義足の子どもたちにレガシーを。陸上競技・山本篤のパラリンピアンとしての使命

義足の子どもたちにレガシーを。陸上競技・山本篤のパラリンピアンとしての使命
2021.08.29.SUN 公開

義足のロングジャンパー・山本篤(T63)は、すでにベテランの域にいるパラアスリート。2008年北京大会、2016年リオ大会ではパラリンピックのメダルを手にしているが、今回の東京2020パラリンピックでは「最高のパフォーマンス」という目標を掲げて挑み、見事日本新記録を更新する大ジャンプを見せた。

金メダル以上の価値を求めて

多くのパラアスリートがメダル獲得を目標にするなか、インタビューで山本は「金メダルが目標とは口にしない」と語った。結果が報酬に大きくかかわるプロ選手であるにもかかわらず、である。「最高のパフォーマンスをして大きなインパクトを残す」。それが、最高の舞台で追及すべきことだと考えているからだ。

山本篤は義足アスリートの第一人者として日本のパラ陸上を牽引する存在
photo by AFLO SPORT

その言葉の背景には、東京パラリンピックのレガシーとして、義足を使用する子どもたちへスポーツをする機会を増やすという山本が抱える使命感を表している。

そして山本自身、2018年に第一子、7月には第二子が生まれたばかり。親になったことで、次世代へ貢献したいという気持ちはさらに強くなっていると以前語っていた。

「パラリンピックを見てスポーツをやりたいと思っても、今現在、義足の子どもが参加できる場所は限られている。東京パラリンピックはそんな環境を変える機会。自治体を巻き込んだ制度を作ることが必要」(2019年のインタビューより)

そのためにインパクトを残す。山本が金メダル以上の目標と口にする理由である。

オリンピックスタジアムで自己ベストのジャンプをした山本篤
photo by AFLO SPORT

義足の子どもの“走りたい”を支援

2020年9月、パラスポーツの普及に力を入れている静岡県は、静岡県障害者スポーツ協会とともに「ブレードランニングクリニック」を開催し、義足の子どもたちがブレード(競技用の義足)をつけてスポーツをする機会を設けた。イベントには義足アスリートも参加し、静岡県掛川市出身の山本もその一人として、子どもたちと交流し、「義足の子どもの身近にいる人が、日常用と競技用の義足のつけ替えができることも大事」と、義足装具士として保護者をはじめとした大人たちにもアドバイスを送った。さらには自治体の教育現場に競技用義足の導入も働きかけている。

山本の思いは2021年シーズンのユニフォームにも見て取れる。そこには、障がいのある子どもたちの支援を行う一般社団法人ハビリスジャパンのロゴがある。これは山本本人の強い希望によるパートナーシップ契約で、ロゴの掲載は無償。自分のパフォーマンスで子どもを応援するという山本の強いメッセージの表れだ。

胸にロゴを付けて大会に出場していた(写真はREADY STEADY TOKYOーパラ陸上競技)
photo by Getty Images Sport

パートナーシップを結んだことで、ハビリスジャパンが支援する子どもたちが、ZOOMなどで大会動画を共有しながら山本が競技する姿を見ており、「子どもたちが、自分も何かにチャレンジしたいっていう気持ちになってくれたら」と願うとともに、その事実が彼のモチベーションにもなっているそうだ。

そして29日、子どもたちの思いも胸に、オリンピックスタジアムでの決勝に臨んだ山本。無観客での開催となり、会場で直接その勇姿を見せることはできなかったが、5本目には自己ベストを更新する6m75をマーク。4位で今大会を終えた。山本は39歳だが、競技終了後には、「自己ベストが出たということは、まだまだ自分は伸びるということ」と現役続行を表明した。

さらに、競技の普及にも引き続き努めていく考えだ。10月には『ブレードアスリートアカデミー』(大阪)の開催を計画している。「(これは)東京大会を見て、自分もやってみたいという義足の人たちの受け皿をつくって、その中から本気で競技に取り組みたい人を発掘し、金銭面などの支援も行っていければ」と話し、競技人口の拡大と世界で戦えるトップ選手の支援に乗り出していくという。

アスリートとしての競技の追求と、障がいのある若年層への支援。二足の草鞋を履きながら、夢を追いかける山本の挑戦から今後も目が離せない。

text by TEAM A
key visual by AFLO SPORT

義足の子どもたちにレガシーを。陸上競技・山本篤のパラリンピアンとしての使命

『義足の子どもたちにレガシーを。陸上競技・山本篤のパラリンピアンとしての使命』