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アンドリュー・パーソンズIPC会長が語る、スポーツの未来に不可欠な三要素

アンドリュー・パーソンズIPC会長が語る、スポーツの未来に不可欠な三要素
2020.09.01.TUE 公開

※本記事は、国際パラリンピック委員会(IPC)公式ウェブサイトで2020年7月9日付に配信されたアンドリュー・パーソンズ会長のメッセージを翻訳し、掲載しています。

2019年12月31日、私は東京2020大会組織委員会のこんなメッセージをリツィートした。「2020年は私たちの年です」。この日は別の意味でも特別だ。武漢で発生した原因不明の肺炎が、世界保健機関の中国支局に初めて報告されたのがこの日だった。

この7ヵ月の出来事を見れば “新型コロナウイルス感染症、史上初のオリンピック・パラリンピック延期、金融危機、世界的な大規模抗議デモ” と、今年が誰の年でもないことは想像に難くない。

パラリンピックムーブメントにおいて、日常生活の問題にクリエイティブに対応することは今回が初めてではない。ここ数ヵ月にわたる皆さんとの協議の中で、スポーツイベントの未来が変わりつつあることがはっきりした。さらに言えば、IPCとパラリンピックムーブメントは、この先起こりうる出来事に対して、しっかり準備ができているとも確信している。

今はまだ2020年7月だが、今後10年の在り方を変え、スポーツや主要イベント、そして社会に大きな影響を及ぼしうる流れがすでに起きつつある。今回はそうした流れの中から3つにしぼってお伝えしよう。まずは変化だ。

1.変化を活用する

世界は今年のような急速かつ大きな変化を、これほどの短期間で経験したことは、いまだかつて一度もない。新型コロナウイルス感染症により、ほぼ一夜にして私たちの生活様式や日々の活動はがらりと変わってしまった。パンデミックがスポーツに対し、長期的にどんな変化をもたらすのかを予測するのは時期尚早だ。しかし、間違いなく刻々と変化する状況に、スポーツやスポーツイベントは順応していかなければならないだろう。

変化がここまで話題になっているのは、新型コロナウイルス感染症だけが要因ではない。Googleトレンドによると、「Change(変化)」というキーワードの検索数は15年前の3倍以上にのぼるという。

気候変動に歯止めをかけようと変化を促すグレタ・トゥンベリさんや、ジョージ・フロイドさん殺害事件後に世界中で起きたBlack Lives Matter運動など。世界をより良くしようという大きな波が、今この瞬間にも起きている。私たちはパンデミック後、以前よりも良い形で日常を取り戻し、よりインクルーシブで、環境に配慮され、持続可能で、互いを思いやれる社会を、ともに作っていかなくてはならない。変化がなければ、それらを実現することはできない。

2.確固たる目的意識をもつ

デジタルメディアのおかげで、ムーブメントを起こし、大義のもとに人々を団結させることは以前よりも容易になった。そうした理由から、私はこの先10年を左右する2つ目の流れは、すべてにおいて強い目的を持つことだと考えている。この10年間で、パーパス・ドリブン・マーケティングへ移行した。次の段階として、こうした動きをスポーツイベントへと転換していくのはごく自然な流れだろう。

同様に、企業はスポーツイベントをスポンサードする際、今後は単にロゴをあちこちに散りばめるだけではいかなくなるだろう。消費者がスポーツイベントに対し、迫力のあるスポーツ以上のものを求める時代がやってくると、私は思う。スポーツイベントにも、目的がなくてはならない。

スポーツと社会の関係がこれまで以上に急速な変化を迎えると同時に、消費者も大義を掲げる企業に徐々に賛同するようになりつつある。調査データを見てみよう。カンター・コンサルティングの調査によると、「高い目的意識を持った企業は過去12年間でブランド価値が175%上昇したのに対し、一般企業の平均成長率は86%。目的意識の低い企業の場合は70%だった。この先の未来に関して、ミレニアル世代・センテニアル世代のおよそ2/3が『独自の視点を持ち、何らかの大義を支持する企業』を好む、と回答している」

企業が目的意識を持つために、スポーツが企業に提供できることを再考しなければならないならば、スポーツイベントもまた然り。さもなければ、時代に取り残されてしまうだろう。今の世代が求めているのは、素晴らしいスポーツだけではない。彼らは持続可能性と説明責任も求めている。

