選手自らがファンとともに貢献。多くの人に夢や希望を与える読売ジャイアンツの「G hands(ジーハンズ)」とは

先日、多くの人に惜しまれながら亡くなった元読売ジャイアンツの長嶋茂雄さんは、野球選手として一流であったのと同時に、ファンサービスにも力を注いでいたことで知られる。そんな長嶋さんが活躍したジャイアンツにはファン事業部という部署があり、その名の通りファンのためにさまざまな活動をしている。そして2015年からは「G hands」(ジーハンズ)という社会貢献プロジェクトを実施。グラウンドの外でも、ファンのみならず多くの人に夢や希望を与えている選手たちの活動について取材した。
「ファンと選手が手を取り合って支援」をコンセプトに
近年、企業の社会貢献活動は、社会的存在である企業の義務として定着しつつある。読売ジャイアンツも以前からさまざまな社会貢献に取り組んできたが、2015年に「ファンの方々と“手を取り合って支援の輪を広げていこう”」というコンセプトのもと「G hands」を立ち上げた。そして現在に至るまで、さまざまな社会貢献活動を行っている。

たとえば、リリーフとして活躍する大勢選手は、自身が幼いころ川崎病だったことから「川崎病支援プロジェクト」を今年3月から開始。プロジェクト第1弾として、大勢投手の過去の経験や川崎病の治療薬製造のためには献血がどれだけ重要かといったことを本人が語る動画が、日本赤十字社のYouTubeで公開された。

また、昨シーズンはチーム最多の154安打を記録した吉川尚輝選手は2022年から「シーズンの公式戦で記録した得点数と盗塁数の合計×1万円」を「こども宅食事業」を行っているNPO法人に寄付。「相対的貧困」の状態にあるとされている子どもたちにも夢を持って生きてほしいという思いからスタートしたという。
長野久義選手の発案で実施された能登復興支援

こうした活動を中心となって進めているのが、株式会社読売巨人軍ファン事業部、藤本健治さんだ。
「『G hands』の企画の多くは球団側から提案するのではなく、選手から『何か支援活動をやりたいんですが』とか、具体的に『こういう支援をしたいんですけど』と提案されることがほとんどです」(藤本さん)
実は藤本さん、読売巨人軍のOBでかつてはプロ野球選手として活躍していた。自身が現役だった頃と比べ、今は選手がファンのために何かをしたいという意識が、より具体化しているという。
「昔も今もファンあってのプロ野球ですが、正直言って昔は、プレー以外でファンの方々へ感謝を表現しようと考える選手は少なかったと思います。しかし最近の選手は自らファンのために何かしたい、こういう貢献がしたいと言ってくるんです」

「たとえば、2024年の1月に起きた能登地震の時も、7月に長野久義選手から『藤本さん、能登に行きませんか?』と相談されました。長野選手は熊本地震のときも若手選手に声をかけて、被災した子どもたちのために現地に行って運動会を実施したんです。能登でも同じように若手選手を含む6人が現地に行って、子どもたちと一緒に運動会をしました」(藤本さん)

能登へは藤本さんも帯同したそうだが、まだ瓦礫なども山積みで復旧していない状況の中、選手たちと触れあった子どもたちの姿が忘れられないと当時を振り返る。
「7月の相談から12月の運動会実施までの間に、おそろいのTシャツやのぼりなどを作ったり、現地で子どもたちと一緒に食べるカレーの準備をしたりしました。当日は選手も含め、スタッフ約40人が現地入りしたので、そのための準備は大変でした。でも、本当にやって良かったです。子どもたちがすごく元気で、キラキラしているんですよね。あの笑顔は宝ですよ。そうした姿を見られただけでも、やった甲斐はあります」(藤本さん)
支援が選手のモチベーションに

「G hands」の取組が他の企業と大きく異なることのひとつが、メインとなるのが「選手が個々に支援する活動」であり、球団がそれをサポートするプロジェクトであるという点。たとえば、坂本勇人選手が2021年から始めた「坂本勇人シート」というプロジェクトは、児童養護施設や母子生活支援施設の子どもたちを巨人軍の主催試合に招待するという企画で、シート代はすべて坂本選手が負担。昨シーズンは46施設、合計310人を招待したそうだ。

岡本和真選手が行っているのは「岡本和真HAPPY ANIMAL プロジェクト」。飼育放棄や虐待などの被害を受けた動物たちを「救う・つくらない」活動に取り組んでいる公益社団法人日本動物福祉協会を支援。2021年から成績に応じた金額をシーズンごとに寄付している。昨年は100万円を寄付した。

また、丸佳浩選手は経済的な事情などで十分な食事を取ることができない子どもたちのために食事支援活動として、2021年から毎年「公式戦で記録した安打数と四死球数の合計数×1万円」を寄付している。

「ただ、こうした支援をするには費用がかかります。『坂本勇人シート』にしても、1席5000円だとして年間で150万円ですから、ある程度活躍している選手でなければ難しいです。ただ、自分が打った分だけ寄付に繋がるとなれば選手自身のやり甲斐にもなるでしょうし、寄付された側が『自分たちのために頑張って打ってくれたんだな』と感じてくれたら嬉しく思ってくれるのではないでしょうか。丸選手は今シーズン、怪我でしばらく1軍の試合に出られませんでしたが、寄付をさせていただいている団体から『丸選手、大丈夫ですか?』といった心配のメールをいただきましたし、坂本選手のシートに招待されたお子さんからは、試合観戦以来毎日キャッチボールをやっていますとか、グローブを毎日磨いていますといったお手紙をいただきます。そうした声もモチベーションに繋がるので、必ずメールや手紙は選手に見せるようにしています」(藤本さん)
受け継がれるファンへの想い

こうした社会活動は単発ではなく継続することが大切になってくる。「G hands」では、退団・引退した先輩選手のプロジェクトを後輩選手が受け継ぐといったことも行っている。たとえば今シーズンからメジャーリーグに移籍した菅野智之選手が続けていた「日本介助犬協会の支援活動」は、先発の一角としてチームを引っ張る山﨑伊織選手が受け継ぎ、介助犬の普及と育成に貢献している。

また、内海哲也投手コーチが現役時代に取り組んでいたランドセル基金は2020年から今村信貴選手が引き継ぎ、過去5年間で計105個のランドセルを東京都内や各地の児童養護施設などに贈ったそうだ。
「今村選手は、ここ2年ほどなかなか1軍に定着できずにいるんですが、ランドセルを施設の子どもたちに届けに行くと、新1年生の子どもたちが、新品のランドセルを貰って本当に嬉しそうなんです。ですから、今村選手は『自分の給料に見合った数でいいので続けます』と言ってくれています」(藤本さん)
丸佳浩選手の食事支援「丸メシプロジェクト」の中で、藤本さんは印象深い出来事があったそうだ。丸選手は寄付をしている施設に年に1回訪れるのだが、その日イベントが終わるギリギリの時間にやってきた高校生がいた。その日は大学の入試試験があったため、間に合わないかもしれないと一目散でやってきたその子は丸選手に会った瞬間、嬉しさのあまり号泣したという。
「会っただけで子どもがあんなに感動するなんて、野球選手の力はすごいなと改めて思いました」(藤本さん)
国民的ヒーローと言われた長嶋茂雄さん亡き後も、ファンを想い夢や希望を与えてくれる読売ジャイアンツの魂は永久に不滅のようだ。
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
photo by Kazuhisa Yoshinaga
写真提供:株式会社読売巨人軍
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