【金メダリスト×恩師対談】パパアスリートも悩んでる! 佐藤友祈が教育評論家・親野智可等に教えてもらった、子どもへの声かけのコツ

【金メダリスト×恩師対談】パパアスリートも悩んでる! 佐藤友祈が教育評論家・親野智可等に教えてもらった、子どもへの声かけのコツ
2025.12.05.FRI 公開

現在、3歳の男の子のパパでもあるパラ陸上佐藤友祈は、日々、競技に子育てに奮闘中だ。子どもと向き合っているからこそ湧いてくる疑問を、恩師である教育評論家の親野智可等にぶつけてみた。すべての子育て世代に送るアスリート×恩師対談、後編。

佐藤 友祈(さとう・ともき)|車いすプロアスリート
1989年静岡生まれ。強化合宿に息子を同行させるなど「パパアスリート」として奮闘中。「障がいは神様からのギフト。パラリンピックにチャレンジできたし、障がいのある人たちへの考え方もアップデートできたし、親との関係もすごく良好になった。プラス、妻と子どもにも出会えた」。モリサワ所属。

親野 智可等(おやの・ちから)|教育評論家
1958年生まれ。公立小学校で23年間教師を務めた。佐藤の小学2年生のときの担任。「友祈くんの障がいの捉え方は『人間万事塞翁が馬』。目の前のことに過度に一喜一憂せず、すべて“いいこと”と捉えるとうまくいくということ。これは私の人生観そのものです」。『親の習慣100 子どもの自己肯定感がどんどんあがる!』など著書多数。本名、杉山桂一。

質問)叱り方がわかりません

佐藤友祈(以下、友祈):息子が2歳のころ、保育園の面談で、先生から「ちゃんと叱って、注意してあげてくださいね」というようなことを言われたんです。叱ることに慣れてないこともあって「叱る」と「ほめる」の塩梅が難しく、どうしたらいいんだろうと悩んでしまいました。

親野智可等(以下、親野):保育士さんがどういう意味で言ったか、わからないんだけどね。昔は「だめなことはだめって言わないとわがままになる」とか、「抱っこばっかりしてると甘やかしだ」なんて言われていたんです。でも、発達心理学や教育心理学はこの20~30年ですごく発達していて、我々もアップデートが必要なんですよ。

先日、息子さんを連れた友祈くんに会ってすごく感心したんだけど、否定的な言葉を全然子どもに言わなかったよね。例えば、息子さんがおしぼりをさわったら、「だめだよ」と言わず、「ここ置こうね」みたいな言い方をしていた。

佐藤が小学2年生のときの担任だった親野智可等こと杉山先生に質問をぶつけた

友祈:うわあ、あのときの自分の方が良かったんだ! いまは「だめだよ」っていう言葉を投げかけちゃってるんです。反省しよう。

親野:「だめだよ」っていう言葉は汎用性があるので、言いやすいんですよ。でも、子どもは「だめ」っていう言葉をあまりに受けてると、「自分がだめ」って言われてるように感じちゃうし、友だちに使うようになってしまうんです。

だから、言い換えをすることがすごく大事。例えば、公園から帰ろうとしないとき、「帰らないと、置いていっちゃうよ」ではなく、「あと何分で帰る?」「すべり台をあと何回やったら帰る?」と聞くといい。とにかく「責めない。否定しない」ことさえ意識していれば、その場の状況に応じて適切な言葉が出てくるものです。

友祈:思い当たる節がありすぎてびっくりしました。妻とは普段からお互いに「いまの言い方は良くないんじゃない?」って注意し合っているんです。

親野:そういう会話があるのはいいことだよ。

親野は、SNSで子育て世代に人気がある教育評論家だ

友祈:以前、息子がおもちゃの車を片づけなかったときの注意の仕方で、妻から指摘されたことがあって。何度言っても片づけないので、「全部捨てちゃうよ」って言ったところ、「“捨てる”はよくないよ」と。「じゃあ、なんて言ってるの?」って聞いたら、「おもちゃのおうちに戻さなかったら、ゾンビが持ってっちゃうよ」って。

親野:面白い(笑)

友祈:僕的にはですよ、「ゾンビが持っていってなくなったら、捨てるのと一緒じゃん」って思うんですけどね。

親野:奥さんの方は、ちょっとユーモアを交えたっていうことだよね。

友祈:電車の中で、息子が大きな声を出したときに注意しにくい。僕のボキャブラリー的に「いま、静かにするタイミングだよ」という感じでしか言えないんですけど、それだと抑えが利かないんです。

