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生徒をとりこにする名物講師に学ぶ! 誰もが輝く社会になるたった1つの方法<後編>

生徒をとりこにする名物講師に学ぶ! 誰もが輝く社会になるたった1つの方法<後編>
2020.07.21.TUE 公開

車いすバスケットボール元日本代表の根木慎志氏は、「出会った人と友達になる」をモットーに、これまでの35年間で約3600の小・中・高等学校、特別支援学校など、延べ80万人の子どもたちに講演やパラスポーツの体験授業を行ってきた。前半のインタビューでは、「チャレンジしたことを認めて、褒めること」が、子どもの可能性を引き出すために重要だと教えてくれた根木氏。後編では、子どもたちはもちろん、私たち大人も含め人々がお互いを認め合うと、社会にどんな化学反応が起こるのか? について、根木氏が考える「友達」をキーワードに語ってもらった。

パラスポーツ体験型出前授業「あすチャレ!School」の講師としても、パラスポーツを題材に「人間のもつ可能性」について子どもたちに伝えている(写真は2016年7月に撮影したもの)

「出会った人と友達になる」に秘められたパワー

――根木さんがライフワークにしているという「出会った人と友達になる」にはどんな想いがあるのでしょうか?

根木:例えば、前編でお話した35年前の小学校での講演では、僕は車いすバスケットボールで子どもたちにシュートを見せようとしたけど、なかなか入らなかった。11本目でようやくゴールを決められた僕のことを子どもたちが「かっこいい!すごい!」と言って、こんな僕をワクワクしながら応援してくれた。そんなふうに人を認めて、応援することは、誰かのとても大きな勇気になると、この時気が付いたんです。そうお互い認め合える関係ってどうしたら作れるんだろうと考えた時に、とにかく「友達になること」が一番の近道だと思ったんですよ。

ちょっと話はそれるかもしれませんが、相手が友達かそうでないかが人の行動に与える影響の話をすると、日本人は道で困っている障がいのある人に出会っても、なかなか声をかけられないという話をよく聞きますよね。その理由をシャイだからとか、障がい者とどう接していいかわからないからと言う人がいますが、本当にそうなのかな?と思うんです。
たとえば信号待ちをしているときに、車いすの人が荷物をたくさん抱えて大変そうにしていたとします。信号が赤から青に変わったとき、あなたは車いすの人に対して何かリアクションを起こせますか、という質問をよく講演の中でするんです。だいたい三分の一くらいの人は手伝うと言ってくれますが、残りの三分の二の人は何もできないと答えます。

そこで、なぜ何もしないのかと理由を聞くと、「障がいがあるからといって、声をかけるのは失礼かもしれないから」「障がいのある人に、どう接したら良いのかわからないから」「過去に声をかけて、ほっといて欲しいと言われたから」という人が大半です。

では同じシチュエーションで、今度はたくさんの荷物を持っている人が、自分の会社の同僚や友達だったらどうかと聞くと、ほぼ全ての人が「声をかけて手伝う」と言うんですよ。同じ状況なのに、その違いって何なのかと聞くと、「知っているか、知らないかの違いだ」と答えるんです。車いすに乗っている人だから声をかけなかったのかというと、実はそうではなくて、知らない人にはなかなか声をかけられないだけ。みんな目の前にいる人が友達だったら、存在を認めて声をかけられるのに、そうじゃないから見て見ぬふりをしてしまうという単純なことなんですよ。

――確かに、出会う人みんなを友達だと思えれば、必要な時に自然とお互いを認めて支えあうことができますね。

アメリカでの小さな出会いから学んだ「自然に認め合う」こと

根木:友達になると言っても、すぐに深い信頼関係を誰もが築けるわけではないですよね。でも相手をごく自然に認めるというエピソードで言うと、僕はアメリカでとても素敵な体験をしたことがあります。

ある時、競技用の車いすを押しながら合宿所に向かう途中、信号待ちをしていたんです。そうしたら、地元の女性が突然話しかけてきて、「後ろを見て」って言うんですよね。何かと思ったら「とってもすごい夕焼けがあるから見て」と。それで振り返ったら、本当にとてもきれいな夕焼けがそこに広がっていたんです。僕が「うわーっ」て言ったら、「ね、きれいでしょ」と彼女が言うんです。その後、信号が青になったら彼女は当たり前のように、「向こうまで車いすを押してあげようか」って言ってくれた。だけど僕は「アスリートだから大丈夫だよ」って答えた。信号を渡り終えて、それぞれ反対方向に分かれるとき、彼女が「素敵な夕焼けだったね」ともう一度言うので、僕は英語が得意ではなかったけど「あなたも素敵ですよ」くらいは言えた。

その彼女は見ず知らずの僕の存在を認めて、夕焼けがきれいだっていうこと伝えようとした。そういう彼女だから自然に車いすを押そうか、と言える。それって素敵じゃないですか? 目の前にいる人を認めることも、困っている人を助けることも、本来は当たり前だし、めちゃめちゃ素敵なことなんですよね。

――日本ではそういったことがなかなかスムーズにできないですよね。なぜだと思いますか?

