32歳差の5人組、ボート(フォア)予選最下位も「愛」で勝つ!

32歳差の5人組、ボート(フォア)予選最下位も「愛」で勝つ!
2021.08.29.SUN 公開

東京2020パラリンピック4日目の8月27日、ボート競技・混合舵手つきフォア(運動機能障害・視覚障害PR3)の予選レースが行われ、日本は予選2組で最下位の6着となった。

初出場の喜びかみしめながら

記録は8分14秒09。隣で力強く漕いだ世界最速のイギリスには1分以上の差をつけられたが、ミックスゾーンに飛び込んできた5人の顔には、ほのかな笑顔が浮かんでいた。

漕ぎ手は、西岡利拡(49)、有安諒平(34)、八尾陽夏(24)、木村由(17)の4人。健常者の立田寛之(29)が、コックスとして舵取り役を務めた。

10代から40代まで年齢はバラバラ。有安と木村には視覚障がい、西岡には腕のマヒ、八尾には右半身の機能障がいがある。障がいの有無や種類、性別も異なる5人のクルーたち。5人の個性はそれぞれ異なるが、日本のフォアが初めてパラリンピック出場を果たした喜び、そして短期間で心を一つにできた喜びをかみしめていた。

(写真左から)コックスの立田、八尾、木村、西岡、有安

出場ピンチ! 17歳の木村が急遽メンバー入り

そもそも出場が奇跡のようだった。昨年11月、コロナ禍の影響でメンバーが一人離脱し、東京大会の出場に向かうチームを組めない難題に直面していたのだ。 日本ボート協会は急遽、メンバー探しに奔走。集まった選手候補の中で唯一エルゴメーターによる基準タイムを超え、今年2月に正式にメンバーに加わったのが東京都立文京盲学校に通う木村だった。

新クルーで海外の大会に初出場したのは、今年6月に開かれたイタリアでの世界最終予選。決勝で6位にとどまり、出場枠の獲得はならなかったが、7月上旬、推薦枠での東京パラリンピック出場権を与えられた。当時、有安はブログで「うれしくて涙が出てくる」とその喜びを投稿していた。

出場が決まると、メンバーの心はいっそう一つになった。とりわけ寝食をともにしたこの1カ月は、「一人ひとりが互いを愛し合っている関係」を生んだという。立田が「誇大表現だけど」と、照れくさそうに言った言葉だ。

この“愛”は、言い換えれば、お互いを思いやる気持ちなのだという。そのチームの形は、木村のこんな言葉にも表われている。

「たしかに私はまだまだ未熟で体力も劣る。でも、しっかりみんなが引っ張りあげてくれた。手を差し伸べてくれたから一緒に成長できたかな」

他のメンバーたちも、クルーを成り立たせてくれた“救世主”としての木村に、感謝の気持ちを忘れていなかった。だからこそ、初めてのパラリンピックにもかかわらず、レースではチーム力で「練習以上のスタートを切れた」(八尾)。中盤、向かい風に対応が求められる場面があったが、コールにみんなで素早く反応するという、あらかじめ決めておいたオペレーションは機能していた。

最下位だけど、最高の第一歩

歴史的でもあるパラリンピック初戦を経験し、有安は「これまで世界とは実力差を感じていましたが、距離感は確実に詰まっている」と手ごたえを得ている。そして、次回のパリ大会、その先のロス大会に向けて、「メダルに確実に手が届くチームを作りたい」と決意を語った。

八尾も「まだ初戦が終わったばかりだから早いんですけど」と断りながら、チームへの思いを口にした。

「このチームは、すごく優しいんです。私たちがやっているのはタイムレースなので、ときには厳しいことも言いますが、後で振り返ったとき、こういうこともあったねと言い合えるような。家族みたいって、こういうことなのかな」

クルーの心が一つになっている証だ。ミックスゾーンでは、選手それぞれから「今日の反省を明日、明後日のレースにつなげたい」といった声が聞かれ、前を見ていることがうかがえた。予選最下位という結果にも落ち込んではいない。輝くための第一歩を踏み出せたことが、何よりも価値があるのだ。

edited by TEAM A
text by Yoshimi Suzuki
photo by AFLO SPORT

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