多様性社会とは。スーパーから学ぶ、多様性時代を生きる私たちのあり方

多様性社会とは。スーパーから学ぶ、多様性時代を生きる私たちのあり方
2023.03.16.THU 公開

人間一人ひとりの個を尊重し、様々な価値観を共有する多様性社会、多様性の時代と言われている昨今。そもそも多様性社会とはどのようなものなのか? 私たちの生活を支え、身近な存在であるスーパー「サミット」は、以前から多様なお客様へのサービス、多様な人に配慮した働く環境づくりに取り組んできた。そこで今回はサミット株式会社広報部の魚本綾香さん、人事部多様性推進グループマネジャーの小林祥子さんに、サミットでの実際の取り組みについてお話を伺った。そこから見えてくる多様性の本質や、多様性時代の私たちのあり方について考えてみたい。

多様性社会って? “個”を大切にする多様性社会と日本

ここ数年でよく耳にするようになった、多様性(ダイバーシティ)というキーワード。障がいのある人や高齢者の雇用、女性の活躍促進、LGBTQなどの性的マイノリティなど、社会を取り巻く多様性における課題への取り組みが世界中で推進されている。そして多様性社会とは、どんな属性・特性の人も、誰もが自分らしく生きられる社会だ。

では、日本は多様性社会にどれだけ近づいているのだろうか。

欧米諸国と比べ、島国である日本は移民の受け入れが少なく、「和を重んじる」文化ゆえに多数派に合わせる姿勢が根付いていたことなどから、マイノリティに対する配慮、尊重が軽視されがちだった。しかし、現在の日本の障がい者数でいえば、国民のおよそ7.6%(参考:障害者の状況/内閣府)で約900万人以上、さらに日本に住む外国⼈は、約280万人以上(参考:令和3年6月末現在における在留外国人数/出入国在留管理庁)もいる。こうした障がいのある人、外国人に限らず、昨今は、日本でも多様なマイノリティの認知、共生社会への意識が高まってきていると言えるだろう。

しかし、属性に限らず人々がそもそも多様であることは今に始まったことではない、と以前よりダイバーシティの考え方や姿勢を実践してきた企業がある。それがスーパーの「サミット」だ。

多様性社会のポイント①「一人ひとり」とのつながり

オンラインでインタビューに応えるサミット広報部の魚本さん
サミット株式会社 広報部の魚本綾香さん

地域社会の食のインフラとして機能し、人々の生活と密接に関わってきたサミット。多様性という言葉が社会に浸透する以前から、お客様との接し方に関して「一人ひとりを大切に」を実践してきた。だが、数十年前と現在を比べると、地域の中で人と人のつながりの変化を感じるところもあるという。

「お客様は地域の方々なので、大きくは今も昔も変わらないのですが、現在は地域のコミュニティ、つながりというのが以前よりちょっと希薄になってきた部分があるなと感じています。そのため、サミットとしてはもっと密に人と人との繋がりを生み出す、安心できる場所にしていきたいなと思っています」(魚本綾香さん、以下魚本)

そんな想いが表れているのが、サミット独自の「案内係」だ。

サミットの案内係が店舗でお客様に商品案内をしている様子
サミットの店舗で活躍する「案内係」

「お客様と話をすること」を仕事にした「案内係」がスタート

案内係とは、売場を案内するとともに、お客様とのコミュニケーションを大切にしているスタッフで、現在、一店舗に1~2人、約7割の店舗で配置されているという。

誕生のきっかけは、2015年3月にオープンした東中野店。古いお店を壊し、新しく建て直したため、当初売り場が分かりづらいだろうということで案内係を配置したそうだ。

周囲に目を配り、お客様に声をかける。商品の場所が分からず困っているお客様には声をかける。そのうち、買い物や料理についても相談を受けるようになり、当初想定していたよりも積極的なコミュニケーションが求められているのだと感じたという。お客様の中には何度も交流するうちにプライベートなことも話すようになり、案内係と会うことを楽しみに来る人も多いそうだ。

多様性社会のポイント②効率的、画一的からの脱却

店舗に案内係を置くようになってから、お客様一人ひとりの顔が以前に増してよく見えるようになった。そこには“案内”という従来のサービス以上の価値が存在しているようだ。

