障がい者スポーツのボランティアをテーマにトークイベント開催

障がい者スポーツのボランティアをテーマにトークイベント開催
2018.02.19.MON 公開

ラグビーワールドカップや2020年の東京オリンピック・パラリンピックなどの国際大会開催も近づき、大会を支えるスポーツボランティアへの関心が高まっているなか、「誰もがスポーツを楽しむ共生社会に向けて」をテーマにしたトークイベントが1月27日、日本財団ビルで開催された。一般の人やスポーツボランティア関係者ら100人以上が参加した。

主催したのは日本スポーツボランティアネットワーク(JSVN)。スポーツボランティア文化の醸成を図り、全国のスポーツボランティア団体のネットワークの構築などを目的に2012年に創設された団体で、スポーツボランティアの養成や周知、啓発などを行う。

「スポーツボランティアサミット」もそのひとつで、創設以来、毎年開催しているが、「障がい者スポーツ」をテーマとするのは今回が初めて。渡邉一利JSVN理事長はサミットの冒頭で挨拶に立ち、「ボランティア活動として、障がい者スポーツをどうサポートするかといった知見はまだ不足している。障がい者のスポーツ環境づくりの現場にいる今回の登壇者の話を通じて現状を知り、今後の活動につなげてほしい」と参加者に向けて開会の意義を呼びかけた。

「障がい者スポーツの現状を知って」と渡邉氏

選手が笑顔になれるように……

基調講演は、自らもパラリンピック金メダリストであり、日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)に勤務するマセソン美季が務めた。体育教師を目指していた20歳のとき交通事故に遭い、車いす生活になって以降、スポーツ活動への復帰で以前の自分を取り戻し前向きになれた話や、競技生活や留学などによる海外体験で実感した、障がい者に対する考え方の日本と海外の違いなどを紹介。

テーマである「共生社会」については、一般には多くの人が手をつないでつくった輪の中心に障がい者がいて守られているイメージがあるが、障がい者も手をつなぐ側の一員であり、誰もが同じ場や時間、活動を共有できる社会であってほしいとマセソンは話した。

さらに、自身の経験を踏まえ、障がい者スポーツにボランティアとして関わる際は、障がいのある人の「できないこと」や「ネガティブな面」でなく、「できること」や「可能性」に目を向けてほしい、つまり、自分の中の障がい者に対する先入観や思い込みはせず、「助けてあげようでなく、一緒に何ができるかを考えてほしい」と語った。

さらに、「あの大会は楽しかった」、「あの国は居心地がいい」と記憶する際に、ボランティアの印象は大きな要素だったと自身の体験を振り返り、「選手が笑顔になれるよう、皆さんの行動や考え方も変わってほしい」と要望した。

カナダを拠点にするマセソンは海外との違いにも言及

関係者が考える重要なポイントは?

続いて、「障がいのある人が今よりも多く、スポーツをする環境をどうつくっていくか」「障がいのある人自身がスポーツを支える文化をどうつくっていくか」という2点をテーマにしたパネルディスカッションが笹川スポーツ財団スポーツ政策研究所主席研究員の澁谷茂樹氏をモデレーターに3人のパネリストにより行われた。

まず、2000年シドニーパラリンピックの車いすバスケットボール銅メダリストで、福島県障がい者スポーツ協会職員の増子恵美氏が、同県における障がい者スポーツ普及への取り組み事例などを紹介。「障がいのある人ほど、スポーツを知ることで人生が変わる例をたくさん見てきた」と、障がい者のスポーツの重要性を語り、「そうした活動を支えるのはボランティアとして関わる『人の力』であり、リーダー養成など種まきが大切」と強調した。

また、山梨県ボランティア・NPOセンター運営委員会副委員長などを務める長倉富貴氏は国際大会のボランティアや運営経験などを通し、「海外では障がいのある人もボランティアをするのが当たり前。一般に支えられる側と捉えがちだが、支える側にもなれる。バリアフリーや安全性など環境整備への視点とともに、個々の特性を認識した役割とのマッチングに配慮を」と提言した。

さらに、自身もアスリートであり、障がい当事者のスポーツボランティア実践者でもある、矢萩英樹氏が、東京マラソンでのボランティア経験談を披露。「車いすユーザーだったが、当たり前のように受け入れられた。できることは何だろうという視点で、どんどん活用していくべきであり、もっと多くの当事者に関わってほしいが、自分から手を挙げる人は少ないので、そういう機会をつくることが私の使命」と話した。

福島県障がい者スポーツ協会の増子氏(右)らによるパネルディスカッション

澁谷氏はこれからのスポーツボランティアには、活動の中で得た知見を広める役割もあると説き、「障がいの有無に限らず、支え合ってスポーツ文化を高めていくことが、これからのボランティアに求められるものではないか」とまとめ、パネルディスカッションは終了した。

また、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の傳夏樹氏が登壇し、同大会ボランティアに関する情報提供も行われた。今年9月中旬から募集開始を予定しており、障がい当事者も含め多様な人材が必要であること、準備として「競技観戦」の重要性なども強調。「一緒に働きましょう」と呼びかけた。

最後に、JSVN理事で文教大学准教授の二宮雅也氏が「人口が減少している日本だからこそ、一人ひとりの人的資源として価値が期待されている。今日の重要な気づきや新たな価値観を持ち帰り、2020年やその先も見据えたスポーツボランティア活動に活かしてほしい」と総括した。

今から関わって経験を自信に

大規模な国際大会も迫るなか、スポーツボランティアへの関心や期待はたしかに高まっている。だが、大会だけでなく、日常的な活動にも重要だ。とくに障がい者スポーツには競技パートナーやアシスタント、移動支援など多くの人の力を必要とする。今から関わることで経験も自信も増していき、2020年大会も含め、大会での活躍にも大いに自信にもなることだろう。

また、障がい者がボランティアとして関わることで、施設のバリアフリー化など障がいに関する自身の専門性も活かすことができるなど新たな視点も示された。参加者からは、「ふだんは接点がない障がいのある人について考える機会になった」、「声をかける勇気がもてた」などの感想も聞かれたが、パラリンピック開催には、「共生社会の構築」という究極の目的がある。今回のトークショーでは、スポーツボランティアという活動がそこに寄与できる可能性も感じられた。

text&photos by Kyoko Hoshino

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