伝えたいことは「背中を見て」。射撃・日本代表選手たちが臨んだ大舞台

伝えたいことは「背中を見て」。射撃・日本代表選手たちが臨んだ大舞台
2021.09.03.FRI 公開

9月1日、陸上自衛隊朝霞訓練場にて、射撃10mエアライフル伏射60発の予選が開催された。日本は、SH1クラスに渡邊裕介佐々木大輔が、SH2クラスに水田光夏の3人が登場。ファイナル進出をかけて、初のパラリンピックの舞台に挑んだ。

渡邊は大会直前に日本代表に

射撃は、丸い標的を狙い撃つ競技。10発を1シリーズとして、6シリーズ60発の合計点を競い合う。1発の満点は10.9点。非常に精度の高さを求められる競技で、1発につき10点台を撃つのが基本。9点台はミスといってもいい。

その9点台を渡邊は、第1シリーズの1発目に撃った。

「ちょっと緊張して変なとこ行っちゃって」

結果、第1シリーズは102.3点。以降も、102点台から最高で105.1点と奮わず、最終的に623.0点で47人中45位となった。

「試射が良かったので、いけるぞなんて思ったのですが、最初の1発目にミスして、最後まで修正しきれなかった。1発1発をおろそかにしてしまったのが反省点。最高峰の舞台で言うことではないかもしれないが、いい勉強になった」

緊張を隠せなかった渡邊裕介

実は渡邊の出場が決まったのが、8月10日と超ギリギリ。渡邊自身も驚いたという。

「選考会で落選したので、パリに向けてフォームを変えている最中だった」

今回のファイナル進出ラインは、632.7点。自己ベストを撃てていれば、ファイナル進出の可能性はあったはずだ。しかし、本人は否定する。

「目標をパラリンピック『出場』にしていた結果だと思う。こういう場で一発逆転はない。常にファイナルにふさわしい点を出せる力が必要」

渡邊は東京2020パラリンピック最終日の5日、「自称、得意種目」(渡邊)の50mライフル伏射SH1予選にも出場する。

「課題は失敗したときのメンタルの修正。いろいろなケースを想定してプランを用意したい」

「欲が出た」佐々木は28位

一方、メンタル面での問題なかったというのは、佐々木だ。

「さすがに最初の20発は緊張したが、一旦銃を置いて水を飲み、射撃とは違うことを想像したり周りを見たりして気をそらすというルーティンを行った後、銃を持ったら、普段通りに戻った」

しかし、別の落とし穴があった。試射で最初に銃を構えた時点で、ポジションにずれを感じていたのだ。

「ほんの1㎜程度のわずかな差なのですが、いつもと違う。でも、そのまま試射をしたら当たったんです。ひょっとしたら、こっちの方がいいんじゃないかという欲が出た」

「いつもと違う」ポジションで戦った佐々木大輔

そのまま撃ち続けたところ、「ぼちぼち当たった」が、終わってみたら629.4点で28位。

「いつもと違うことをこんな大舞台でしちゃうなんて。欲をかいちゃいけないんですね。(今後、そのポジションは)やらない(笑)」

佐々木は元小学校教諭で、絵本作家でもある。小学校などで講演会も行っており、今回も子どもたちからのエールを力に初の大舞台に挑戦した。子どもたちに伝えたいことはと問われた佐々木は、30秒間沈黙。やっと声を絞り出し、「応援してくれてありがとう」と言うと、再び、30秒間沈黙。最後は目に涙を浮かべながら、

「言いたいことは背中に書いてあるから、背中を見てください。応援ありがとうございました」

調子は上向きだった水田、涙の理由は?

SH2の水田は、車いすに乗って射撃をするソメイティを描いたネイルと、ピンクや赤が入り混じる鮮やかなカラーのツインテールで登場。

「ソメイティの車いすと銃は、私のものと同じデザインなんです。ヘアカラーも今日に向けて少しずつ色落ちするようにしていただいて、毎日、手入れをするのが楽しかった」

ピンクのヘアカラーで気持ちを高めて大舞台に挑んだ水田光夏

試合でも練習と同じように力を発揮できるのが水田の強みである。試合当日の朝も、「選手村のバスに乗り遅れそうになるほど」リラックスした状態で会場入り。試合開始の直前まで、おしゃべりに興じていたという。

ところが、いざ試射が始まると、いつも通りとはいかなかった。

「なぜか弾が左に行ってしまって。その修正に時間がかかりました」

試合が始まり、第1シリーズまでは修正に費やした。途中、イライラしたが、ネイルを見ることで落ち着けたという。結果、第1シリーズこそ104.1点にとどまったが、第2シリーズでは106.2点と、水田が設定している最低ラインを超え、第3シリーズも105.6点と、上向きそうな気配を見せていた。

ところが、異変が水田を襲う。第3シリーズの35発目を撃った後、水田のそばにコーチが歩み寄る。審判と話したのち、水田は再び撃ち始めたが、第4シリーズで再びコーチが水田のもとへ。以後、水田はコーチから手渡されたハンカチのようなものをしきりに目に当てていた。

試合後、水田はこれを「呼吸管理ができなくなったため」と説明。

「昨年あたりから、試合中に呼吸が苦しくなることがあったため、酸素吸入をしながら試合に臨んでいたんです。でも、テストイベントで大会の運営側から指摘され、試合中の酸素吸入ができないことになった。今日も第4シリーズの途中から呼吸が苦しくなって。そうなると、勝手に涙がボロボロ出てしまうんです。射撃もただ流れるままに撃つだけで精一杯で、記憶もありません」

現在のところ原因がわからないというが、今後、酸素吸入が認められるよう申請し、認められない場合はできることを工夫したいと語った。

なお、水田は628.6点で36人中32位だった。今大会のファイナルへの進出ラインは、635.4点。いつも通りの状態で臨めれば、クリアできたであろう点数だ。

水田は日本のパラ射撃界の逸材。存分に力を発揮できる環境を整えて、ぜひ次の舞台に挑戦してほしい。

text by TEAM A
photo by AFLO SPORT

伝えたいことは「背中を見て」。射撃・日本代表選手たちが臨んだ大舞台

『伝えたいことは「背中を見て」。射撃・日本代表選手たちが臨んだ大舞台』