「高齢の方だけではなく、様々な層の方とコミュニケーションをとっています。例えば小さいお子さんがいらっしゃる方には『なかなかお買い物大変ですよね』とお声がけしつつ、子どもの相手をしたり。お子さんが泣いているところを話しかけてコミュニケーションが生まれることもあります。また、あまりお料理が得意ではない、どう食べたら分からない、というお客様から『どうやったらいいかしらね』と質問をいただいたり。それこそ男性のお客様からは、奥さんにこれこれを買ってきてと言われたけどどれのことか分からないとか、奥さんが入院しちゃって自分だけでご飯を用意しなくてはいけないんんだけど、どういったものを買えばいいのかとか、本当にありとあらゆる多様なコミュニケーションが生まれています。おかげさまで徐々にお客様との距離も縮まり、『あなたと話をしたい』というリピーターの方も増えています」(魚本)

案内係がお客様と話した内容は、逐一レポートとして社内に共有される。何気ない会話をすくい上げることによって、サービスの向上だけでなく、社員のモチベーションが高まるという相乗効果も生み出されているそうだ。一方で、障がいのあるお客様の対応など、またまだ知識不足なところもある。もっと理解を深めていくことが重要だと語るのは、サミットの人事部で多様性推進グループマネジャーを務める小林さんだ。

オンラインでインタビューに応えるサミットの人事部多様性推進グループマネジャーの小林さん
サミット株式会社 人事部多様性推進グループマネジャーの小林祥子さん

「以前に弊社の研修で講演していただいたパラ・パワーリフティングの山本恵理選手に『お店に来て不便なことはないですか?』と伺ったところ、『荷物を詰めるサッカー台の高さが車いすユーザーには高すぎて、自分で詰められないんです』という意見をいただきました。それまでは車いすの方が来られたら、『何かお手伝いすることはありますか?』とお声がけをする、それだけで大丈夫だと思っていました。でもそうではなく、『自分で詰めたい、最後まで自分でやりたい』という方もいるんだと知りました。そこで、サミットでは一部店舗にではありますが、低いサッカー台(精算後に荷物を詰める台)や台の下にスペースがあり車いすが近付きやすいサッカー台も設置するようにしています。多様なお客様への対応について、まだまだ知らないこと、分からないことがたくさんあるので情報を収集し、よりよいサービスを模索していけたらと思います」(小林祥子さん、以下小林)

多様性社会のポイント③余裕や遊びがあること

誰もが買い物しやすく、いきいきと働けるお店を目指しているサミットのサービスや働く環境を紹介したチラシ
2021年8月24日の新聞に折り込まれたチラシ。サミットが力を入れているバリアフリーと案内係について紹介し、通常のチラシとは一線を画したアプローチで大きな反響を呼んだ。「J-NOA新聞折込広告大賞2022」の「未来わくわく賞」を受賞

これはサミットの案内係の仕事やバリアフリーへの取り組みなどを伝えた新聞の折り込みチラシだ。ちょうど東京2020パラリンピックが開催された時期で多様性への注目がより高まっていたこともあり、チラシという枠をこえて、閲覧した人たちに強いインパクトを与えた。

「新聞の折り込みチラシというと、セールのことが掲載されているのが普通ですよね。しかしあえてセールのことは載せず、当社の案内係の活動やバリアフリーなどの取り組みについて掲載しました。案内係の顔やメッセージなどを載せたことによって、お客様があのお店のあの人だと一生懸命探してくれたようです。このチラシを見たお客様から直接『見たわよ!』と声をかけていただくことも多く、反響が大きかったと聞いています」(魚本)

そんな案内係の反響を踏まえて、「サミットが考える、誰でも心地よく買い物できるスーパーとは?」と尋ねるとこんな答えが返ってきた。

「業務を効率的に行うことは大切ですが、そればかりだと、お客様とコミュニケーションをとる気持ち的な余裕がなくなってしまいます。ですから、サミットでは以前より『余裕や遊び心』をあえて持つようにし、お店全体でお客様とコミュニケーションをとっていこうと力を入れてきました。そして案内係を設けたことで、お客様から直接お声を聞く機会が増え、そういったことを実際にご支持くださっていることがわかるようになりました」(魚本)

