メダルなしのパリ大会から8ヵ月。新体制で動き出したトライアスロンのパラチーム

メダルなしのパリ大会から8ヵ月。新体制で動き出したトライアスロンのパラチーム
2025.05.23.FRI 公開

5月17日に行われたワールドトライアスロンパラシリーズ(2025/横浜)。女子PTS2の秦由加子は、沿道で傘を差すファンからのハイタッチに笑顔で応じながら日本選手トップとなる2位でフィニッシュした。

「これからだなという気持ちでレースを終えました」

3位の保田明日美と競い合った充実感もあっただろう。降りしきる雨のなか、清々しい表情で振り返った。

パリでは涙を流した秦に笑顔が戻った

パリ2024パラリンピックでは9位。直後のインタビューエリアで、「こんなものなのかな」と声を絞り出した。当時は多くを語らなかったが、大会2ヵ月前に左肘を骨折した影響でピークを合わせられなかった。自分史上最高の状態で挑むことができなかった悔しさから「リベンジをする」と誓い、今年1月、固定していたワイヤーを抜く手術を経て、今回の横浜で2028年のロサンゼルス大会に向けてレース復帰した。

「スイムもバイクもランも、以前のところまでは戻せてきた感覚があった」と笑顔を見せた秦。

東京大会後はバイクを強化した秦

6月の海外レースで完全復活を目指す。

新戦力にも期待

トライアスロンがパラリンピック競技に採用されたリオ大会から日本チームの先頭を走ってきた秦に、頼もしい“後輩”も現れた。

陸上競技の大会にも出場している保田

同じカテゴリーの保田は、陸上競技の中距離を得意とする義足のランナー。自身初めてという雨のレースでは、バイクからランへのトランジション時に濡れたまま義足を装着してしまい、滑った影響からか終盤で転倒した。

前を行く秦をランで一度は追い抜いたものの、転倒後に抜かれてしまった保田。「足が動かなかった。単純に実力の差」と悔しさをのぞかせながらも潔かった。

オリンピアンの福井英郎ヘッドコーチも、期待を寄せるひとりだ。
「保田選手は、気持ちが強い。まだトライアスロンの経験が足りないが、1位のオーストラリア選手とも戦えるポテンシャルもある。秦選手と高め合うライバル関係も楽しみ」

「切磋琢磨していきたい」と話す秦(左)は、10歳年下の保田(右)の力強い走りを参考にしているという

スイムで先行する秦とランで巻き返す保田によるフィニッシュ前のデッドヒートが、今後のPTS2の見どころになるに違いない。

チームで戦う新体制に

4選手が出場したパリパラリンピックは、トライアスロン競技で3大会連続出場の木村潤平(PTWC)の8位が最高。これまで結果を残してきたチームも、パリではうまくいかず、2021年の東京パラリンピックで銀メダルの宇田秀生(PTS4)は12位、東京大会銅メダルの米岡聡(PTVI)は11位だった。

日本トライアスロン連合はパリ大会後、新体制を発足。オリ・パラの連携も注目されており、パラリンピックのナショナルチームには、オリの強化を担当してきた福井氏が就任した。

新体制がスタートし、「メダルをもう一度獲りにいく、というのを選手一人ひとりが感じてくれていると思う」と福井氏。2028年ロサンゼルス大会での金メダル獲得、2032年ブリスベン大会では全クラスに選手を送ることを目標に掲げている。

東京パラリンピックの陸上競技マラソン(T46)銅メダルの永田務は昨年トライアスロンに転向。スイム後、足を引きずって途中棄権した

福井氏が「チーム作りを重視してきたので、練習の強度や質はまだこれから」と話すなかで、今大会で自信を手にしたのは3位に上がった木村だ。

木村は言う。
「(車いすのPTWCでは)エンジンとなる自分の体をレベルアップさせていかないといけないが、同時にマシンもレベルアップさせなくてはならない。(今年から)バイクを新しくし、ランで(競技用レーサーの)ポジションを調整したが、チームの協力が大きかった。これまで個人で頑張るしかなかったメカニックを、日本チームとして強化していこうとなったことで、(マシンと自分の一体感が)もう少しステップアップしたらどうなんだろうという楽しみがあります」

「マシンと自分が噛み合い始めた」と話す木村

世界との差を痛感したパリ大会後、長い休息期間を経て競技を再開させた理由は、ポジティブなことがたくさんあり、次に向かって進んでみたいと思えたことだ、と木村は明かす。

新しい選手はもちろんのこと、ベテラン勢の可能性も感じる大会だった。

PTS4で5位の宇田秀生はロサンゼルスを目指すことを表明した
PTS4の谷真海は3位だった

text by Asuka Senaga
photo by X-1

『メダルなしのパリ大会から8ヵ月。新体制で動き出したトライアスロンのパラチーム』

メダルなしのパリ大会から8ヵ月。新体制で動き出したトライアスロンのパラチーム