種類のフォントを作り、専用のサイトから無料ダウンロードできるようにしました。ちょうどその年、渋谷区がクールビズ推進の一環として、渋谷区内に本社があるアパレルブランド「ビームス」の協力のもと、区の職員のユニフォームとしてポロシャツを作ったんです。その胸に付ける「SHIBUYA CITY」というロゴに、「シブヤフォント」が使われました。

ただ、最初の目的は渋谷区のお土産を作ることでしたから、2年目からは、フォント以外にグラフィックパターンを作り、渋谷区にある企業にご協力いただいて、お土産の試作品を作りはじめました。そして3年目にようやく渋谷ヒカリエで2週間限定のポップアップショップを開いてテストマーケティングを実施。準備したタオルが完売するなど、売上目標の140%といういい結果を残すことができました。

現在は、渋谷スクランブルスクエアの展望スポット「渋谷スカイ」のお土産ショップで販売中。(写真提供:シブヤフォント)

――その時の皆さんの反応はどうでしたか?

文字や絵を書いてくれた皆さんは、最初は自分たちが何をやっているのか、いまひとつピンと来ていなかったと思います。でも、ヒカリエのポップアップショップで、自分たちが関わったものをお客様が買うのを見て、やっとイメージが具体的になったようです。本人だけでなく、親御さんたちも喜んでくださいましたし、私たち運営側もやっと形になったなという実感がわきました。

実はこの企画でフォントが採用されたとき、関係者の間でも「お土産を作るはずだったよね?」という類の議論があったんです。当然ですよね。ですから具体的に形のあるものが生まれるまでは、何をやっているんだろうと怪訝な目で見られることもあって、企画をした障がい者福祉課の方たちはもどかしかったと思います。でも、みんなで決めて、みんなでこのフォントの持つ可能性に賭けようという思いが、「シブヤフォント」を育てたんだと思います。

障がい者アート×プロの目で、“買いたくなるモノ” へと昇華

――「シブヤフォント」はどのようにして作られているんですか?

まず、渋谷区のそれぞれの施設で定期的にアート活動を行うことにしました。「アートをやりたい人はいませんか」と呼び掛けて、集まってくれた人たちに文字や絵を書いてもらうんです。毎回人数は違いますが、だいたい8~9の施設で、あわせて20~30人の障がいのある人が参加しています。彼らが書いた文字などを、ボランティアの学生がデザインを担当し、フォントやグラフィックパターンにしていきます。

(写真提供:シブヤフォント)

今までも、障がいのある方がアートを商品化するという試みはあったと思います。でも、その多くが「Top of 障がい者アーティスト」つまり特別な才能を持った人でないと、注目してもらえなかった。ところが、僕もデザイナーなのでわかるのですが、デザイナーというのは、コピーライターやフォトグラファー、イラストレーターなどと共同で作品を作っていきます。「シブヤフォント」は、そのイラストレーターのポジションが障がいのある人に変わっただけのこと。彼らが書いた文字やイラストの大きさを変えたり、レイアウトを変えたり、色をつけたりして、デザインするという通常の業務と何も変わらない。「Top of 障がい者アーティスト」がいなくても、買いたくなる商品を作ることはできるということに、改めて気づかされました。

左:アルファベットの原画。右:原画を元に、学生のデザインによってフォント化されたもの。(写真提供:シブヤフォント)

――つまりこれはボランティア活動ではなく、きちんとした商業活動だということですね?

そうです。施設の方からすれば、Aさんの作品は商品になったのに、Bさんの作品はなかなか採用されないと思うこともあるようなんです。でも、いいものを作らなければお客様は買ってくれない。買ってもらえなければ結果として施設にも還元されません。それに、私は全ての作品を平等に採用するというのは、本当にいいものを生み出している人に対する不平等だと思うんです。ですから「シブヤフォント」では、プロの目で、客観的に見ていい文字やイラストを使うということを、施設の方にもご理解いただいています。

その代わりというわけではないですが、施設で行っているアート活動に、2年目からライラ・カセムさんという、グラフィックデザイナーに参加してもらいました。彼女はアートで障がい者の自立を目指すという活動をしている方で、福祉施設で創作活動の支援などを行っています。たとえば障がいに合わせてペンの持ち方や種類を変えるだけで発色が急によくなったりすることがあります。

そうやって、福祉施設におけるアート活動のボトムアップをはかることで、作品自体のクオリティを上げています。今年度は、デザイナーが何も加工しなくてもそのまま使えると思えるような作品も出てきていて、私たちも驚いたり、刺激を受けたりしています。

(写真提供:シブヤフォント)

学生デザイナーたちの反応は?

このインタビューの後、桑沢デザイン研究所の学生と磯村さんが「シブヤフォント」の打ち合わせをするというので、少し同席させていただきお話を伺った。

「障がいのある人と、これまで接点がなかったので未知の世界でした。でも実際に関わってみると、みんな温かい人ばかりですし、アートを介して通じ合えることがいっぱいありました。自分にはない新鮮な発想に触れることができたり、着眼点の素晴らしさに驚かされることがたくさんあったりして、とても勉強になっています」と、デザイナーとしてボランティアに参加している齋藤さん。

そして自身も障がいを持ちながらデザイナーとして参加している藤倉さんは「人との関わり合いの温かさを感じられること、その関わりの中でどんどんデザインが変化していくのが、素敵で面白いなと思います。また、学校の勉強だけではなかなか実感できなかった買う人の視点、商品の魅力とは何かといったことを考えるきっかけができました」と、「シブヤフォント」の魅力について語ってくれた。

渋谷を飛び出し、次のステージへと羽ばたく「シブヤフォント」

こうして徐々に広がりを見せている「シブヤフォント」だが、2020年にはポップアップショップの他、渋谷区のスポーツ施設や保養所などの一画でグッズの販売を行う予定があるそう。また、すでにいくつかの企業や渋谷区以外の自治体から問い合わせがきていて、コラボ商品を作る話も進んでいるのだとか。

渋谷から生まれた「障がいのある人が書いた文字をフォント化する」という概念が、多くの人の手によって形あるものになり、渋谷を飛び出して世界へ羽ばたこうとしている。「シブヤフォント」の持つ可能性がこれからも広がっていくことを期待したい。


【シブヤフォント メンバー】
ストライドクラブ、はぁとぴあ原宿、福祉作業所おかし屋ぱれっと/工房ぱれっと、福祉作業所ふれんど、ホープ就労支援センター渋谷 アトリエ福花、むつみ工房、ワークささはた、ワークセンターひかわ、のぞみ作業所、ライラ・カセム、株式会社渋谷サービス公社、専門学校桑沢デザイン研究所、株式会社フクフクプラス、渋谷区

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
photo by Tomohiko Tagawa

渋谷発!話題のお土産「シブヤフォント」

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