シッティングバレーボール日本一決定戦、東京パラリンピック開催を追い風に!

シッティングバレーボール日本一決定戦、東京パラリンピック開催を追い風に!
2018.12.11.TUE 公開

12月8日、9日の2日間、シッティングバレーボール国内クラブチームの日本一を決める「第22回日本シッティングバレーボール選手権大会」が武蔵野総合体育館で行われた。

18チームが出場した男子は、4つの予選グループの上位3チームが決勝へ。女子は出場11チームが2つのグループで予選を戦い、上位2チームが2日目の決勝トーナメントに進み、それぞれ日本一をかけて争った。

男子は「千葉パイレーツ」が3連覇!

男子は、準決勝で強豪「京都おたべーず太郎」を下して決勝に上がった「千葉パイレーツ」が、「埼玉レッドビーズ坊主」に2-0(25-14、25-13)で勝利し、大会3連覇を成し遂げた。

試合後、千葉パイレーツのキャプテン田澤隼は「負けてはならないプレッシャーがあった。3連覇できてうれしい」と喜びを爆発させた。小学校から高校まで健常者の高いレベルでリベロを務めたバレーボール経験者。事故で右大腿部を切断した後、この競技に出会い、昨年は競技歴1年ながら高いレシーブ力を評価されて大会MVPを獲得。今年はナショナルチームの一員としての経験も積んだ。「もともとバレーボールをやっていたので、予想を立てて動けるのが長所だが、シッティングバレーボールの動きは難しくて……味方のカバーもできるように機動力を上げていきたい」と話し、さらなるレベルアップを誓った。

千葉パイレーツの守備の要・田澤隼

東京パラの会場・千葉で広がるシッティングバレーボールの輪

今大会を制した千葉パイレーツはもともと強豪だが、今年は練習拠点の千葉県稲毛市でともに汗を流す“兄弟・姉妹チーム”である、男子の「千葉ピーナッツ」、女子の「千葉レディースピーナッツ」と「千葉レディースパイレーツ」も出場した。4チーム合わせて約40人が所属する大所帯だが、もともと大人数だったわけではない。この1年で約10人もの選手が加入しているのだ。

4つの“兄弟・姉妹チーム”にわかれて出場した

どのチームも選手の確保に頭を悩ませる中で、千葉の戦力が増えているのはなぜか。男子で数少ないパラリンピック経験者であり、チームの顔である加藤昌彦はこう話す。

「東京パラリンピックの開催が決まってから、障がい者スポーツに関心を寄せてくれる人が増えました。とくに、シッティングバレーボールは、会場が千葉(幕張メッセ)になったことで、千葉パイレーツとしても県や市の依頼で講演会や出前授業に出向く機会が急激に増えています。うれしいことに、そこで興味を持ってくれた人たちがチームに参加してくれるようになり、それがチームの戦力アップに直結しているんです」

若い選手が加入し、未経験の選手がどんどんうまくなっていくことでベテランも刺激を受ける。そんなチームの活性化が、衰えを知らない千葉パイレーツの強さを生み出した。

「自分がシッティングバレーボールを始めて20年が経ちますが、今大会4チームで出場できたというのはすごく感慨深いことです。いつか千葉同士の決勝が実現できるといいなと思っています」
大会MVPにも輝いた49歳のベテランは、大粒の汗を光らせて語った。

49歳ながら第一線で活躍する加藤昌彦

女子決勝は、「東京プラネッツ女組黒」がストレート勝ち

女子は、アジアパラ女子日本代表4人を擁する「東京プラネッツ女組黒」と、西の強豪「京都おたべーず花子」が決勝に進出。結果は、東京プラネッツ女組黒が2-0のストレート勝ちで2年連続の優勝を飾った。

小方心緒吏(右)ら代表クラスが揃う、東京プラネッツ女組黒

MVPには、優勝した東京プラネッツ女組黒のキャプテンを務める波田みかが選出された。3年前にシッティングバレーボールを始めたチーム最年少の17歳。今年8月、夏パラバレーボール選手権大会でチームが3連覇した後、先輩たちからキャプテンを任命された。「そんなに重い理由があってキャプテンになったわけではないんです」と控えめに笑うが、準決勝の千葉レディースピーナッツ戦は競り合う場面もあり「昨日より強気で向かった」とアスリートらしい一面ものぞかせる。ポジションは、健常の世界でバレーボールをしていた小学生時代からセッターで、「やっぱり座って行う基本の動きが難しい。(日本代表で活躍するセッターの)先輩みたいに、キレのある動きを身につけたい」。サーブも得意な常勝チームのキャプテンは、将来、女子日本代表をけん引する可能性を秘めている。

東京プラネッツ女組黒のキャプテン波田みか

会場をにぎわせた健常者チーム

シッティングバレーボールは障がいのある選手のためのスポーツだが、健常者も障がい者も関係なく一緒にできることから、企業の講習会や学校の現場でもっとも人気があるパラスポーツでもある。

日本パラバレーボール協会スポンサー企業の社員150人以上が応援席をにぎわせた今大会は、大会に出場した“スペシャルサポーターチーム”も会場の盛り上がりに一役買った。

日本パラバレーボール協会に登録したチームは、コート内に必ず障がい者選手を入れなくてはならないが、スペシャルサポーター枠のチームは特別に健常者のみでチームを構成することが許されており、今年は「チームNOMURA」と「チームPGF」の2チームが同枠で出場した。

千葉パイレーツに敗れたが鋭いアタックで大会を沸かせたチームNOMURA

日本選手権への挑戦は4度目というチームNOMURAは、準々決勝で千葉パイレーツに敗れたものの、ベスト8の躍進。バレーボール経験者5人を擁し、パワーのあるアタックを披露して観客を沸かせていた。

チームNOMURAの小林洋介キャプテンは、「今年の夏パラバレーボール選手権大会で初めて1勝を手にし、チームの形ができてきたんですが……王者の千葉パイレーツに木っ端みじんにされました。でも、楽しかったです!」とすっきりした表情。「普通にボールを打ったらアウトになってしまうし、レシーブの際、動ける範囲が限られるから戦術を知らないと勝つのは難しい」と続け、この競技の奥深さも感じているようだった。

ボランティアが増え、選手たちが試合に専念できるようになったという

また、試合のスコアラーやボール拾いを務めた39人のボランティアも大会を支えた。地元・武蔵野市のスポーツボランティア団体を通じて参加したという平槙明人さんは、「東京大会がきっかけでパラスポーツに興味を持った。運営を手伝うことで、少しでも競技に打ち込んでいる選手たちの力になれたら」と話す。平槙さんは、ボランティアを通じてパラスポーツの魅力を感じ、地域の体験イベントや大会にも自ら足を運ぶようになったそうだ。

東京パラリンピックに向けた大きなうねりの中で、競技に関わろうとする人たちが増えている。その変化と可能性を感じた「日本シッティングバレーボール選手権大会」だった。

text by Asuka Senaga
photo by X-1

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