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Eテレプロデューサーが明かす、今、子どもたちにとって本当に必要な教育とは?

Eテレプロデューサーが明かす、今、子どもたちにとって本当に必要な教育とは?
2020.03.05.THU 公開

未来の社会は今、大人でさえも見通しがつかない。人口減少や高齢化、技術革新、加速する情報化にグローバル化と、さまざまな変化の波が押し寄せ、これからは日本だけでなく、世界全体が大きく転換していくであろうことは間違いない。そんな予測困難な社会に踏み出す子どもたちのために、親にできることはただ1つ、教育である。そこで、NHKで子ども向けの哲学番組『Q~こどものための哲学』や<NHK>2020応援ソングプロジェクト『パプリカ』を手がけるプロデューサーの佐藤正和さんに、これからの未来を生き抜く子どもたちのために、私たち大人が今やっておくべき教育について話を伺った。

どんな状況下でも前進できるよう、“自分で考えて答えを導き出す”すべを授けたい

『Q~こどものための哲学」は、NHKで制作された子ども向けの哲学番組。小学3年生の少年Qくんがふだんの生活の中で抱く不満や願望に、ぬいぐるみのチッチがなぜ?と問いかけ、対話しながら深く深く考え、自分なりの答えを探す。

―――昨今、様々な教育法が取り上げられる中、佐藤さんは「哲学」に着目した番組『Q~こどものための哲学』を制作されていますが、 どのような考えから、生まれたのですか?

佐藤正和さん(以下、佐藤):教育とは、教えて育てると書きますが、では何を教えるべきか?と考えたときに、まず子どもたちが大人になったときの社会がどうあるべきかの理想を描くことが前提なんですね。そこから逆算して、今何を教えるべきかを検討するものだと思っているんです。そう考えたときに、今の世の中からは未来のあるべき社会の姿がなかなか見えてこない。いろいろな不確定要素があり、関わる人もグローバルになり、情報の波にもまれながら、自分をどうコントロールしていくと生きやすくハッピーになれるのか、大人自身にもわからない時代です。大人が正解を出せない状況のなかで、子どもたちに何を教えるのかは、非常に難しい。

ただ、答えを出すことはできないけれど、答えを探し出すすべは一緒に考えられるのかなと。そのすべとは何かと考えたときに、いろいろなものを問い直すことで、あらたな価値を見出す力を子どもに授けられたらと思いました。いろいろ検討するなかで、哲学のメソッドがそれにぴったりハマったのです。

―――「哲学」と聞くと難しそうなイメージですが、子どもにとってどんな点がよいのでしょうか?

佐藤:哲学と言っても、偉大な哲学者の教えについて勉強する、といったことではなく、一つのテーマについて、みんなで問い、掘り下げていくプロセスになります。それはある意味、とてもピースフルなコミュニケーションなんです。

たとえば、話し合いにもいくつかあり、国会で行われるような討議は、あらかじめ自分の中に正解がある。相手を説得して理解させる、または、ときには言い負かそうとすることも。それをやっているうちは物事がなかなか前に進まず、ぶつかり合いしか生まれないと思うのです。

―――確かにそうですね。哲学における対話にはどんな違いがありますか?

佐藤:対話は、お互いに答えがない状態で、みんなで深い海の底にもぐっていって光を求めるような作業なので、答えのない問いについて、子どもたちがみんなで考えるときのメソッドとして非常に適していると思います。なぜ、なぜ、なぜを3回繰り返すだけで、かなり本質的なところに行きつきます。そして、見つけた本質は、思想や立場などとは関係なく、みんなで「そうだよね」と納得できる解となることが多いのです。相手の考えを否定するのではなく、一度受け入れ、そこからさらに議論を深めていく。そういったプロセスを共有することは、子どもたちにとって互いに自由に意見を述べる建設的な話し合いのベースを育むことに繋がると思います。

―――大人が答えを出せない未来において、そういった時代を生き抜くすべを見つける策の1つとして、対話があるのでは、ということですね。

佐藤:今の時代は判断の基準になるものさしがたくさんあるので、それらを取っ払ったところで対話するという経験や訓練は、非常に意味があると思っています。これからは、みんなで協力して考えないと解決しない問題ばかり。対話のメソッドをもっていれば、自分だけでなく、まわりも納得する答えを導き出して問題を解決していけるだろうし、新しい価値や仕組みを創造できるのではと思っています。

情報化社会が“考える機会”を奪っている!? 今、子どもたちに必要なのは、対話力、思考力を育むこと

NHKのチーフプロデューサー。『ピタゴラスイッチ』『デザインあ』『u&i』など、数々の教育番組を担当。日本全国、世代を越えて親しまれる曲『パプリカ』が話題の<NHK>2020応援ソングプロジェクトも手がけている。

