東京2020大会成功に向けたテストイベント「READY STEADY TOKYOーアーチェリー」にパラ選手も参戦

東京2020大会成功に向けたテストイベント「READY STEADY TOKYOーアーチェリー」にパラ選手も参戦
2019.07.18.THU 公開

梅雨真っ只中の2019年7月12日~18日、東京・夢の島アーチェリー場(江東区)で、東京2020大会を想定したテストイベント「Ready Stedy Tokyo(レディ ステディ トウキョウ)-アーチェリー」が行われた。

元軍人でリオパラリンピックにも出場したリカーブのルコウ

雨の試合も本番への貴重な経験に

アーチェリーのテストイベントは、オリンピックとパラリンピック同時に開催された。今回のイベントに参加したのは世界26ヵ国計131名で、そのうちパラアーチェリー選手は5名。海外からは、リオ2016大会でオリンピックとパラリンピックの両方に出場し、東京でパラリンピック3大会連続金メダルを狙うザーラ・ネマティ(リカーブ女子/イラン)と、リオパラリンピックに出場したマイケル・ルコウ、そしてティモシー・パルンボ(ともにリカーブ男子/アメリカ)。日本からはすでに東京大会への出場が内定している上山友裕(リカーブ男子)と重定知佳(リカーブ女子)だ。

リオに続き、東京でもオリンピック・パラリンピック両方への出場を目指すネマティ

会場の夢の島アーチェリー場は海が近いため、本番では強い風が吹くと予想されており、それに備えて準備をしてきた選手もいたようだ。しかし、今回は連日の雨模様。季節柄、想定の範囲内かと思われたが、苦戦を強いられた選手もいた。

「前髪をヘアスプレーで固めてきたのですが、雨で全部流れてしまって(笑) 雨水が目に入って視界もぼやけたりして、最悪です。でも本番当日にこの状況もあり得ると考えると、対策を立てないといけません。コーチと相談しながら、やっていきたい」(上山)

「眼鏡をかけているので、雨はやりにくいです。天気の影響もあって、ランキングラウンドのスコアも650点とイマイチ。期待したパフォーマンスではありませんでしたが、そこそこグッドでした」(ネマティ)

こうした状況でも、実力を発揮したのが重定だ。初日のランキングラウンドでは、6月の世界選手権(オランダ)で出したランキングラウンド自己最高記録の607点に迫る604点をマークした。

「最近、やっと国際大会でも600点台を出せるようになってきたんです。今日のような悪天候でも600点台を出せたということは、実力がついてきたのかなと思います」と充実した表情で語った。

急造ながらも健闘したネマティ/ルコウのミックスチーム戦

2日目のミックスチームラウンドを戦うネマティ(左)とルコウ

このランキングラウンドの結果をもとに、2日目のミックスチームラウンドと3日目以降の個人戦への出場者が決まる。

このうち、国別の男女混合団体戦であるミックスチームラウンドは、パラリンピックでは各国代表の男女の得点トップ1名ずつ、計2名の合計点をもとに順位を決めるのだが、今回のテストイベントでは、パラアーチェリー選手のうち点数が高かったルコウとネマティが1回戦に駒を進めた。

ネマティは今回が初来日だという

1回戦目の最後に登場したルコウ/ネマティペアの対戦相手は、アーチェリー強豪国、韓国のキム・ウジン/ジオン・イナのペア。ウジンはリオデジャネイロオリンピックのリカーブ男子金メダリストだ。韓国ペアの戦いぶりは実に見事で、試合では金的(9点・10点)を外さず着実に得点を重ねた。ルコウ/ネマティペアも決して悪くはなかったものの、金的を外すだけで劣勢となるハイレベルな戦いに、0-6のストレート負けを喫した。それでも、ネマティが女王の意地を見せ、最後にど真ん中を射抜いてみせたシーンでは、前回に続くオリンピックへの挑戦に期待を抱かせた。また、試合中はネマティが9点を射つとルコウが何度もうなずいたり、ルコウとイランのコーチが笑顔で言葉を交わすなど、急造にもかかわらずチームの雰囲気は良く、敗戦後の表情も明るかった。

※ミックスチームラウンドの勝敗は、セットポイントで決まる。1セットにつき、男女各2本、計4本の矢を放ち、合計点が高い方が2セットポイントを、同点の場合は1セットポイントを獲得。計5セットポイントを先に取ったチームが勝ちとなる。

