日本財団パラリンピックサポートセンター

【未来教育】コミュニケーション力、柔軟な発想力が育つ「インクルーシブ」な感覚の身につけ方 <後編>

【未来教育】コミュニケーション力、柔軟な発想力が育つ「インクルーシブ」な感覚の身につけ方 <後編>
2019.04.13.SAT 公開
将来、今はない新しい職業が増えていくと言われている昨今。めまぐるしく変化する未来を見据えて子どもたちへの教育改革も盛んに行われているが、これからは子どもたちに日々接する私たち周りの大人の意識改革も必要な時代だ。
<前編>では、これからの未来に必要となる、多様な人々と協調するスキルを育成する「インクルーシブ」な考え方とは? をカナダ在住のパラリンピック金メダリストで、国際パラリンピック委員会及び国際オリンピック委員会の教育委員会メンバーを務めるマセソン美季氏にインタビューした。
<後編>では、実際にその「インクルーシブ」なマインドを日常的に身につけていくコツを伺う。

日常の中で、「インクルーシブ」な感覚を養うためには?

編集:<前編>では、これから私たちが目指すべき、「インクルーシブ社会=あらゆる人が排除、孤立せずに安心して暮らせる社会」のお話から、先入観や固定観念を持たずにあらゆる人の多様性を尊重する「インクルーシブ」な考え方が、子どもたちの成長、そして将来にどんな影響を与えるか、について伺いました。

私自身、一昨年子どもが生まれたのですが、子どもには色んなことを体験させてあげたいと思うのと同時に、<前編>のお話を伺って、早速あらゆる人と小さな頃から関わらせいきたいと思いました。ただ、日本だと特に障がいのある方と接する機会がなかなかないのですが、どうしたら良いでしょうか?
 
マセソン:例えば、街中で障がいのある方を見かけたときにお子さんが興味や疑問を抱いたら、一緒に寄り添って考えたり話し合ったりしてみてはどうでしょう。あと、日本ではなかなか難しいかもしれないけれど、思い切ってその方に声をかけてみるのもいいと思ってます。初めて障がい者を見たときの子どもの反応は世界共通なんですが、周囲の大人たちがどう反応するかは国によって全く違うんです。日本では、子どもが車いすの人を指して「お母さん、あれ何?」と訊いても「指を差しちゃダメよ。行きましょう」と立ち去ってしまうことがほとんど。このとき、親は何も教えていないようで、実は『車いすの人=関わってはいけない存在』というような無言の教育をしているんですよね。

でも、カナダにいると「うちの子、車いすを見るのは初めてだからちょっと失礼もあるかもしれないんですけど、質問させてもいいですか」って、一緒にいるお父さんやお母さんが私のところに交渉しに来ることがあるんです。子どもだから、トイレはどうしているの?自転車とどっちが速いの?好きな食べ物は何?とか、車いすに関係のない質問もあったりなんですが、無言の教育をされた子と直接話をした子では、障がい者に対する印象がまるで違う。

もちろんすべての人が対応してくれる訳ではないと思いますが、自分と違う人と親が積極的に話をする姿を見せたり、そういう話題について気兼ねなく話をする機会を親が作ってあげたり。たとえ、当事者に話しかけられなかったとしてもオープンな気持ちで子どもに説明することができたら、20年後、30年後、子どもたちが大人になった時に、あらゆるタイプの人とコミュニケーションをとることに抵抗が少なくなるのではないでしょうか。
 
編集:ある意味、親の古い感覚で対処してしまうことで、子どもたちの感性や人間性の広がりを狭めてしまうのは、残念といいますか、もったいないですよね。
 
マセソン:大人は今まで積み重ねてきたものがあるから、変わるのはなかなか難しいですよね。でも、以前ある保護者の方から「初めて息子を誇りに思った瞬間があります」という書き出しのお手紙をいただいたんです。デパートで満員のエレベーターに乗っていたときに、途中のフロアで車いすの人が待っていることに気づいて「お母さん、降りようよ」と息子さんがお母様の手を引っ張った、と。自分には「譲って降りる」という発想がなかったから驚いたけれど、息子がそんなことができる子に育ってくれて嬉しかったと、お母様がわざわざ私にお手紙を書いてくださって。読み返すと今でも涙が出るんですけど、お子さん自身が行動を示すことで、親御さんや周囲の大人の考え方も変わっていくのかもしれないと、希望を感じるお手紙でした。地道にやってきたパラリンピック教育の成果を感じた瞬間でもありました。
 
編集:そういった子どものピュアな行動は、逆に大人がハッと気付かされるといいますか、教えられますね。自分の子どもがそんな風に育ってくれたら、私も心から誇らしいと思います。

パラリンピック・パラスポーツは、子どもたちの感性を広げる絶好のチャンス

編集:いよいよ来年は2020年ということで、オリンピックとともにパラリンピックが東京で開催されます。先ほど、普段はなかなか障がいのある方と接するチャンスがないというお話もありましたが、パラリンピック観戦やパラスポーツに興味を持ってみることも、大きなきっかけになりそうですね。
 
