コートにボールが2個!? 元バレーボール女子日本代表・佐藤あり紗が東北で「2個バレーボール」の大会を開催しつづける理由
サッカー、野球、バレーボール、バスケットボール、テニス……。どんな球技でもコートの中を駆け巡るボールは1個だけ。しかし、2個のボールがコート内を行ったり来たりする球技がある。それが“2個バレーボール”。元バレーボール女子日本代表の佐藤あり紗さんは、ウォーミングアップの一環として“2個バレーボール”に出会い、故郷を盛り上げたいという思いから東北で大会を開き続けている。そんな“2個バレーボール”の面白さ、魅力について伺った。
テクニック、経験関係なく誰もが楽しめる“2個バレーボール”

“2個バレーボール”とは、敵と味方から同時に1個ずつボールをサーブし、お互いに1回で返球しながら相手コートにボールが落ちたら1点の得点となり、勝ち負けを競うもの。1個のボールでも落としてしまうことがあるのに、同時に2個のボールがコート内を飛び交ったら、いったいどんなことになってしまうのだろうか。
「私がこの“2個バレーボール”に出会ったのは2013年、全日本の代表合宿の時でした。ウォーミングアップとしてやったのですが、もちろん最初は戸惑いました。でも、意外に自分は得意かもと思ったのです。私は代表チームではリベロのポジションで、点数を取る選手ではありません。しかし“2個バレーボール”では、ポジションによって有利・不利になることがありません。どんな人でも楽しめるゲームだったのです」
なぜ“2個バレーボール”は、どんなポジションでも、平等に楽しめるのだろうか。それは、2個のバレーボールが使われることにある。
「“2個バレーボール”は相手チームのコートにボールが落ちたら1点入りますが、2個のボールが同時にコートを飛び交っているので、常に視野を広く持って自分がどう動けばいいのか見極めなければいけません。ルールとしてスパイクは禁止していますが、そういったテクニック云々というより、視野の広さ、周りの選手と連携を取るためのコミュニケーション能力の高さが求められます。それが“2個バレーボール”は誰でも楽しめる理由です」
佐藤さんの代表選手時代のポジションはリベロで、スパイクで点を取ることはできない。しかし、後方からチームの動きを見て味方にボールを繋いだり、仲間の守備に支持を出したりするポジションなので、“2個バレーボール”に向いていたのだと語る。
なぜ東北で“2個バレーボール”大会を開催するのか?

チームの全員が互いに声を掛け合って、ミスなく効率よく動くことが重視されるのも“2個バレーボール”の特徴だ。
「実は私は人見知りのところがあって、全日本の代表に選出されたときも、初対面の選手たちと上手くコミュニケーションを取れるかどうか不安でした。でも、ウォーミングアップで“2個バレーボール”をすると、いつの間にか楽しく声を掛け合っているのです。しかも、たとえミスをしてしまっても落ち込むことはありません。ボールが2個なのですから、“仕方ない、大丈夫だよ”とお互いに笑い合うことさえできる。それも“2個バレーボール”の魅力ですね」
そうして“2個バレーボール”の楽しさにはまっていった佐藤さんは、宮城県仙台市の出身。地元の家族や仲間たちの支えがあったからこそ、自分はバレーボールの選手として活躍を続けられたと思っている。15年前の東日本大震災では、そんな大切な人々が深刻な被害を受けた。だから東北で“2個バレーボール”の大会を開催すれば、皆に喜んでもらえるのではないかと考えた。
「震災の被災地のために私ができることといったら、バレーボールを通じて学んだこと、感じたことを多くの人に伝えることなのです。“2個バレーボール”の大会を開催すればそれができる。また、被災地の宮城県にマイナスのイメージを持っている人もいるかもしれませんが、そういう人も宮城県を訪れるきっかけになればいいなと思いました」
佐藤さんが初めて“2個バレーボール”の大会を開催したのは、2020年9月。年齢やバレーボールの経験を問わず、誰もが楽しめるようにルールを少しずつ変えるなどして、今年7回目の大会が5月に開催された。
「コートに入れる選手は1チーム4~8人で、メンバーチェンジは何回でもOKです。サーブは比較的簡単なアンダーハンドにして、スパイクもジャンプしてするものは禁止ということにしました。ボールが2個ですから、空中でぶつかることもあります。その場合はノーカウント。大会は初めて参加される方もいらっしゃるのでルールはなるべく簡単にして、毎回最初にデモンストレーションの時間をとってルール説明もします。みなさんとても楽しんでくださって、リピーターも多いのが嬉しいですね」
“2個バレーボール”が精神的な視野、人の輪を広げる