―――対話によって、思考力を鍛えることも番組の狙いなのですね。

佐藤:テレビもその一端を担っていますが、今は情報がたくさんありすぎて、人を考えなくさせていると思います。スマホで調べれば答えがすぐに出てくる。いきなりマニュアルがポンと出てきて、その通りに動けばいい。自分で考えながら試行錯誤しながら答えにたどり着くことがないので、思考力を鍛えるプロセスがないのです。情報化社会に育つ子どもたちは、便利な環境がゆえにそういう機会を圧倒的に奪われてしまっている。対話は思考力を育みます。対話をする場を作ることで、腰を据えて自分の頭でじっくり考える機会をたくさん作れたらと思い、『Q~こどものための哲学』を制作しました。番組を通して、子どもたちに深く考えることのおもしろさを知ってもらえたら嬉しいですね。

―――対話は子どもたちにとって、他にもメリットはあるでしょうか?

佐藤:対話によって、自然と仲間意識、つまり連帯感が生まれることですね。私自身が感じていることでもありますが、以前、番組制作のために取材で哲学カフェやワークショップに参加してみたんです。そこでは自己紹介のときに決めたニックネーム以外、参加者の背景を何も知らないまま、その日のお題をみんなで考えます。会社名や役職を言えば、何かしらの先入観や偏見が生まれてしまう。そういうものは取っ払って話すんです。

人は初めて会う人に対して、第一印象で、この人とは合わなさそうと感じることもあるかと思いますが、哲学のワークショップでは1時間の対話で同じ解を求めるうちに、仲間意識が芽生えるんです。合わなさそうと思った感覚もいつの間にか消えていて、年齢や服装、最初は目についたクセなども全然気にならなくなり、すごく仲良くなれる。対話によってどんな人ともフラットに繋がれる体験は、多様性が必要とされるこれからの社会を生きる子どもたちにとって大きなカギになると思いました。

―――対話という共同作業のなかで、区別意識がなくなるのですね。属性とは関係なく、ひとりの人間として、自然とお互いを認めることができる。子どものうちにそういう体験をたくさん積ませたいですね。

番組内で最後にQくんが、問いに対して「ぼくの今のところの答え」と言うシーンがありますが、これはどういうことでしょう?

佐藤:大人の討論を聞くにつけ、自分の意見をガンとして曲げず、折り合いがつかずに延々と堂々巡りをしている。こだわりをなくせば、もっと柔軟に話ができるのにと思います。人は生きていれば、いろいろなものに影響されて変わる。だから、極端な話、昨日と今日で意見が変わったっていいんです。子どもたちに「意見は変わっていいんだよ」ということを伝えたかったので、Qくんのセリフは「今のところの答え」としました。

―――小さな頃からそういった教育がされていれば、大人になっても柔軟に対応できそうですね。

大事なのは、「聞く力」。聞く→知る→認め合うは、人間のコミュニケーションの普遍のルール

身体障がいや発達障がいなど、困難がある子どもの特性を知ることで、多様性への理解を深める子ども番組「u&i」。「困った」を抱える子どもの心の声を妖精たちが橋渡し役となり、どうすればよいか考える力を育む。佐藤さんはD&Iをテーマにした教育番組も手がけている。

―――対話を通してさまざまな人の考えを知ることは、いま世の中が推進しているD&I(※)社会に重なる部分があると思いますが、佐藤さんのお考えはいかがでしょう?
※D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)= ダイバーシティとは多様性、インクルージョンとは包括・包含の意。マジョリティ(多数派)やマイノリティ(少数派)を区別せず、あらゆる全ての人を含んだものの見方や考え。

佐藤:多様性を受け入れるD&I社会へと進むには、まず知ること、知ろうとすることから始まり、何を言うかより、どう聞くかのほうが大事だと思います。相手のことがわかると大抵のことは許せるというか、相手を理解すれば発言の意図をくみ取れ、やみくもに否定することもない。「あなたの立場なら、そう思うよね」と納得できる部分も出てくる。相手を知ろうとしないで、あなたは私とは違う!となると、対立しか生まれないし、そこには差別が生まれるかもしれない。シンプルに話を聞くことが知ることにつながり、受容することにも繋がるのだと思います。

ビジネスの世界では「1 on 1ミーティング」という、上司と部下が1対1の面談を行うという人事制度に注目が集まっていて、大手企業が取り入れ、職場の空気がよくなり、仕事の成果も上がったといいます。NHKでも導入が始まっていますが、そこで大事なのが、上司は何か言いたいことがあったとしても、まず部下の話を聞くこと。話すほうは受容されて心が安定するし、聞く・聞いてもらう時間そのものに価値があり、連帯感が生まれる。そのうえで、課題や業務の進捗状況などについても話し合います。

―――おもしろい取り組みですね。「聞くこと」で理解が深まり、連帯感が生まれていい変化が起きる。親子の間でもそういう時間をもちたいですね。私には子どもがいるのですが、忙しいとじっくり子どもの話を聞く時間がもてず、今のお話を聞いて少し反省しています。

佐藤:じっくり話す時間、ゆっくり考える時間、そういう時間はあえて作らない限り、今の時代はなかなか難しいですよね。『Q~こどものための哲学』の中でも、シンキングタイムを40秒とっているんです。この時間は考える時間。放送している間だけでも考えてみてねという意図です。

相手を知れば、自然と友だちに。子どもの適応能力&スピードは驚くほどすごい!