親野:「電車の中はアリさんの声で言おう」とか。片づけだったら「パパと片づけっこ競争やろう。何分でできるか、時間を計るよ。よーい、どん」というようにゲーム化するとか。

友祈:たしかに、ゲーム化したら楽しいかも。

親野:最近は深呼吸もおすすめしています。しょうもない状況を見たときに、とりあえず深呼吸して落ち着いて。そうすると自分の中に余裕ができる。そのまま言っちゃうと否定的になりそうなときも、深呼吸する間に脳が動いて、言い換えができたりします。

友祈:深呼吸ですか。やってみます。

親野:あとは、親から見て「できて当たり前」と思っていることをほめる。例えばご飯を食べ終わったときに、こぼしているときには注意しがちなのに、こぼしてないときはほめないよね。だから、こぼさずに食べたら「上手に食べたね、助かるよ」って言う。すると、だんだんこぼさないように意識するようになりますよ。

現在、岡山県岡山市を拠点とする佐藤は8月下旬に北海道函館市で行われた強化合宿に息子を連れて参加。育児に参加したいアスリートの状況を変えたいと奮闘している

質問)なんでも買ってあげない方がいいですよね?

友祈:(息子は)僕と性格がすごく似てるみたいで、こだわりがあるように思うんです。例えばおもちゃがほしいとなったら、絶対に手離さない。親の僕たちの方が根負けしちゃって、700円とか800円ぐらいだからと、つい買ってあげちゃうんです。でも、「子どもは2、3個のおもちゃがあれば、想像力を働かせながら遊べるから、新しいものをどんどん買うのはよくない」と聞いたことがあって。実際はどうなんでしょうか。

親野:たしかに物が少なければ、想像力をふくらませて遊ぶということはあります。反対に、ある程度の数のおもちゃがある場合は、いろいろなものを操作しながら遊びますし、関係づけたりすることで思考が広がるということもあります。まあ、おもちゃをあえて少なくしなくても、いつも遊ぶおもちゃは自然と決まってくるんだけどね。

友祈:たしかに、そうですね。

親野:では、「買って、買って」と言ったときにどうするか。まず大事なのは、しゃがんで目の高さを合わせて、「どうしたの」って共感的に聞いてあげること。「このおもちゃ、みんな持ってる」「そうなんだ。みんな持ってるとほしくなるよね」と、とにかく共感してあげる。

それで買ってあげてもいいんですよ。買ってあげると、子どもは、「自分には、一生懸命アピールすれば、夢を叶えられる力があるんだ」と思える。これを自己効力感といいます。

でも、買えないときもあるよね。そういうときは、たくさん共感的に聞いてから、「でも、この前これ買っちゃったから今日はがまんしよう」「出かける前に約束したから、今日はがまんしようね」と言ってもいいんです。子どもも、ほしい気持ちがわかってもらえた上で「でも買えないよ」と言われれば、かなり納得してくれると思いますよ。

友祈:うちの場合は、9割方自己効力感が満たされているかも(笑)

親野:厳格すぎて、買わないと言ったら絶対買わない、妥協しない、という親もいるんです。でも、あまりに親が厳格だと、子どもは「自分は無力だ」というメンタリティになっちゃうんですよ。

「0か100か」という思考では、子育てはうまくいきません。一定の基準はあった方がいいけど、人間同士の交渉をやってほしい。その場その場で、状況も子どもの要求の強さも違うしね。子どもの気持ちを汲んであげて、もし本当にほしいのなら応えてあげてもいいと思いますよ。

静岡県藤枝市にある佐藤の母校で対談が実現した

友祈:僕の競技におけるスタンスは、どうしても「0か100か」「やるか、やらないか」になってしまうのですが、対子どもとなると、それが無効化されちゃって。でも、いま先生の話を聞いて、それでよかったんだと確認できました。

親野:とにかく大事なのは親子関係を良くすることなんです。親子関係が良ければ、子どもの自己肯定感もどんどん高まっていく。また、親子関係は最初の人間関係なので、親を信頼できると、人は信頼していいものなんだという基本的体験になるんです。すると、兄弟、友だち、先生……といろいろな人への他者信頼感が育まれます。親子関係が悪くなると、自己肯定感は下がるし他者不信にはなるしで、いいことは一つもないです。

友祈:もやもやしていたことがわかって、すっきりしました。ありがとうございました。

親野:こちらこそ。また会いましょうね。

子どもはあっという間に成長する。「親子関係をよくすること」「子ども自己肯定感と他者信頼感を育むこと」を大切に、目の前にいる子どもとの日々を楽しみたい。

金メダリストになった教え子と対談した親野
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text by TEAM A
photo by X-1

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