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【Road to Beijing 2022】パラアイスホッケーの“再建”を託された元アイスホッケー女子日本代表監督

【Road to Beijing 2022】パラアイスホッケーの“再建”を託された元アイスホッケー女子日本代表監督
2020.01.16.THU 公開

「氷上の格闘技」と呼ばれるアイスホッケー。日本ではソチ、平昌と二大会続けてオリンピック出場を果たし、「スマイルジャパン」の愛称で知られる女子アイスホッケーへの注目度が、近年は男子を圧倒している。
そんな女子アイスホッケー日本代表の監督として戦った男が、パラアイスホッケー日本代表の舵取り役に就いた。
信田憲司(のぶた・けんじ)。実年齢を知ると驚かされるほどエネルギッシュな59歳だ。

17季にわたって指揮を執った中北浩仁前監督から、2019年6月に「監督」のバトンを受け渡された信田新監督は、就任にあたって「北京2022冬季パラリンピックで前大会(平昌)の成績を上回る」との目標を掲げた。

信田新監督がパラアイスホッケーにかかわるようになったのは、海外でプロアイスホッケー選手を目指していた中北前監督が、現役時代に信田監督が在籍していたコクド(※1)に直訴して、練習に参加したのが縁となった。旧知の二人は昨季まで監督とコーチとして日本代表を率いてきたが、世界を股にかけるビジネスパーソンの中北前監督は、多忙を極めることから、信田新監督誕生と相成ったのだ。

※1 コクド:アイスホッケー日本リーグに所属していたチーム

強い危機感を抱いて監督に就任

2019年も残り少なくなった頃、日本代表が強化合宿を行っていたやまびこの森アイスアリーナで話を聞くと、新監督からは開口一番このような言葉が飛び出した。

信田憲司監督(以下、信田) とにかく強い危機感を抱いていました。もともと中北前監督に誘われたのがきっかけで、アシスタントコーチという役割を担って日本代表を指導していましたけれど、監督に就任したときは、平昌2018冬季パラリンピック(8ヵ国中8位)を戦い終えて、多くの選手が引退してしまったので……。

ところが、信田の胸の内にあったのは、危機感だけではなかった。

信田 多くの主力選手が引退しましたが、パラリンピックのニュースや、試合中継などを見た人たちが、パラアイスホッケーという競技を知ってくれました。「他のスポーツをやっていたけれど、パラアイスホッケーをやってみたい」という選手も、少しずつ出始めているので、楽しみなチームになりそうだなと思っています。

楽しみなチームになりそうな理由は、それだけではないようだ。

信田 今まで日本代表に最も足らなかったのは、「チーム内で競争する環境」です。海外のライバルチームと競い合って勝つという意識はあっても、チーム内での競争意識は、ほとんど見られませんでした。でも最近は、チーム内の競争意識が芽生え始めて来ていますから、選手たちの意識が、かなり変わってきていると思います。

だが、パラリンピックでメダル争いをする強豪国と比べると、選手層が厚いとは言えない。それだけに実戦経験の少ない選手たちのレベルアップも課題となる。

信田 課題を克服していくためには、どこへ出向いて、どのような相手と戦うのがいいのかを考えて、強化スケジュールを詰めていくようにしています。

海外遠征が減少。指揮官はどのように戦う?

日本代表の針路を左右する強化スケジュール作りは、順調に進んでいるのだろうか。

信田 以前に比べると、シーズン中に何度も海外遠征を繰り返すようなスケジュールを組むのは難しいですし、相手チームの事情でキャンセルになることもあります。今季も日本とレベルの近いスウェーデンとの試合を予定していたのですが、スウェーデン側の事情によってキャンセルになってしまい、ランキングが上位のイタリア、ノルウェーと戦うことになりました。