佐藤さんの主催する“2個バレーボール”の大会は、なぜリピーターが多いのか。それはもちろん参加して楽しいと感じる人が多いからなのだが、他にも要因はいくつかある。
「出場できるのは、1チーム最低4人からということにしていますが、実は1人でも参加はできます。当日そういったシングルや少人数の方々を集めて、チームを作ってもらうのです。皆さん“初めまして”なのですが、不思議なことに当日できたチームの方が盛り上がっていたり、多く得点して勝利することも。また、極端なケースでは、たとえば妊婦なので試合には出られないという方も応援、声出し係としてチームに登録してもらうことも可能です」
つまり、“2個バレーボール”の大会では、ある意味“なんでもあり”なのだ。そんな大会だからこそ、勝てばもちろん嬉しいが、負けたとしても“みんなで仲良く戦えたから良かった”などと清々しく嬉しい気持ちで帰ることになる。だからまた参加したいとリピーターになるのだろう。
「全試合が終了後、大会のMVPを表彰するのですが、上手だった選手ではなく、試合を盛り上げようとしていたとか、コミュニケーションが上手に取れていたという選手を選ぶようにしています。そういったチームワークを重視していることを参加する皆さんにもきちんとお伝えしているからかどうかはわかりませんが、企業のチームの参加も増えています。ある企業では、部署の違う人とも仲良くなることを目的に参加することを勧められているそうです」
大会が終わった後、参加したチーム同士の交流が続いて練習試合をしたりといった広がりができていることも、大会を開催して良かったという佐藤さんの喜びに繋がっているそうだ。
「“2個バレーボール”は視野の広がりを養うことができると最初に言いましたが、私自身も大会のスポンサーになってくださる方々とのやり取りを通じて、精神的な視野の広がりを感じることができています。私はプロ選手を引退して、特定の組織に所属しませんでした。それは、バレーボールだけをしてきた自分には、違う世界のプロフェッショナルの視点、意見が必要だと思ったからなのですが、その意味でも“2個バレーボール”の大会の開催は、私自身にとっても意義のあるものになっています。これからも、大会は開催し続けていきます。スポーツは得意じゃないという方も皆楽しめるスポーツなので、一人でも多くの方に参加してほしいですね」
球技とは、大きさや形態はさまざまだが1個のボールを使って行うものだ。そんな常識に囚われずボール2個を使って行う“2個バレーボール”は、“世界のイメージを覆すことに繋がる”と佐藤さんは語る。コミュニケーションが促され視野が広げられるなど、多くの可能性を秘めている“2個バレーボール”。大会に参加してくれた人には、“ふとしたときに、そういえば私があんなことを言っていたなとか、ああいう生き方もあるのだなといった、人生の選択肢を増やすきっかけになってくれたら嬉しい”と、取材の最後を締めくくった。
PROFILE 佐藤あり紗
宮城県仙台市出身。東北福祉大学卒業。リベロとしてプレーし、国内リーグでの経験を経て日本代表に選出される。2013年ワールドグランドチャンピオンズカップにてベストリベロ賞を受賞し銅メダル獲得に貢献。第17回アジア選手権では銀メダルを獲得した。2016年リオ・デ・ジャネイロオリンピックに日本代表として出場しリベロとしてチームを支えた。現在は、バレー教室、講演、解説などの活動に従事している。
text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
写真提供:佐藤あり紗