「ルコウ選手は非常に優しく、フレンドリーに接してくれました。すばらしいスピリットを持っている選手だと思います。国は違うけど非常にいいコンビでしたし、良いチームを作れたと思っています」(ネマティ)

プレ大会を経て「アメリカのチームとして東京パラリンピックに出場したい」と話したルコウ

「これまでも出身国が異なる選手とチームを組んだことがありますが、いつも国の違いは気にせず、いち選手同士としてプレーしています。とくに彼女はシューターとしても人としても素晴らしく、アメイジングな経験になりました。パラの選手から見るとオリンピック選手はレベルが上だと思うので、私たちはハードワークしなければなりませんでしたが、楽しかったです。来年、アメリカチームの一員として、またここに来たいです」(ルコウ)

そう言うと、二人はグータッチを交わしてお互いの健闘をたたえ合った。

強豪との対戦後、笑顔で互いをたたえ合った

ステージのスロープ同様の配慮を会場全体に

今回のテストイベントは、会場設営やボランティアスタッフのオペレーションを試す目的があった。

「Ready Stedy Tokyo」のロゴや壁の色は選手に好評だった

「アーチェリーは選手が集中して行う競技なので、とくに視覚的な部分で選手に違和感を抱かせないことが重要です。そのため、的の後ろに設置するセーフティウォールという壁の色やそこに描くロゴの位置、選手を正面から撮影するためのメディアハイドと呼ばれるボックスの位置と色については、今回参加した選手の意見も聞きながら調整したい。また、得点の計測やスコアボードの結果配信といったシステム関係や会場を盛り上げるMCなどのスポーツプレゼンテーション、決勝ラウンドを行う仮設会場についても大事な確認ポイントにしています」

と、森泰夫東京2020組織委員会大会運営局次長は説明する。壁の色などについてはおおむね好評ということだったが、現時点で不明なのが仮設会場の仕様だ。ランキングラウンドは、先に整備された公営の「夢の島公園アーチェリー場」を使用し、決勝ラウンドは道を挟んで隣に位置する陸上競技場に仮設会場を設置する。今回は「コスト面も含めて効率的に行う必要があった」(森次長)とのことで、会場全体に砂利を敷き固め、その上にゴムや金属の板を敷いて通路としていたのだが、当然ながら車いすでのアクセシビリティには大きな課題が残った。

「出入り口の段差なども含めて、課題があることは認識しています。あくまでも仮設なので、ランキングラウンド会場と同じ仕様にするということはありませんが、選手の意見を聞いたうえで大会関係者と協議して、現状復帰をしやすくかつアクセシビリティにも配慮したものにしていきたい。もちろん、砂利部分も検討対象です」(森次長)

車いす選手たちが難色を示した会場の砂利

選手からも、会場に期待する声が聞かれた。

「まだ完成形ではないので、いろいろと指摘すべきところはあります。とくに段差が大きかったところは練習日に伝えて改善してもらいました。僕よりもっと障がいの重い車いすユーザーもいるので、そうした広い視野で考えてフィードバックしようと思っています」(上山)

パラ選手の意見により、急遽ケーブルへの対応がなされた

「まだ作っている途中だと思っています。完成を楽しみにしています」(ルコウ)

なお、決勝ラウンドで選手が競技を行うシューティングラインのエリアは地面より高く、ステージのような造りとなっている。今回はネマティら車いすの選手を想定してスロープが設置されていたが、これは本番でも同じ仕様を考えていると、アーチェリー会場の運営責任者・大倉有子氏は解説する。

決勝の舞台にはスロープがつけられていた

「(ネマティ選手がオリンピックにも出場した)リオ大会のように、東京大会でもパラリンピックの選手がオリンピックにも出場することは十分考えられます。その点を考慮し、オリンピックとパラリンピックでは、同じスロープつきの舞台を使用する予定です」(大倉氏)

こうした配慮が会場全体に行き渡れば、選手にとっても観客にとっても快適なパラリンピックとなるに違いない。

text by TEAM A
photo by Yusuke Nakanishi

東京2020大会成功に向けたテストイベント「READY STEADY TOKYOーアーチェリー」にパラ選手も参戦

『東京2020大会成功に向けたテストイベント「READY STEADY TOKYOーアーチェリー」にパラ選手も参戦』