<NHK>2020応援ソングプロジェクトの曲「パプリカ」を歌うこどもユニットFoorin(フーリン)は、2019年のNHK紅白歌合戦にも登場し、話題に。「パプリカ」は、子どもからお年寄りまでみんなが歌い踊れる曲として、たくさんの人たちに愛されている。

―――佐藤さんは<NHK>2020応援ソングプロジェクト『パプリカ』のプロデュースも担当されていますね。多様な子どもたちが一緒にバンドを組んで演奏するFoorin楽団。あれは、まさしくD&Iな視点の企画だと思いますが、子どもたちならではの可能性、変化などはありましたか?

佐藤:『パプリカ』を歌う小中学生の音楽ユニットFoorin(フーリン)と、病気や障がいのある子たちでバンドを組み、Foorin楽団としてイベントを行いました。子どもたちは病気や障がいのことを知らないだけで、知ると普通に友だちになれるんです。

例えば今回は、目が見えない子がいて、コミュニケーションのとり方がわからず最初は戸惑う子も多かったのですが、「とにかくみんなで遊ぼう!」というお題を1つ与えて、どうしたらいいかを考えようと。そうすると子どもたちは、目が見えない子と一緒に遊ぶためにどうしたらいいかをやりながら考え、特別なルールを設けたりして落としどころを見つけていく。そういうチューニングする力が子どもにはもともと備わっていて、その適応スピードが速いのです。

また、Foorinメンバーのたけるくんは脳性まひの車いすの男の子と組んで、パーカッションを担当したのですが、相手の子はたけるくんの声は聞こえていて、理解はしているけれども話せない。そこで彼らは「今、しんどい、しんどくない、どっち?」など、確認するために指を握らせる、といった独自の方法を考えてコミュニケーションをとるように。同じく耳の聞こえない女の子とペアを組んだFoorinメンバーのもえのちゃんは、その子と話したいから会うたびにどんどん手話を覚えて、3ヵ月後にはふつうに手話で会話していました。

―――子どもたちに秘められた可能性は、すごいですね。相手を知るとぐっと距離が近くなり、普通に友だちになれるし、状況に合わせて工夫もできるなんて! 

佐藤:Foorin楽団がうまくいったのは、共通の目的、それも短期間で結果を出す設定にしたからです。みんなで作る舞台の日にちが決まっていて、みんなで成功させることがミッション。それを達成できたときに、「一緒にできた! 仲間だ!」という経験値が作れたのだと思います。

いろいろな人と繋がることが連帯感を生み、社会が変わる第一歩に!

―――教育に関わるプロデューサーとして、佐藤さんがこれから目指すことについて教えてください。

佐藤:いま社会がどんどんパーソナルになっていて、自分以外の人に対して無関心になっているので、その意識を変えたいですね。いろいろな人と交わって相手のことを知れば、連帯感が生まれるし、新しい価値観にも出会える。健常者と障がい者だけでなく、日本人と外国人、若い人と高齢者など、さまざまな組み合わせが考えられますが、いろいろな人と繋がれる場を作り、社会の可能性を広げることが、公共放送としてできることじゃないかなと思っています。


先の見えない未来を生きる子どもたちに必要なのは、対話力と思考力。でも、それだけではいけない。これからさらにグローバル化が進む社会では、いろいろな人と手を携えて問題を解決することになる。多様な人々と繋がり、お互いを認め合うD&Iな視点、柔軟な発想力も子どものうちから育みたいものだ。

PROFILE 佐藤正和
日本放送協会 制作局〈第1制作ユニット〉教育・次世代チーフ・プロデューサー。1975年、東京都生まれ。1996年NHK入局。『デザインあ』、『Q~こどものための哲学』、『u&i(ゆーあんどあい)』などの番組制作、<NHK>2020応援ソングプロジェクト『パプリカ』などを担当。グッドデザイン賞、ADC賞、プリ・ジュネス賞、放送界のピュリッツァー賞とも呼ばれるピーボディ賞など、国内外で受賞多数。

『Q~こどものための哲学』:https://www.nhk.or.jp/sougou/q/

<NHK>2020応援ソングプロジェクト:https://sports.nhk.or.jp/dream/song/

text by Makiko Yasui(Parasapo Lab)
photo by Takeshi Sasaki

Eテレプロデューサーが明かす、今、子どもたちにとって本当に必要な教育とは?

『Eテレプロデューサーが明かす、今、子どもたちにとって本当に必要な教育とは?』