マセソン:スポーツが入り口だと第一印象がまるで違うでしょうね。パラアスリートの活躍を見て「かっこいい」「すごい」と感じることで、障がいをポジティプに捉えられるきっかけにも、インクルーシブ社会について親子で考えるきっかけにもなると期待しています。

編集:確かに私も以前見かけた記事で、子どもたちが義足のパラアスリートの姿を見て「仮面ライダーみたいでかっこいい!」と目を輝かせていた、といったお話を読んで、なるほど!そう捉えるか(笑)と、印象的で記憶に残っています。

マセソン:先入観や固定観念に邪魔されない子どもたちは、本当に発想が豊かですよね。最初の伝え方、伝わり方で、見え方や捉え方が本当に変わってくると思います。

編集:また、私自身パラスポーツに関わるようになって、単純に競技が「面白い!」と興味が湧いて、そこからインクルーシブ社会について知ったことで、人としての在り方を考えた時にすごく広がりが出たように感じています。これは是非とも子どもたちにも知って体験して欲しいと思いました。

マセソンさんが開発・普及に深く関わられているという、国際パラリンピック委員会公認の教材「I’mPOSSIBLE(アイムポッシブル) 日本版」が、まさにそんな役割を果たしていると伺いました。5月に第三弾が登場するとのことなのですが、「I’mPOSSIBLE」とは、どんな教材になりますか?
 
マセソン:パラリンピックを題材に、工夫の仕方や発想の転換などについて学ぶことで、インクルーシブな考え方を学んだり、考えたりすることが出来る教材です。小学生版と中高生版があります。「I’mPOSSIBLE」という名称には、不可能(Impossible)だと思えたことも、考え方を変えたり工夫したりすれば、できるようになる(I’m possible)という、パラリンピックの選手たちが体現するメッセージが込められています。

全国の学校に配布しており、任意で実施していただくプログラムなのですが、特別な講師がいなくても、教材を通して先生方が直接子どもたちにパラリンピックやパラスポーツの魅力、インクルーシブな考え方について教えることができるのが特徴です。特に日本版は、パラリンピックやパラスポーツの知識がない先生でも手軽にパラリンピック教育に取り組んでもらえるように配慮した作りになっていて、「分かりやすい」「使いやすい」と先生方からもご好評をいただいております。授業を受けたお子さんの保護者の方たちからも評判の良い教材なんです。

パラリンピック教育にはリバース・エデュケーション(子供が親や祖父母に教える逆向きの教育)の力があると言われています。自宅で「おうちの人に説明してみよう。一緒に考えよう」というような家族を巻き込んだ宿題なども盛り込まれ、子どもたちと一緒に先生や家族も学べる教材というのもポイントですね。

第一弾は「パラリンピックスポーツの基礎知識」、第二弾は「パラリンピックの価値」を伝える内容となりますが、まもなく公開される第三弾は、「パラリンピックを通してインクルーシブ社会を作るにはどうしたらいいか」といった内容になっていますよ。(小学生版は2019年版が第三弾。中高生版は2019年に第二弾、翌年に第三弾が発送予定)

編集:授業を体験した子どもたちからも、「すごく楽しい!面白い!」といった声が多いと伺ったので第三弾もとても楽しみですね。全国の子どもたちにぜひ「I’mPOSSIBLE」を通じたパラリンピック教育を体験してもらって、家族みんなでインクルーシブな考え方を身につけていただき、来年のパラリンピック観戦も盛り上げて欲しいと思います! 本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。


今回マセソン氏は、私たち周りの大人の言動が子どもたちに与える影響の大きさについて言及しながらも「親は悪くない。多様性に慣れていないだけなんですよ。逆に先入観のない子どもから発信されることで、親や周りの大人が学ぶことも多いんです」とおっしゃっていた。今すぐ私たち大人が、インクルーシブなマインドを持つには時間がかかるかもしれない。だがせめて、先入観や固定観念で子どもたちが学んだり体験したりするチャンスを奪わないようしたいものだ。

この記事の<前編>はこちら↓
【未来教育】20年後、子どもたちが世界で活躍するために、知っておくべき「インクルーシブ」な考え方とは?<前編>
https://www.parasapo.tokyo/topics/16350
PROFILE

マセソン美季
1973年、東京生まれ。東京学芸大学1年のときに交通事故で脊髄を損傷し車いす生活となる。1998年長野パラリンピック、アイススレッジスピードレースで金メダル3個、銀メダル1個を獲得。大学卒業後は、多くのパラリンピック選手を輩出してきたイリノイ州立大学へ留学。現在は、国際パラリンピック委員会(IPC)及び国際オリンピック委員会(IOC)の教育委員会メンバーを務めながら、日本財団パラリンピックサポートセンターのプロジェクトマネージャーとして勤務。パラリンピック教育を通じてインクルーシブな社会をつくるため、教材作成、普及啓発活動に取り組む。カナダ在住。2児の母。

Interview by Parasapo Lab
Text by Uiko Kurihara(Parasapo Lab)
Photo by Takeshi Sasaki
【未来教育】コミュニケーション力、柔軟な発想力が育つ「インクルーシブ」な感覚の身につけ方 <後編>

『【未来教育】コミュニケーション力、柔軟な発想力が育つ「インクルーシブ」な感覚の身につけ方 <後編>』