東京2020テストイベント「パラトライアスロンW杯」でスイム種目が中止に

東京2020テストイベント「パラトライアスロンW杯」でスイム種目が中止に
2019.09.02.MON 公開

東京2020大会トライアスロン競技のテストイベントが8月15日から18日にかけて開催された。17日に行われたパラトライアスロンは、1種目目のスイムが中止になり、スタート時間やコースが変更。日本選手は土田和歌子(PTWC)が優勝、宇田秀生(PTS4)が4位に入るなどの成績だった。

水質の悪化でスイムが中止に

泳ぎ、漕ぎ、走る。それが通常のトライアスロンだが、今大会は走り、漕ぎ、走るというデュアスロンに変更になった。

変更が決定したのは当日朝3時頃。3時半ごろに各国の代表者を通じて選手たちに通知された。

「水質の問題は、前から言われていたことなので、デュアスロンになることは想定内だった」とリオパラリンピック日本代表の佐藤圭一が言えば、「身をもって経験したのは初めて。いつもは(2種目目の)バイクから(3種目目の)ランへつなぐ練習をしているが、今回は(1種目目の)ランからバイクへということで急遽朝、(パートの移り変わりを補助する役割の)ハンドラーと詰めていった」とは昨年、陸上競技から転向した土田和歌子。どの選手も、東京2020パラリンピック1年前に今回のようなケースを体験できたことを前向きにとらえているようだった。

本番のスイムコースであるお台場は波の影響が少ないのが特徴

この日のレース後、記者会見が行われ、ITU(国際トライアスロン連合)スポーツディレクターのゲルゲイ・マーカス氏は「昨日行った水質検査の結果、規則に則ってデュアスロンに変更した」と説明。JTU(日本トライアスロン連合)の大塚真一郎専務理事は、水質汚染を防ぐ目的で10日に水中スクリーンが張られたが、「台風にともなう強い雨や潮目などの要素がいくつか重なり、スクリーンの効果の想定を超えた」と話し、そのスクリーンを三重にする検討がなされていることを示唆した。

前日に試泳をした選手からは、お台場のスイムコースについて様々な声が聞かれた。

「濁りがすごくて手も見えなかった」(谷真海)
「海外と比べて遜色ない」(土田)

土田はランで世界ランキング1位のエミリー・タップ(オーストラリア)を抜き去った

マーカス氏は現在、競技会場変更の議論は行われていないとし、「リスクが確実に減る環境づくりに務めたい」と話している。

一方、天候やコース状況によるスイムのキャンセルや距離短縮は決して珍しくはない。PTS2女子で6人中5位に終わった秦由加子は、スイムを得意とするとあって「率直な感想としては泳ぎたかった。来年、泳げるように祈って、万が一泳げなかったとしても今回のような結果にならないようにしたい」とアスリートらしく前を向いた。

改めて振り返ってみると、16日に行われたトライアスロン・エリート男子は予定通り行われたが、16日午後実施の水質検査でITUが定める基準の2倍を超える大腸菌が検出され、17日のパラトライアスロンのスイムが中止になった。また17日実施の水質検査で数値が良化し、翌18日のトライアスロン・ミックスリレーは予定通り行われた。
状況は変わりやすいため、来年の本番で今回のような問題が起きた場合、デュアスロンになる可能性もあるが、パラトライアスロンの日程が調整されることもあるかもしれない。

ポンツーンからスタートする予定だったが……

猛暑のレースを戦う措置や工夫

また、もうひとつ暑さ対策も焦点になった。

スイムが中止になり、ランからスタートした

今回のテストイベントでは、気温や水温の高温を避けるためにレースのスタートが早められたほか、各種目のクーリングステーションやランの給水ステーション、医療スタッフを増やすなどの措置が施され、レース前も選手のクーリングベスト着用、コーチが栄養ドリンクや氷を渡すなども特別に認められた。日陰エリアの不足など課題も残ったものの、パラトライアスロンで救急搬送された選手はいなかった。

給水エリアではスタッフが両腕欠損の選手に冷水をかけていたり、レース後も選手にアイスバックを手渡す場面が見られた。選手からは「JTUスタッフの準備がよく、氷などを手渡してくれたおかげで最後まで無事に走ることができた」(秦)とスタッフへの感謝の声が聞かれた。