3.ダイバーシティとインクルージョンの受容

最後の流れは、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包括・包含)だ。

近年の#MeToo運動や、ごく最近でいえば、かねてからの課題だった人種間の平等を求める世界的抗議活動をみれば、今の世の中ほどダイバーシティやインクルージョンと深く結びついている時代はないことがわかるだろう。

もはや現代社会は排他的ではありえない。共生、インクルージョンこそが未来だ。したがってスポーツ界もそれに倣い、スポーツがすべての人による、すべての人のためのものであるよう努めていかなくてはならない。

インクルージョンやダイバーシティといった時、人種や性別、セクシュアリティだけでなく、障がいも含まれる点は留意しておくべきだろう。世界10億人の障がい者が取り残されたり、忘れ去られたりすることのないようにしなければならない。こうした流れを念頭に置いた場合、パラスポーツを通してインクルーシブな世界の実現を目指す、という理念を掲げるIPCこそ適任だと私は信じている。

IPCは選手やスポーツイベントと協力して、世界での立ち位置と影響力を駆使しながら、障がいにまつわる偏見に立ち向かおうとしている。社会変革を推進して、すべての人々にとってインクルーシブな社会を確立したいと考えている。そして最終的には、スポーツを通して世界を変えていきたい。

パラリンピックやその他のスポーツイベントは、変革する力を秘めている。変化を起こし、確固たる有意義な目的を掲げ、共生社会を後押ししているイベントは他にないだろう。

パラリンピックは障がい者の卓越した能力を披露する場だ。彼らの存在が起爆剤となり、アクセシビリティに配慮した安全かつ公正な社会参画を促し、すべての人が運動を楽しめる真の共生社会が創生される。

私の言葉が嘘だと思うなら、実際に我々の活動がどんな変化をもたらしたか、いくつか例をご紹介しよう。

パラリンピックがもたらす変化

2008年の北京パラリンピック以前、中国は障がい者に関して評判が良いとは言えなかった。だがパラリンピックで一変した。2001年にパラリンピック開催地に決定してからというもの、中国は新たな法令を制定し、1億2400ユーロを投じて道路や交通拠点、公共施設など1万4000箇所の施設でアクセシビリティを徹底した。

中国同様、2014年の冬季パラリンピック開催地がソチに決定したことで、ロシア当局やロシア社会は、史上初めてインクルージョンの問題に着目し、すべての人がアクセスできる環境づくりに取りかかった。新たな法律が可決され、ソチ2014大会組織委員会はバリアフリーなインフラ整備を行い、会場のすべての設備にアクセシビリティを完備した。いまやソチは、アクセシビリティを目指すロシア200都市のお手本となっている。

東京もパラリンピックを迎える頃には、あらゆる人々が移動できるよう、すべての交通拠点でアクセシビリティが完備されていることだろう。

パラリンピックはアクセシビリティを改善するだけでなく、社会変革ももたらした。

2012年のロンドンパラリンピックでは3人に1人、つまり2000万人相当が障がいに対する意識を変えた。私の母国ブラジルでは国民の79%が、2016年のリオパラリンピックをきっかけに障がい者の見方が改善されたと答えた。

結果が伴わなければ、意識変革も意味がない。だが嬉しいかな、パラリンピックの成功は障がい者に大いなる機会を生み出した。

ロンドン大会から6年が経過した2018年、大会前と比べると就業中の障がい者の数は100万人増加したことが統計からもはっきりわかっている。

ブラジルでは、リオ大会終了後の障がい者の就職率は、開催地に決定した2009年当時と比べ、49%も増加した。 パラリンピックは「スポーツから変化を起こす」というモットーをまさに体現している。スポーツイベントがなかったら、こうした変化はどれひとつとして実現不可能だっただろう。

新型コロナウイルス感染症の影響で、先行きは不透明かもしれない。だがひとつだけ確かなのは、スポーツ界が今後も存続し、繁栄するためには変化を起こし、目的を掲げ、すべての人が参加できるインクルーシブな場でなくてはならないということだ。

今年は私たちの1年ではないかもしれないが、これからの10年は私たちの時代となるだろう。

※本記事(IPCニュース掲載)は、Major Events International主催の主要大会バーチャルサミットでParsons会長が行った基調演説に手を加えたものです。

IPC公式ウェブサイト:https://www.paralympic.org/

アンドリュー・パーソンズIPC会長が語る、スポーツの未来に不可欠な三要素

『アンドリュー・パーソンズIPC会長が語る、スポーツの未来に不可欠な三要素』