つまり、品揃えだけではなく、お客様との密なコミュニケーションなど目に見えないサービス、心の付加価値がお店への信頼感を生み出すのだ。

多様性社会のポイント④多様な人々の理解を深めようとする姿勢

サミット社内で行われた研修の様子
2020年1月には店長・本部役職者を対象とした会議の中で日本財団パラスポーツサポートセンターの研修プログラム「あすチャレ!Academy」を実施。障がいのある人の日常生活や、障がいがあるお客様への声かけの仕方などを学んだ

常に柔軟な姿勢で多様性を受容してきたサミットだが、なぜそういったことが可能なのか?それは元々、多様性を受け入れる下地が存在する社風であったことに起因するそうだ。

「例えば社員同士でお互いを呼び合うとき、社長であっても役職ではなく「○○さん」と「さん」付けで呼ぶ文化がサミットにはあります。世間一般の企業だとそうは呼ばないと思いますが、サミットは昔から社員同士の隔たりがない会社でした」(小林)

通常、会社で役職名で呼ぶことは自然なことではあるが、これも無意識のうちに「区別」の刷り込みがされているケースだ。一見悪いことではなさそうに見えるが、そこには「違い」を強調させる要因があり、隔たりを助長することからコミュニケーションの質に少なからず影響を与えている。どんな肩書きでも全員「さん」付けで呼び合うことは、フラットな関係となり、コミュニケーションが円滑になりやすいのだ。

またサミットでは、多様性の時代の流れともしっかりと向き合い、社内に「人事部多様性推進グループ」を立ち上げるなど、多様性推進のために様々な取り組みを行っている。

「例えば障がいのある方にとっても、安心して働ける場所になるように作業環境を整えたり、特別支援学校と協力して生徒さんたちの店舗見学やインターンシップなども行っています。他にも高齢者の雇用や待遇改善、女性活躍の推進、ベトナムからの技能実習生の受け入れなども行っていて、働いているすべての社員一人ひとりが持っている能力を更に発揮できる環境作りを目指しています。多様な人材を雇用し、社員社員同士も円滑に心地良く働いてもらうために、LGBTQや障がいについてなど、足りない知識は勉強し、積極的に社員に情報を共有していくことも重要だと思っています」(小林)

多様性社会のポイント⑤身近なアプローチ、小規模での取り組み

大人用のガチャガチャと子供用のガチャガチャと景品が設置されたサミット店内の様子
地域にスポットを当て、店舗ごとに行われる企画の一つ「ガチャフェス」
テーブルを囲んでおりがみを折るお客様たちの様子
地域の人々との交流にもつながる「おりがみ教室」も好評

現在、サミットは東京都23区・関東圏を中心に120店舗以上展開しており、組織として大きく成長を続けているが、地域に根差したスーパーとして、ローカルにスポットを当てた企画も大切にしているという。

「以前は全店で同じ企画やセールなど大規模な取り組みが多かったのですが、ここ数年はコロナ禍ということもあり、大きな施策ができなくなっていたんです。そこで各店舗がお膝元の地域だけでも何かやってみようというアイデアがたくさん出てきたんですね。それがすごくいい形で育ってきて、地域の方々からも楽しみにしているよと声をかけていただけることが多くなってきたんです。この形を今後もうまく残していきつつ、平行する形で全店舗を通して大きくみなさんと、社会と何か一緒にできるように、両輪でやっていけたらなと思っています」(魚本)

ITの発達やコロナ禍によって、人と人との接点が希薄になりつつある現代だからこそ、効率のみを重視せず、あえて時間と手間をかけたコミュニケーションの価値は、今後ますます高まっていくのではないだろうか。


今回の取材から、スーパーという誰の生活の中にもあるインフラを通して、多様性社会は特別なことではなく、とても身近な存在であることが分かった。企業、個人に限らず、一人ひとりとのつながりを大切に、お互いを理解し認め合う、そんな心得とアクションを大切にすることで、自ずと誰もが自分らしく輝ける多様性社会が築かれていくはずだ。

サミット株式会社で実施したあすチャレ!Academyの事例はこちら⇒https://www.parasapo.tokyo/asuchalle/academy/ourdata/18/

text by Jun Nakazawa(Parasapo Lab)
資料提供:サミット株式会社

多様性社会とは。スーパーから学ぶ、多様性時代を生きる私たちのあり方

『多様性社会とは。スーパーから学ぶ、多様性時代を生きる私たちのあり方』