砧公園にある未来の公園『みんなのひろば』全貌公開!【後編】

砧公園にある未来の公園『みんなのひろば』全貌公開!【後編】
2020.06.12.FRI 公開

現在、東京都は多様な子どもたちが共に遊び、楽しむことのできる遊具広場の整備に取り組んでいる。その第一号として、今年3月、都立砧公園に『みんなのひろば』がオープンした。日本では数少ないユニバーサルデザイン(※)を取り入れた遊び場として、全国の地方自治体や障がい当事者の家族からも注目を集めている『みんなのひろば』の全貌を徹底取材。【未来の公園ってどんな公園? 日本の公園が今、大きく変わろうとしている<前編> 】で話を伺った、東京都議会議員の龍円愛梨さんと『みーんなの公園プロジェクト』の矢藤洋子さんにも感想を聞いた。

※ユニバーサルデザインとは、性別、年齢、文化、障がいの有無や度合いなどを問わずに利用できるデザインのこと

多様性を身近に感じる、新しい出会いの場にしてほしい

『みんなのひろば』を訪れた東京都議会議員の龍円愛梨さんと息子のニコちゃん。

2018年に都議会の一般質問で、龍円愛梨さんがインクルーシブ公園の必要性を訴えたことがきっかけで、都立公園の整備がスタート。まず選ばれたのは、東京23区の中でも指折りの敷地面積を誇る砧公園。公園内に、野鳥の様子を観察できるバードサンクチュアリやスポーツ施設、美術館、レストランなどもあり、一日中楽しめるスポットとして地域の人々から愛されている砧公園の一角、約3200㎡が『みんなのひろば』として生まれ変わった。

「モデルケースになる公園がないため、障がいのあるお子さんの保護者、団体、ユニバーサルデザインの有識者など、さまざまな方々にヒアリングを行い、皆様のご意見を踏まえて整備を進めました」と語るのは、東京都東部公園緑地事務所工事課の竹内智子さん。
みーんなの公園プロジェクトが作成したガイドブック『すべての子どもに遊びを』(萌文社)や、環境デザイナー仙田満氏の著書『こどものあそび環境』(筑摩書房)も参考にしたという。

「『みんなのひろば』は、誰でもみんなが楽しく遊べる広場を目指しました。“誰でも”とは、障がいだけでなく、世代、国籍、文化、身体の力、考え方、感じ方などが違う、いろんな人たちすべてです」(竹内さん)

この“誰でも”に対するこだわりは、遊具以外からも感じることができる。

左上/ケガや事故のリスクを減らすため、地面はクッション性に優れたゴムチップ舗装、アスファルト部分は滑りにくい樹脂系舗装を採用。これらの境界にはほとんど段差がなく、車いすやバギーもスムーズに移動できるようになっている。右上/臥位が楽な人や赤ん坊のために、寝そべることができる幅広のベンチを設置。日除けがあるため、陽が高い時間帯も落ち着いて休める。左下/車いすユーザーも一緒にテーブルを囲める設計。右下/広場全体を白いフェンスで囲い、子どもの急な飛び出しや動物の侵入などを防ぐ。

上記以外にも、広場へつながる駐車場や歩道をアクセシブルに改修した他、公園内のトイレには手すりやユニバーサルシートなどを設置し、多くの人が気持ちよく利用できるよう整備。入り口には、『みんなのひろば』がどんな公園であるかをわかりやすく説明したリーフレットを置いている。

「『みんなのひろば』が、子どもにとっても大人にとっても多様性を身近に感じる新しい出会いの場になるよう願っています」(竹内さん)

砧公園で誰もが楽しめるように。こだわり抜かれた遊具の数々

早速『みんなのひろば』に設置されたユニバーサルデザインの遊具すべてをご紹介! 遊具の多くは視認性の高い色を使っているが、広場全体を落ち着いたトーンにすることで視覚への刺激を抑えている点にも、是非注目して欲しい。

①船型遊具「みらい号」

広場のシンボル的存在。車いす同士でも難なくすれ違える幅広のスロープがついており、車いすや歩行器のまま上ることができる。さらに、滑り台の前には段差を設け、車いすから滑り台に乗り移りやすくなるよう工夫。デッキに白黒の板を配置し、色弱の場合も段差が視認しやすくしている。滑り台は二人で一緒に滑れる広さ。(3〜12歳向け)

②複合遊具

車いすや歩行器のままトップデッキまで上がることが可能。スロープの合間に広めのデッキが設けられているので、方向転換やすれ違いもスムーズに行える。介助者が車いすを抱えて下せる幅の広い階段あり。(3〜12歳向け)

③大型ブランコ

3種類のブランコを設置。一般的なブランコの他、背もたれと安全バーで体をしっかりと支えることができるアメリカ製のイス型ブランコや寝転がったり友だちと一緒に乗ったりできる皿型ブランコがある。(6〜12歳向け)