「汗が大量に出てうまく義足側で踏むことができなかった」という秦。ゴール後コースに頭を下げた

そんななかでPTWC女子で優勝した土田は「直前までアイスベストを着用したり、ウォーターローディングをするなど、考えてきた暑さ対策をしてまずまずのパフォーマンスを出すことができた」と手ごたえを口にしていた。

なお、15日のトライアスロン・エリート女子では、酷暑の影響でランが半分の距離に短縮されていた。

「沿道の声援が力になった」と宇田

過酷だったのは、観客だ。「屋根のないスタンドで長時間過ごすのはキツかった」という声が多数。会場内に冷水器とミストシャワーが設置されていたり、うちわなどの配布があったものの、本場に向けてさらなる対策が期待される。

土田が日本人唯一の優勝者に

今回のテストイベントは、東京パラリンピック出場のためのランキングポイントのかかるITUパラトライアスロンワールドカップでもあった。

客席に向かって笑顔で手を振る土田(中央)

車いすの女子で最初にゴールを切った土田は、「(苦手な)スイムがあったらこの結果だったのかわからない。1年後の舞台に立てるよう、しっかりポイントを獲っていきたい」と気を引き締めた。

1時間15分14で2位(女子PTS4)だった谷は、本番では同クラスのレースが行われず、障がいの軽い選手と戦わなければならないため「モチベーション管理が難しい」と胸の内を明かしたが、「お台場は職場や息子の保育園で週に何回も通っている場所。皆さんに応援していただき、改めてこのコースを走りたいなと思った」と“ホーム”のお台場で新たな決意を口にした。

今回、一部変更して行われたバイクのコースはテクニカルな4周回で、ランは起伏がなくほぼ平坦だ。トップ選手が揃う中で4位だった宇田秀生(男子PTS4)は、バイクを課題としつつも、「まあまあの結果。前の選手が見えていたので、1年後はしっかりキャッチできるように頑張りたい」と本番でのメダルを見据えた。

強い気持ちでテストイベントに臨んだ佐藤

激戦のPTS5で戦う佐藤は、健闘の6位。「今回はテストイベントということで、(1位だった、カナダのいステファン・)ダニエルとさら足でどこまで戦えるかチャレンジしようという気持ちで臨んだ。始めから持てる力を出し切るという挑戦をしたので、最後はフラフラになったが、いいレースはできた」といつになくすっきりとした表情で語った。

また、秦も「本番さながらの会場のセッティングは来年に向けるいいイメージづくりになった」と話し、奮起を誓った。

「今回はバイクにフォーカスしたが、なかなか結果が出ない」と谷は苦しい胸の内を明かした
【ITUパラトライアスロンワールドカップ リザルト】

女子
PTWC:1位 土田和歌子、2位 エミリー・タップ(オーストラリア)、3位 ローレン・パーカー(オーストラリア)
PTS2:1位 ヘイリー・ダンズ(アメリカ)、2位 フラン・ブラウン(イギリス)、3位 リーサ・リリヤ(フィンランド)
PTS4:1位 ケリー・エルムリンガー(アメリカ)、2位 谷真海、3位 シャーロン・ダグ(ニュージーランド)
PTS5:1位 7 ローレン・ステッドマン(イギリス)、2位 クレア・キャシュモア(イギリス)、3位 アリサ・コルパクチ(ウクライナ)
PTVI:1位 ジェシカ・トゥオメラ(カナダ)、2位 メリッサ・レイド(イギリス)、3位 ヴィータ・オレクシク(ウクライナ)


男子
PTWC:1位 ジョセフ・タウンゼント(イギリス)、2位 アフマド・アンダルーシ(フランス)、3位 ピエル・アルベルト・ブッコリエロ(イタリア)
PTS2:1位 マーク・バー(アメリカ)、2位 中山賢史朗
PTS3:1位 ファン・テ・キム(韓国)
PTS4:1位 ミハイル・コルマコフ(ロシア、2位 アレクシ・アンカンコン(ドイツ)、3位 ジェイミー・ブラウン(アメリカ)
PTS5:1位 5 ステファン・ダニエル(カナダ)、2位 マルティン・シュルツ(アメリカ)、3位 ジョージ・ピーズグッド(イギリス)
PTVI:1位 デイブ・エリス(イギリス)、2位 エアロン・シャイディーズ(アメリカ)、3位 ジョナサン・ゴーラフ(オーストラリア)

PTVIの丸尾敦子は5位だった

text by Asuka Senaga
photo by X-1

東京2020テストイベント「パラトライアスロンW杯」でスイム種目が中止に

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