池透暢・ウィルチェアーラグビー日本代表を世界一に導いたキャプテンの笑顔と苦闘

池透暢・ウィルチェアーラグビー日本代表を世界一に導いたキャプテンの笑顔と苦闘
2018.11.07.WED 公開

8月の世界選手権でリオパラリンピック金メダルのオーストラリアを下して優勝。偉業を成し遂げたウィルチェアーラグビー日本代表の池透暢(いけ・ゆきのぶ)は、2014年からキャプテンとしてコートの中でも外でもリーダーシップを発揮する。ケビン・オアー日本代表ヘッドコーチの言葉を借りるならば、「ジェントルな(穏やかな)キャプテン」。そんな池の颯爽たる笑顔に隠された苦悩、そしてウィルチェアーラグビーへの熱い思いを聞いた。


タフな精神力で戦い抜き、初の世界一に大きく貢献

「有言実行の金メダルです」。優勝を決めた直後のその言葉には、自信がみなぎっているかのようだった。2018年8月、オーストラリアのシドニーで開催された世界選手権。ウィルチェアーラグビー日本代表のキャプテン池透暢は、チームの輪の中心で世界一のトロフィーを高々と掲げた。

池透暢(以下、池) それはもう最高の気分でした。でも、世界一を実感できたのは少し時間が経ってからです。いままで日本は金メダルに届きそうで届かない……まさにそれを繰り返してきたので、金メダルを獲った瞬間、どこか信じられないという気持ちでした。決勝は僅差の勝利でしたが、日本はもっと大きな差で勝てる可能性を秘めたチーム。それに、未完成であり、これからもっと強くなるというのが長所です。2020年に向けて自分たちのさらなる高みを追求し、またチャンピオンを獲りたいですね。

10月下旬、所属企業主催の報道関係者向けトークイベント「2020年に向けて~ 世界選手権優勝と米国リーグ挑戦 ~」で世界選手権の金メダルを披露

決勝のオーストラリア戦。予断の許さないシーソーゲームを制した後、「影のMVP」――オアーHCは、そう言って池を称えた。コートの外でもリーダーシップを発揮した池は、準決勝のアメリカ戦では試合前に急遽選手を招集し、選手たちの戦う気持ちを鼓舞した。

 日本は予選で一度オーストラリアに負けて、強豪のアメリカとの準決勝を控えているのに、ちゃんとした気持ちの切り替えができていないと感じました。それで、12人の選手だけを集め、ミーティングを行い「戦いは目の間に迫っている。では、僕らはどうしたらいいか。自分たちがいまできることは、コートで自分たちのベストを表すことなんじゃないか」と伝えました。そして、選手全員に日本がいいときはこういうプレーができるという例をひとつずつ出してもらい、それを今日の試合にぶつけようと再確認したんです。もうみんな我先にという感じで、はい、はい、はいとテンポよく日本のいいところを挙げていき、あっという間に12個が出そろいました。

大一番のアメリカ戦で殊勲の勝利を手にし、「いい準備ができたから勝てた」とベテランたちも口をそろえた。そんななか、池は若手にこそ目を配り、チームの結束力を高める仕掛けを施していた。

 たとえば、その試合では出番のなさそうだった最年少の橋本勝也にミーティングの締めの挨拶をさせ、自分もチームの一員として戦っている自覚を持ってもらうようにしましたし、副キャプテンの羽賀理之には試合前に全員を盛り上げる声がけを担当してもらいました。試合に臨むミーティングで全員が発言することは、試合中の集中力にもつながるし大事なことですからね。

日本チームが優勝した世界選手権を振り返る池

個性豊かな選手たちをつなぐ、自分らしいキャプテンでありたい

いまでこそ、若手からも信頼を寄せられ、絶対的な存在になった池。しかし、2014年に当時の荻野晃一HCからキャプテンを指名されたときは、他の選手と比べて競技歴が2年と浅かったこともあり、まるで自信がなかったという。

 実は、中学時代にバスケットボール部のキャプテンをしていたんですけど、そのときは全体をあまりうまくまとめられなかった思いがあって。その経験がちょっとしたトラウマになっていたし、ウィルチェアーラグビーでもはじめは自信がなくて、キャプテンなんて断りたいと考えていました。でも、そんなとき自分のモットーとしている「どんなことからでも逃げない」という言葉が頭をよぎりました。キャプテンを務めることは、過去にうまくできなかった自分を超えられるチャンスだと思ったし、もう一人の自分がやってみようと背中を押してくれました。

当時は、庄子健選手とのダブルキャプテンだったこともあって引き受けることにしたのですが、いまでも「自分なんかでいいんだろうか」と不安になることもあります。でも同時に「自分に向いているんじゃないかな」と思うこともあるんです。いま日本代表はベテランから若手まで年齢も幅広いですし、個性があってエゴが強い選手もいる。だからこそ、僕が全員をつなげていくような役割をしたいなと。みんなのいいところをそのままチームのプラスに変えていけるようなチームづくりを意識して行っているんです。

リオパラリンピックでは銅メダルを獲得した ©X-1

そんな池が思い描くキャプテン像とはどんなものか――。

 キャプテンはプレッシャーのあるポジションだし、悩むことも少なくありません。ただ、みんなにぐじぐじしている姿は見せたくはない。もちろん、プライドだってあるし。ときには、選手たちにも言いにくいことを言ったり、嫌われ役を買って出たりすることもありますが、チームをよくするために、できるだけ変化にチャレンジすべきだと思っています。
というのも、もしチャレンジがうまくいかなかったとしても、チームメートから不満が出て、HCから降ろされるだけのこと。そういった選手の声が出てきたらそれはそれでいいチームだといえるし、もっと適任の選手がいれば、僕は明日にでもキャプテンを辞めたっていいんです。

カリスマ性があって、みんなの想像を超える発案がポーン!と出てくる……そんなキャプテンは理想的ですが、僕が誰かを真似するのはやっぱり無理がある。だから自分のできることを高いレベルで努力し続けたいと思っています。

自らがキャプテンを務めるウィルチェアーラグビー日本代表について語る

19歳のとき、交通事故で四肢に障がいが残った。その後、車いすバスケットボールに出会い、日本代表候補になるが、2012年ロンドンパラリンピックの代表は落選。「努力をしても許してもらえないのか、と思うほど何度も大きな壁が立ちはだかった」。だが、32歳でウィルチェアーラグビーに転向すると、世界への重い扉は開き、光の差すままに進んだら、頂にも上がることができた。現在、38歳。2018-19シーズンは本場アメリカのリーグ戦に初めて挑戦する。

 アメリカリーグ参戦はもちろん強くなるための挑戦ですが、ウィルチェアーラグビーをさらにハイレベルなものにし、その価値を上げて人気競技にしたいという強い思いがあります。そのためにも本場のアメリカで自己研鑽して、多くの人たちにこの競技の魅力を伝える言葉の説得力を持ち帰ってきたいです。そして、東京パラリンピックは、動員などではなく、自らこの競技を応援したいと足を運んだ多くの観客の前で金メダルを獲りたい。コンサートのラストみたいに、涙を流してもらえるようなプレーを見せますよ。


逃げなければ必ず道は開ける。その信念を胸に、不屈の日本代表キャプテン池透暢は、今日もラグ車を、前へ前へと漕ぎ進める。

text by Asuka Senaga
photo by Kazuyuki Ogawa

池透暢・ウィルチェアーラグビー日本代表を世界一に導いたキャプテンの笑顔と苦闘

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