④回転遊具「ぐるぐるマウンテン」

みんなで乗って回したり回してもらったりする遊具(対荷重300kg)。大きな凹みにもたれて座れるので、体を支える力が弱い子でも回転を楽しむことができる。(6〜12歳向け)

⑤楽器遊具

ペダルを押すと音が鳴る遊具。(青/3~6歳向け、緑/6〜12歳向け)

⑥スプリングシーソー

ドイツ製のシーソーは、二人で並んで座れるワイドな座面が特徴。中央の天板の上で横になって楽しむこともできる。(3〜6歳向け)

⑦シェルター遊具「きりかぶ」

かくれんぼをしたり窓から景色を眺めたり。騒がしい環境が苦手な子や興奮を落ち着かせたい子は休憩場所として活用できる。

⑧迷路

あちこちに触って遊べる仕掛けがついた迷路。視覚に障がいのある子は、鳥のあしあとを辿ってゴールを目指す。車いすも通行可能。(3〜12歳向け)

⑨おはなしフラワー(伝声管)

友だちや家族とひそひそ話を楽しんだり、はじめましてのお友だちに挨拶してみたり。どこにつながっているかわからないのでワクワク感がある。(3〜6歳向け)

これら9つの遊具を誰でも楽しむことができるが、対象年齢や遊び方(事項)が設定されている遊具は目立つ場所に専用マークが貼られているので、利用する際は必ずチェックして安全に遊んでほしい。

『みんなのひろば』をモデルに、日本の公園が変わる!?

『みんなのひろば』初披露となったこの日、多くの子どもがオープン前からゲートの外で待機。ユニークな遊び場を前に目を輝かせながら、オープン時間を待っていた。そして、ゲートが開くと同時に多様な子どもたちが広場内に流れ込み、思い思いの楽しみ方で新しい公園を満喫。小さなお子さんに手を引かれながら複合遊具に上るお母さん、友だちと一緒に並んで滑り台を滑る子どもたち、船型遊具のトップデッキから公園を見回す車いすの女の子…。公園中に、インクルーシブな光景が広がっていた。

そんな中、龍円さんは『みんなのひろば』でとても印象的な光景を目にしたそう。

「杖を使っている女の子が、ブランコに乗った瞬間、目を輝かせて、大きな声で笑いながらすごく嬉しそうにしていたんです。その様子を見ているだけでも込み上げるものがあったのですが、その時、私の後ろにいた男の子が自分のお母さんに『このブランコは障がいのある子のためのブランコなの?』と質問している声が聞こえてきたんです。お母さんは『ここはどんな子も一緒に遊べる公園だから、みんながブランコに乗れるんだよ』と。そんな会話が生まれる公園になって欲しいと思っていたので本当に感激しました」(龍円さん)

龍円さんは、これをきっかけにインクルーシブ公園が増えることを目論んでいるという。

「遠方にインクルーシブ公園がひとつできたところで、日々遊べるわけではありません。それぞれの地域の中で、スペシャルニーズのある子、ない子が日々混ざり合って遊べる環境を整え、インクルーシブな社会をつくることを目指します」(龍円さん)

『みーんなの公園プロジェクト』の矢藤洋子さんも「『みんなのひろば』は今の日本にとって貴重なモデルケース。ここをひとつの出発点として、公園をつくる人たちと使う側の多様な人たちの対話が進めば、日本の公園はもっともっとよくなるはず」と期待をふくらませた。

だが、自分たちの住む地域にインクルーシブ公園やユニバーサルデザインの遊具がほしいと感じたら、どうすればいいのだろうか。

「まずは、当事者の切実なニーズを発信することが大切。自治体や議会に掛け合う、子育てグループやNPOと協力して仲間を募る、メディアやSNSなどで発信するなど、どんな方法でも訴え続けたら理解してくださる方や一緒にやろうと言ってくださる方が必ず現れると思います」(矢藤さん)

東京都豊島区に新設される都市公園には、市民団体の要望でユニバーサルデザインの遊具が導入されることになった。また、海外では、地元の小さな新聞に『車いすの友人と一緒に遊べる公園をつくって欲しい』と小学生が投書したことで、インクルーシブな遊び場が整備された例もあるという。

「もし予算などの関係で、公園の大規模な改修やインクルーシブ公園の新設が難しい場合は、古い遊具を入れ替えるときに、4つあるブランコのうち1つを背もたれのあるイス型にすることを提案してみてください。たったそれだけでも、それまで公園に出かけられなかった子どもには大きな変化になると思いますよ」(矢藤さん)


今回話を伺った皆さんは「誰もが歓迎される公園、多様な子どもがいきいきと遊べる公園が、お互いを尊重し支え合う社会につながる」と口を揃える。子どもたちの未来のために教育よりも先に遊び場の環境を整えることが、ダイバーシティ&インクルーシジョンな社会の近道となるのかもしれない。

※砧公園『みんなのひろば』の利用については、東京都公園協会のホームページをご確認ください。
https://www.tokyo-park.or.jp/park/format/index004.html

text by Uiko Kurihara(Parasapo Lab)
photo by Tomohiko Tagawa

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