日本人は周りの人や一緒にいる友達から、「自分だけいい格好してる」と思われるんじゃないかとか「恥ずかしい」「勇気が出ない」という人が多い。でもよく考えたら、恥ずかしいってなに? 勇気ってなに? 困っている人に声をかけたら友達から「お前なにやってるんだよ」て、からかわれるんでしょうか? 実際、そんなことはないと思うんですよね。

欧米では、次に通る人のためにドアを開けて待っているというのが当たり前になってる。それはなぜかというと、困っている人を助けるのが当たり前だし、そうすることが素敵だと、みんなが認めている。素敵なことをすれば「快」を感じるから、またやろうと思う。
勉強もスポーツもそれと同じで、頑張って一生懸命やることが素晴らしいし、かっこいいし、素敵なこと。そのことを親や友達、周りの人が互いに認め合うことはすごく重要で、そうすることによって、誰もが頑張ってよかったと「快」を感じ、じゃあもうちょっとさらに頑張ろうって思えるんですよ。日本人は、そういう「快」を感じる体験が少なすぎるんじゃないかな、と思います。

相手の違いを認め合えば、みんなが輝く社会になる

根木:僕は事故で歩けなくなったことがわかった時に、どうやって生きていったらいいのか、何に生きる意味を見出したらよいのかと考えてしまっていたんですよね。それでも車いすバスケットボールを通して、僕を認めてくれる人と出会い、仲間との繋がりもできた。そして、子どもたちに「かっこいい」と言ってもらったことで「快」を感じたし、同時に僕にしかできないことがある、僕が最高に輝ける瞬間がある、ということに気づけたんです。だから、誰にでも輝ける瞬間があることを一生をかけて子どもたちに伝えようと思ったし、それには僕が輝いている姿を見せる必要があるから、絶対にパラリンピックに行ってやろうと思ったんです。出場まで16年もかかってしまったけど、そんなに頑張れたのは、人に認めてもらうことで自尊感情と自己効力感を持つことができたから。

気の合う友達といえども、人は性格も大切にしているものも、好みも悩みもみんな違います。でも、友達だったら相手の気持ちがわかるわけですよね。友達が楽しそうにしていたら自分も楽しいし、悲しそうにしていたら心配だし、自分も悲しい。友達が頑張っていたら応援する。人はみんな違いがあるけど、その違いを認め合えると、自分も輝けるし、相手を輝かせることもできる。今、世界でも国内でもダイバーシティ&インクルージョン(※)が推進されているけれど、これは全然難しいことではなくて、要はそういったお互いの違いを認め合っていこうよ、という話なんです。

だから僕は、子どもたちや社会にいる全ての人が、それぞれの個性を伸ばしたり輝かせるには、「出会った人と友達になる」ということがキーになるんじゃないか思うし、そのことをこれからも伝え続けていきたいと思っています。

※ダイバーシティ&インクルージョン(D&I):ダイバーシティとは多様性、インクルージョンとは包括・包含の意。マジョリティ(多数派)やマイノリティ(少数派)を区別せず、あらゆる全ての人を含んだものの見方や考え方。

根木氏は全国各地の学校を訪問し、日々友達の輪をひろげている(写真は2016年7月に撮影したもの)

ーーーー講演や体験会で根木氏と出会った多くの子どもたちは、親に「根木さんと友達になった」と話すという。ある時、そんな子どもの一人が「できないことがカッコ悪いと思って、やりたいことを諦めていたけれど、根木さんの話を聞いて、私も諦めずに一生懸命頑張ろうと思う」と感想文に書いてくれたそうだ。友達となった根木氏の活躍や言葉は、多くの子どもたちを勇気づけ、彼らの可能性を引き出している。「出会った人と友達になる」というメッセージの中には、世界中の人がみんな友達になって相手を認め合えることができたら、誰もが勇気を持ってチャレンジでき、輝ける社会になるという深い意味が込められているのだ。

この記事の<前編>はこちら↓
生徒をとりこにする名物講師が明かす! 子どもたちの可能性を引き出すヒント<前編>
https://www.parasapo.tokyo/topics/26892

PROFILE 根木慎志
奈良県出身。高校3年生の時、突然の交通事故で脊髄を損傷。以後、車いすでの生活となる。知人の勧めで車いすバスケットボールを始め、2000年シドニーパラリンピックでは男子車いすバスケットボール日本代表キャプテンを務める。現役時代から「出会った人と友達になる」というライフテーマをモットーに全国各地の小・中・高・特別支援学校等を訪れ、講演やパラスポーツ体験授業を行ってきた。これらの活動が評価され、2016年には、法務大臣表彰(ユニバーサル社会賞)を受賞。現在も東京2020パラリンピックを契機に「誰もが違いを認めて素敵に輝く世界」を目指して精力的に活動中。日本パラリンピック委員会運営委員も務める。


根木氏が講師を務めるパラスポーツ体験型出前授業「あすチャレ!School」の応募申込は公式HPより
https://www.parasapo.tokyo/asuchalle/school/
※2020年度第3次募集(2020年10月~12月実施分)の応募受付は2020年7月24日(金)まで

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
photo by Takeshi Sasaki

生徒をとりこにする名物講師に学ぶ! 誰もが輝く社会になるたった1つの方法<後編>

『生徒をとりこにする名物講師に学ぶ! 誰もが輝く社会になるたった1つの方法<後編>』