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Sports /競技を知る
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ブラインドサッカー女子日本代表がワールドグランプリの初代女王に

ブラインドフットボール(ブラインドサッカー)女子カテゴリーとして初のワールドグランプリが大阪駅前グランフロント大阪「うめきた広場」の特設ピッチで開催された。
女子カテゴリーのIBSA(国際視覚障がい者スポーツ連盟)公式大会が国内で開催されるのは初。世界ランキング1位の女子日本代表は、イングランド、アルゼンチン、オーストラリアを迎え、5月19日から21日までの予選(総当たり)を2位で通過した。

準決勝はオーストラリアと対戦し、高校生プレーヤー島谷花菜が2ゴールを決めて2-0で決勝進出。ライバルのアルゼンチンと対戦した決勝は、雨の中で互いに決め切れずスコアレスでPK戦へ。PK戦は、1人目の西山乃彩が決めて0-1で勝利し、日本代表が優勝を飾った。

瀬戸際に立たされた日本代表
厳しいチーム状況の中で価値ある優勝だった。大会前のクラス分けでエース菊島宙が出場できない事態に陥り、計3選手が不参加。今大会から試合時間が15分ハーフから20分ハーフに変わったが、日本代表のフィールドプレーヤーは4人しかおらず、選手交代ができない。大会の実況中継で「瀬戸際ジャパン」とアナウンスされるほど、心身共に苦しい状況だったのだ。

それでも初戦は、ターゲットとしていたアルゼンチンに対し、0-1と好ゲームを演じた。
山本夏幹監督によると、選手たちの心拍数は190超え。相手エースのジョハナ・アギラルに1点を与えたとはいえ、世界選手権の決勝でアルゼンチンに敗れたメンバーである若杉遥、竹内真子、島谷、初めて日本代表に選出された西山の4人でしっかりとゴールを守った。

この死闘を乗り越え、最後は優勝という結果を得た日本代表。
山本監督は「1試合1試合ヒロインが出てきた。選手が本当によく頑張ってくれた」と選手を称えた。

決勝ではPKでも活躍し、大会のベストゴールキーパーに選ばれた藤田智陽は大学のサッカー部と並行して昨年からブラインドサッカーを始めた。
優勝を喜びつつも、「スロー1本でシュートまで行かせて得点を決めてもらう目標を達成できなかったのが少し悔しい」と振り返り、次は攻撃の起点になることを誓った。

「大阪に入ったときは、ちょっと試合の最後に出るくらいかなと思っていた」という西山は、フル出場で大きな自信を得たという。
アイマスクをした状態でプレーするこのサッカーの経験は、半年に満たないが、華麗なキックやフィジカルで魅了した。10月にインドで開催予定の世界選手権では、初ゴールを決めてくれることだろう。
身長156㎝の島谷は、体格で勝る海外選手に立ち向かい、右サイドをドリブルで駆け上がって左足でシュートを撃つ得意の形で得点を挙げた。
試合後、出身地である大阪市の観客に向けて「楽しくプレーできました!」と元気よく語った島谷は、新たなエースに名乗りを上げた。

各国ともに強化は道半ば
日本では、パラリンピックの種目化を見据えて2017年に女子代表チームが発足。その後、日本とアルゼンチンが女子のブラインドサッカー界をリードしてきた。
世界で少なくとも15ヵ国で行われているが、各国とも強化に力を入れ始めている。
今大会4位のイングランド(世界ランキング4位)は、3人の新人を起用して経験を積んだ。10月の世界選手権には、今回進学準備で来られなかった主力や出産明けの選手も参戦予定。日本にとって侮れない相手だ。

アンソニー・ラーキン監督は「ゴールボールや柔道との競争もあって競技人口は多くないが、支援される環境があり、月に2回ほどイングランドのナショナルトレーニングセンターであるセントジョージズパークで練習している」と話してくれた。
国際大会初出場のオーストラリアは、3位決定戦で初ゴールと初勝利を挙げて3位になった。

「経験よりもファイトの力で勝利できたのかもしれない」とサラ・エリザベス監督。
エリザベス監督は熱っぽく続ける。
「ボールの位置を認知する能力、アルゼンチンと日本のようなスピードを習得することが課題だが、今回の結果を誇りに思う。ブラインドサッカー界としても、女子の力を示せた大会だったと思う」
イングランドの競技人口は12人、オーストラリアも競技人口は約10人だといい、全盲クラスの選手は少ない(編集注:現在、女子の大会は競技人口などを考慮し、全盲の選手だけでなく弱視の選手も参加できる)。

大会前に「『女子なのに、すごい』でもなんでもいいから見てほしい」と関係者が話していたが、得点王のジョハナ・アギラル(アルゼンチン)らのプレーが道行く人の足を止めていた。
スター選手も競技人口もまだ少ないが、パラリンピックの種目入りの可能性もある女子カテゴリー。今後も注目してほしい。
text by Asuka Senaga
photo by X-1