日本トップクラスの進学校で実施される特別授業とは? 子どもの世界を広げる、多種多様な出会い

日本トップクラスの進学校で実施される特別授業とは? 子どもの世界を広げる、多種多様な出会い
2021.06.08.TUE 公開

子どもを持つ親が、我が子には勉強やスポーツができてほしいと願うのは当然のこと。しかしそれと同時に、多様性のあるこれからの社会を生き抜くためには、広い視野と豊かな心も必要になってくる。そんなバランスの取れた人材を育てる教育を行っているのが、名実ともに日本トップクラスの進学校、灘中学校・高等学校(以下、灘校)だ。同校では、通常の授業の他に「総合的な探究の時間」の一環として選択制の「土曜講座」を行っている。子どもの世界を広げるという授業の内容とはどんなものなのだろうか? ある日の「土曜講座」を取材させていただいた。

意外な講師も登壇? 子どもの可能性を広げる土曜講座

灘校の「土曜講座」では、さまざまなジャンルのプロフェッショナルが講師を務めるが、その顔ぶれは実にユニークだ。たとえば、感染症の流行を制御するべく奮闘する理論研究者や、再生医療のプロなどといったアカデミックなジャンルから。あるいは、神戸でコーヒーを通してさまざまな社会貢献活動に取り組むコーヒー豆店のオーナーや、貧困や環境破壊など社会問題の解決を目指して社会起業した食堂のオーナーなど。日常生活の中では出会えないさまざまなバックグラウンドを持つ人たちと関わりを持たせ、広い視野を持つ機会を生徒たちに与えているのだ。

現役パラアスリートとの触れ合いが気づかせてくれたこと

積極的に質問にこたえる灘校生徒たち (提供:神戸市)

そして去る5月22日に、灘校の生徒たちが受講したのは「あすチャレ!ジュニアアカデミー」(日本財団パラリンピックサポートセンター主催)。このプログラムは、パラアスリートを中心とした講師によるレクチャーや対話を通して、共生社会の実現のために一人ひとりに何ができるのか考えるきっかけをつくるために2018年から行われているワークショップ型授業。この日は、コロナ禍ということもありオンラインでの開催となった。講師はパラ・パワーリフティング女子55キロ級の山本恵理選手が務め、灘校の中学2年生から高校2年生までの11人の生徒が参加した。

まずは自己紹介。山本選手に続き、参加した生徒たちがニックネームや特技など簡単な自己紹介をしてプログラムはスタート。山本選手は自身の障がいのこと、パワーリフティングに出会い、パラリンピックを目指すまでの経緯などをカメラの向こうの生徒たちに語って聞かせる。
生まれつき歩けなかったという山本選手の話に、最初は戸惑っていた生徒たちも、山本選手に自身のニックネームを呼ばれ、感想や意見を求められるうちに自ら手をあげて質問をするようになっていった。
そんな中、ある1人の生徒が「今まで他人にされて嬉しかったことはなんですか?」と質問した。そこで山本選手は、スーパーマーケットで買い物した時のエピソードを披露。それは山本選手が大好きな大葉を買いにいったときのことだ。大葉が高い場所にあって取れずに困っていたら、気づいた店員さんが近寄ってきて「何かお手伝いしましょうか」と声をかけてくれた。そこで大葉を取って欲しいとお願いすると、その店員さんは大葉をいくつも手に取り「どれがいいですか?」と選ばせてくれたと言うのだ。買い物をするときに選択肢があるという健常者にとっては当たり前のことが、車いすユーザーにとっては当たり前ではないということを生徒たちが初めて知った瞬間だった。

「あすチャレ!ジュニアアカデミー」で生徒たちが得たものとは?

この日講師を務めた山本恵理講師 Ⓒparasapo

「共生社会」という言葉の意味は知っていても、それを具体的にイメージするのは大人でも難しい。しかし、「あすチャレ!ジュニアアカデミー」のように、障がい当事者である山本選手と会話のキャッチボールをしながら、具体的な話を聞くことで、生徒たちは共生社会を作っていくのは自分たち一人ひとりの行動なのだということに気づくことができたようだ。その変化は受講後の生徒たちの感想を見てもわかる。

ある生徒は「障がい者、健常者にかかわらず、同じ選択肢を持てるような環境づくりが必要だと感じた」と社会課題についての意識が芽生えた。またある生徒は「『障がい者はできないことがある』じゃなくて、『できない人が出てくる仕組み』が作られてしまっているんじゃないか? 面白い視点で社会を見ることができて楽しかった」と、新たな気づきを得たと言う。また別の生徒は「できるか、できないかじゃなくて、どうやったらできるのか? という考え方を大切にしていきたいと思った」と決意を新たにした。

また、今回の講座開催を取りまとめた、神戸市文化スポーツ局国際スポーツ室の上山岳史さんは、授業に参加した感想を以下のように語ってくれた。
「講師の山本さんの軽妙なトーク、フレンドリーさが、最初は硬かった生徒の気持ちをほぐし、あっという間の90分でした。生徒たちはパラスポーツや障がいについて、知らないことには『なるほど』と驚きとともに素直に受け止めていましたが、それを各自が頭の中で咀嚼し、最後に記入してもらった感想等で、自身の今後の目標等に反映していました。
過去にも私は、本市における中学生を対象としたオンライン版『あすチャレ!ジュニアアカデミー』の様子を見学したことがありましたが、理解力や反応力の速さは、さすが灘校という印象を受けました」

灘校では「土曜講座」を実施するにあたり、生徒には「受動的」に話を聞くという姿勢ではなく、自ら問いを見出し課題を立てられるよう「能動的」に参加して欲しいと呼びかけている。そして、この経験を将来の進路を探ったり、自分の<世界>を広げたりすることに役立ててほしいというが、今回の「あすチャレ!ジュニアアカデミー」も、まさに生徒たちの世界を広げることになったようだ。


日本トップの進学校と聞くと勉強最優先のようなイメージを抱きがちだ。しかし実際は、ただただ受験のために学業に専念させるのでなく、生徒たちの世界を広げるため、人としての成長を促すため、さまざまな学びの機会が設けられていることがわかった。教育とはこれからの時代を生きる人材を育てること、すなわち未来を作ることだ。家庭での子育てにおいても、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちと関わる機会を増やすことで、子どもの世界、可能性を広げられるのではないだろうか。

↓「あすチャレ!ジュニアアカデミー」開催申込はこちらから
https://www.parasapo.tokyo/asuchalle/junioracademy/

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)

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