青写真とは異なった点もあるようだが、信田はテーマを持って海外遠征へ挑むつもりだ。

信田 チームの方針に沿って、選手たちにはしっかりとしたホッケーをして欲しいです。具体的には、状況に応じて動くと言った基本も含めたチームのシステムを徹底して覚えてもらいます。これまでは、こう動いていれば大丈夫だろうと、何となくプレーをしていた時間もあったでしょうけれど、「日本代表の戦い方は、こういうスタイルだ!」という自分たちのシステムを、全員が完璧に頭に入れてプレーをしてもらうようにします。

今までにも増して、システムを重視する理由は何故か。

信田 日本の選手たちに、これからサイズを求めるのは酷な注文ですから、システムの徹底や、プレースピードを上げることが必要になるはずです。そのためには筋力やパワーはもちろん、先を読む力も上げていかなければならないと思っています。

課題を挙げた一方で、明るい点もある。昨季(2018-19シーズン)までと異なり、日本代表の合宿に参加する選手が増えていることだ。

信田 平昌パラリンピックに出場した効果で、パラアイスホッケーをやってみたいという選手が、少し増えてきたようです。おかげで今シーズンは育成選手も練習に参加しています。

今までになかった育成選手制度。彼らはどのような練習をしているのだろう?

信田 基礎体力アップと並行して、状況に応じたプレーができるように“ホッケーIQ”を上げていくことをテーマに挙げています。

だからと言って、監督やコーチらが、選手に全てを教えるわけではないようだ。

信田 いろいろなタイプの選手がいますから、選手たちに考えさせることも大事だと思っています。

育成選手制度を採用した効果は、表れてきているのだろうか。

信田 育成選手たちが、かなり頑張っているので、ベテラン勢が「負けられない!」と刺激を受けている様子です。逆に育成選手をはじめとする若い選手たちは、日本代表でプレーしてきたベテランと一緒にプレーできるのは、とても大きいと思います。

パラアイスホッケーに期待の新星現れる!

育成選手を含めた次世代を担う選手の中で、注目すべきプレーヤーを指揮官に聞いてみた。

信田 筆頭格は石川雄大(FW・東京アイスバーンズ所属)です。トレーニングに対する姿勢がしっかりしている選手で、スレッジ(※2)に乗ったときのバランスが上手に取れるようになってきました。さらに、パスレシーブの確実性も上がってきました。

※2 スレッジ:選手がプレー中に腰掛けるそり

他にも注目選手はいるようだ。

信田 新津和良(FW・長野サンダーバーズ所属)は、車いすバスケットボールをやっていたので、センスのいい選手です。少しでもリンクで練習しようとMウェーブ(長野市オリンピック記念アリーナ)の一般滑走時間に通い続けていたら、その話を耳にされた橋本聖子参議院議員が、もっと練習時間がとれるようにしてあげたらと、進言してくださったそうです。

近年のパラアイスホッケーで最も話題となったのは、61歳にして平昌パラリンピックに日本代表の一員として出場した福島忍(既に引退)だろう。大会前から多くのメディアに取り上げられ、スポーツファンに限らず話題となった。だが、2022年の北京パラリンピックでは、若手選手が大きな話題を提供してくれるかもしれないという。

信田 期待の若手として、楽しみな選手も出てきています。その筆頭格は中学生の関谷譲(GK・東京アイスバーンズ所属)です。GKをやりたいと志願してきたのですけれど、まだ体が小さいし、最初はすぐやめてしまうんじゃないかな?と思いました。

だが、そんな心配は杞憂に終わったようだ。関谷はアイスホッケー日本代表の守護神を務めた信田の下、一歩ずつ進化を遂げ始めている。今後の日本の命運を握る選手と言っても過言ではない。

信田 どのポジションも大事ですけれど、GKが安定しているのが一番大事ですから。

このような期待の新星がさらに現れ、再び世界のトップステージで戦うことができるのか。“再建”を託された元アイスホッケー女子日本代表監督の手腕に、大きな期待が集まる。

text by Jiro Kato
photo by Haruo Wanibe

【Road to Beijing 2022】パラアイスホッケーの“再建”を託された元アイスホッケー女子日本代表監督

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