柔道世界選手権、日本は東京パラリンピック開催国枠を確保するもメダル1個

柔道世界選手権、日本は東京パラリンピック開催国枠を確保するもメダル1個
2018.11.27.TUE 公開

東京2020パラリンピック出場を目指し、世界42ヵ国から268人の柔道家がポルトガル・オディベラスに集まった。柔道は、国際視覚障害者スポーツ連盟(IBSA)が主催する大会の入賞者に与えられる点数によって東京2020パラリンピック出場が決まる「ポイント制」が採用されており、11月16日~18日に行われた「IBSA柔道世界選手権」は、その中で最も配点が高い大会であると事前にアナウンスされていた。日本は東京パラリンピックの開催国であり、今回の世界選手権に出場すれば、その階級の開催国枠が与えられるという。そんな事情もあり、日本チームは全階級に選手をエントリーさせた。

結果は、廣瀬順子(女子57kg級)が銀メダルを獲得、北薗新光(男子81kg級)、正木健人(男子100kg超級)、小川和紗(女子70kg級)の3人が7位に入賞。各階級の成績は以下の通りである。


・男子60㎏級 平井孝明 2回戦敗退
・男子66㎏級 藤本聡 2回戦敗退
・男子73㎏級 永井崇匡 2回戦敗退
・男子81㎏級 北薗新光 7位
・男子90㎏級 廣瀬悠 2回戦敗退
・男子100㎏級 松本義和 2回戦敗退
・男子100㎏超級 正木健人 7位
・女子48㎏級 島田紗和 1回戦敗退
・女子52㎏級 石井亜弧 1回戦敗退
・女子57㎏級 廣瀬順子 銀メダル
・女子63㎏級 工藤博子 1回戦敗退
・女子70㎏級 小川和紗 7位
・女子70㎏超級 西村淳未 1回戦敗退


メダルを獲得した“安堵”と、改めて感じた“世界一への壁”

女子57kg級の廣瀬は、予選を順調に勝ち進み、準々決勝ではパンアメリカ大会の覇者であるサントス・マリア(ブラジル)に勝利した。

決勝で戦う相手は、世界ランキング1位のチェリク・ツェイネ(トルコ)だ。開始直後から果敢に仕掛けるも、相手からの猛攻に体制を崩され続けた。「17年に対戦したときよりも技が増えていて、一度は凌ぐことが出来ましたが、二度目は対処できませんでした」。開始15秒、廣瀬は畳に倒れ、一本の声が会場に響いた。

日本勢は女子57kg級の廣瀬(左)が唯一のメダル獲得となった

女子の佐藤雅也監督は「高い技術力を武器にメダル獲得が続く廣瀬ですが、世界では研究と対策が進められています。その中での銀は合格点と言えますが、技の種類、筋力共に改善を図らないことにはその先の道は開けません」と冷静に現状を語った。

準優勝した翌々日の団体戦では、仕掛けた背負いが掛かり切らずに返され、一勝をつかむことさえできなかった。東京パラリンピックで目指すのは、金メダルだけーー。その光が大きく見えてくる日まで、廣瀬の鍛錬は続く。

辿り着いた“自分が輝く階級”

男子は、大きな成果が残すことができなかった。そんな中で、日本の団長を務めた遠藤義安男子監督は、7位だった北薗(リオパラリンピック・男子73kg級代表)への期待をこう語っている。
「今まで100kg級、73kg級と様々な階級で出場し、アジアパラ、今大会では81kg級で挑戦しました。今大会のこの階級で、彼が身体の大きな海外選手を振り回す姿を見て、81kg級こそ、彼の持つ力を充分に活かせる場であると感じました」

北薗は今大会、世界ランク5位のジャファリ・ノウリ(イラン)、パラリンピックを含め多くのメダルを獲得してきたベテラン、世界ランク7位のサイリル・ジョナード(フランス)に勝利を収めている。

世界ランク5位のジャファリ・ノウリに勝利し、喜びの表情を浮かべる北薗(右)

「アジアパラで自分と似たスタイルを持つ選手の得意技を見て、ひそかに特訓をしていました。本番でこの技が通じ、トレーニング方法や考え方が間違ってないことを確信しました。東京パラリンピックまで、残り1年と10ヵ月。表彰台に立てる、その一瞬のために全力を注いでいきます」と、北薗は語った。

健常者の柔道とは違い、組んでから試合が始まる視覚障がい者の柔道は、東アジアのような体格で恵まれない地域の選手には不利といわれてきた。その中で今大会は男女共に韓国勢の台頭が目立った。「日本人とほぼ変わらない背丈の彼らは、たとえ倒されても畳に着くまでに体勢を変え、一本を逃れている。その強靭な身体作りは素晴らしいし、見習いたい」。遠藤氏は表彰台に上る彼らの姿を遠くに見つめながら、敬意を込めてそう話した。

お家芸復活への期待

会場には世界中から集まった選手たちの熱気があふれていた

今回の世界選手権は、東京パラリンピックまで2年を切った中で、それぞれが自分の立ち位置を知ることになった。 過去を見てみると、リオパラリンピックの2年前に行われた世界選手権で日本は銅メダル2個だった。しかし、リオパラリンピック本番では銀メダル1個、銅メダル3個を獲得し、見事、成績を伸ばしている。

同様に、今回の世界選手権から東京パラリンピックへ成績を伸ばすことはもちろんだが、自国開催となる中では金メダルの獲得も期待される。この柔道がパラリンピックの正式競技となった1988年のソウル大会から、“日本のお家芸”として金メダルを量産してきた実績が日本にはある。

近年、世界的な競技力の向上やウズベキスタン、韓国などの台頭もあり、パラリンピックで金メダルを獲得することはどんどん難しくなっているが、それでも今回得た課題や、各々が感じた可能性を持ち帰り、2020年の東京パラリンピックという大きな舞台でこの経験を活かして最高の成果を残してほしい。そう期待せずにはいられない。

text & photo by Ryo Ichikawa

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