リオパラリンピック陸上競技の運営責任者・関 幸生に迫る

リオパラリンピック陸上競技の運営責任者・関 幸生に迫る
2018.08.31.FRI 公開

関 幸生は2008年頃からパラ陸上に関わる。国内外の大会で審判員をはじめ、日本に2人しか有資格者がいない国際審判員(ITO)を務め、最近は大会の競技責任者であるテクニカル・デリゲート(TD)を任されることもある。

国際審判員は、審判長の権限を持ち、競技中にルール違反がないか監督したり、抗議があった場合に判断する等の役割を担い、テクニカル・デリゲートはルールに則った安全な競技運営や環境づくりを行う責任者だ。

「立場上、選手やチームスタッフとは一定の距離感を保つようにしています」

公平な対応のために心がけている。だが、気持ちはいつも選手たちに寄り添っている。

関は選手として活動していた大学時代に、日本陸上競技連盟の公認審判員資格を取得。「縁の下の力持ち」の面白さに目覚めた。初めて関わった国際大会は、1991年に東京で行われた国際陸上競技連盟(IAAF)世界選手権で、以来、日本陸上競技連盟の職員として国内外の大会を支えている。

2007年、世界陸上大阪大会で公開種目だった車いすレースの運営に関わったところ、関の知識や経験がパラ陸上関係者の目に留まったことが縁で、翌年、パラ陸上の国際審判員資格も取得。大会に不可欠な役割のため、国内外を飛び回るようになる。その後、ロンドンパラリンピックではチーフ国際審判員を、リオパラリンピックではテクニカル・デリゲートを任された。国際陸上競技連盟の国際審判員でもある関は国際陸上競技連盟世界選手権でのテクニカル・デリゲートも経験している。国際陸上競技連盟と国際パラリンピック委員会(IPC)の両大会でテクニカル・デリゲートを経験しているのは世界でおそらく関だけだろう。

ルールはできないことを可能にするためのもの

パラ陸上のルールは国際陸上競技連盟ルールに準ずるが、パラ陸上ならではのルールもある。それは、障がいのある選手に何か援助を与えるためでなく、「できないことを可能にするため。ルールを少し工夫することで誰もが陸上を楽しめるようになる」という信念を持つ。

ただし、車いすレースやガイドを伴う視覚障がいクラスなど特有の種目も多く、「一般の陸上では起こりえない問題や難しさもある」と苦労を明かす。例えば、座位の投てき種目ではお尻が上がってはいけないというルールがあるが、「上がったかどうか」の判断は、審判各自の物差しに委ねられる部分も少なくない。

肝に据えるのは、「経験を重ね、自分なりの基準をつくり、ぶれないこと」。もし迷ったときは、「自身の思い込みでなく、ビデオ判定や他の審判員からも情報を得るなど広い視野も必要」という。

パラ陸上はルール改正も不定期で、頻度も比較的多い。競技性が上がっていることもあり、一般のルールでは想定外の事態も起こる。選手が公平に安全に競技できる環境を整えるためにルール改正は止むを得ないが、現場が追いつけないこともある。

関は最近、選手や指導者を対象にしたルール講習会で講師を務めることも増えている。ルールは選手の義務だけでなく、権利を守るもの。とくに日本には審判を神のように尊重する文化があるため、試合のなかの判定に首をかしげながらも諦めるケースも見られるという。抗議のタイミングなどルールを知ることで、選手は不利益を回避できることもある。そういう知識を伝えることも自分の役目だと自覚する。

やりがいを感じるのは、新記録誕生の瞬間と、その歓声が聞こえるときだ。縁の下の力持ちとして選手に快適な競技環境を提供できたことのひとつの証に思えるからだ。

「選手の高いパフォーマンスこそ、観客を喜ばせる。そこに少しでも関われているのかなと思うと嬉しいですね」

これまで関わった数ある大会の中で最も印象深いのは、ロンドンパラリンピックだという。8万人収容の陸上競技場は連日、ほぼ満員で、声援はスタンドが揺れるほどだった。しかも、スター選手の登場には熱狂し、視覚障がいクラスの種目は静かに見守るなど、「一人ひとりがパラ陸上をよく知った上で応援している姿に感動しました」。

2020年夏、新国立競技場にロンドンに負けない大歓声がこだますることを願い、関は世界中を奔走し続ける。

text by Kyoko Hoshino
Photo by X-1

リオパラリンピック陸上競技の運営責任者・関 幸生に迫る

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