車いすバスケット・大阪カップ、厳しい戦いから女子日本代表が掴んだもの

車いすバスケット・大阪カップ、厳しい戦いから女子日本代表が掴んだもの
2020.02.20.THU 公開

2月14日〜16日、丸善インテックアリーナ大阪にて開催された「2020国際親善女子車いすバスケットボール大阪大会(大阪カップ)」。今年で18回目を迎えた大阪カップは、出場を予定していたオーストラリア代表が不参加となり、日本、イギリス、カナダの3ヵ国で開催された。女子日本代表にとっては、東京2020パラリンピックに向けた貴重な国際試合の機会。結果だけを見れば全敗だが、強豪国相手に収穫もあり、価値ある4連戦となった。

全敗の中でつかんだ確かな手ごたえ

「悔しいというよりも、やりきれないというか。なぜ勝てないんだろうという思いです」

最後のカナダ戦を53対63で敗れた直後、日本の柳本あまね(2.5)は淡々と語った。

高さで圧倒するカナダ女子代表のエース、アリン・ヤン

大会初日に17点差で敗れた相手。前半の日本は、高さと得点力で突出するアリン・ヤン(4.0)を封じ、障がいの程度が重いローポインターの萩野真世(1.5)、北間優衣(1.0)らが得点を重ねる。カナダのゲームメイクを担うロザリー・ロランド(3.0)、シンディー・ウエレ(3.5)が投入された後も、リードを保ったまま前半を折り返した。だが、後半はカナダの圧力の前に力尽きた。今大会、イギリス、カナダと2度対戦した日本は、4戦全敗で大会を終えることとなった。

歯を食いしばって戦ったローポインターの北間

2018年世界選手権銀メダルのイギリス、昨年アメリカ大陸王者となったカナダ。パラリンピックの優勝候補といえる強豪国とのハードな4連戦。日本にとっては、アーリーオフェンスを始めとした展開の速いトランジションの精度を確認する絶好の機会だった。

結果だけを見れば全敗。冒頭の柳本のように、試合後の選手たちは “もどかしさ”を感じているように見えた。他方で、収穫もあった。それは、声とプレーでチームを鼓舞し続けた北田千尋(4.5)の、こんな言葉からもうかがい知ることができる。

「勝負できるクォーターや時間帯もある。私たちのトランジションバスケは海外勢にも通用することがわかりました。それは大きな自信です」

今大会日本選手唯一の個人賞を受賞した1.5クラスの萩野

とくに、ディフェンスである。格上相手の守備では、より柔軟な対応が求められる。岩佐義明ヘッドコーチ(HC)はこう話す。

「高い位置のプレスを中心に、試合中に判断してハーフ・コートディフェンスを使い分けるようなチームを作っていきたい。今大会でも試して、ある程度成果は出てきたと思います」

日本のどの選手がマークについてもミスマッチとなるような、アリン・ヤンやイギリスのエイミー・コンロイ(4.0)といったビッグマンに対し、ローポインターの萩野や北間らも果敢にチェックに向かう。ヤンやコンロイらをペイントエリアから少しでも遠ざけることで、得点力を減退させることに務めた。

日本の司令塔、藤井郁美(4.0)は言う。
「ハーフコートのディフェンスを相手は確実に嫌がっていました。前半ではしっかり守ることができていたと思います」

キャプテンの藤井は手ごたえを口にした

とくに、最後のカナダ戦だ。得点源のヤンを押さえれば、ボールを散らす役割でもあるロランドやウエレを困らせることができる。

大会を通じて、計96点を1人で稼ぎ出したヤンを一時的に封じ込めたことは、ハーフコート・ディフェンスが機能した証と言えるだろう。「ディフェンスから流れをつくる」と柳本が言うように、好ディフェンスが起点となってスムーズな攻守転換を可能にしていた時間帯も確かにあった。

連戦で露呈した“差”も収穫に

そうはいっても、最終スコアで突きつけられた、強豪国と日本の差。それは一つには、攻守におけるスタミナと、プレーの精度といえるのかもしれない。

イギリス、カナダそれぞれとの2戦目では、第3あるいは第4クウォーターで大差を付けられたことが試合の行方を決定づけた。

ディフェンスに定評のある柳本

「フィジカルの差は大きいです。相手にハーフコート・ディフェンスを敷かれた時に押しきれなかったり、疲労で声を出す余裕がなくなって、コミュニケーションミスが起きたりすることもありました」
と柳本がいえば、藤井もこう話す。

「相手のトランジションが速くなっていったのに対して、自分たちが遅くなって、ファウルでしか止められない状況でした」

後者の「精度」はコーチ、選手の双方が繰り返し口にした言葉でもあった。例えばシュートの精度だ。

通常の2ポイントシュートの決定率は、相手の2チームが日本を10〜20%ほど上回っていた。

イギリス戦を始め、インサイドにおいては柳本のピックアンドロールが決まるなど、シュートまでのプロセスで好形をつくるシーンもあったが、フィニッシュ局面において全体的に波があったことは否めない。


ベンチで苦い表情を見せていた岩佐ヘッドコーチ

岩佐HCは首をひねる。
「(シュート精度は)トレーニングの成果が出なかった。まだ波があります。期待を持って送り出しても、引っ込めて別の選手に替えてしまったこともありました。メンバーを生かしきれなかったのは、私にも責任がある」

実際、シューターとしての役割を期待されている土田真由美(4.0)が、1度目のイギリス戦を除いて精彩を欠き、カナダとの2戦目では交替早々にファウルをおかし、ベンチに戻る場面もあった。

スタミナとプレーの精度。勝敗を左右するポイントでもある。だが見方を変えれば、課題の露呈も連戦の収穫と捉えることもできるのではないか。

「一人ひとりが“自覚”と“責任”を」

「まだまだ成長できるチームだと思う」と藤井は言う。

後半の胆力、シュートの精度、チェアワーク、判断力……。課題は多い。

長く日本チームを引っ張る網本も障がいクラス4.5点だ

また1月末には、国際車いすバスケットボール連盟が、国際パラリンピック委員会から選手のクラス分けの公平性に関して指摘を受けた。東京大会を含むパラリンピックでの競技実施を左右しかねない問題で、目下クラス分け基準の見直しに向けた取り組みが進められている。直近では、障がいの程度が軽い持ち点4.0と4.5の選手が対象。藤井、網本麻里(4.5)を含む編成をベースとする日本も、編成の再検討を余儀なくされる可能性もある。

しかし、持ち点に関わらず、強豪国に引けをとらなかった前半のディフェンスとトランジションが、上述した藤井の言葉の裏付けでもある。

去る2月7日に千葉県・浦安で組まれたイギリスとの練習試合では、67対25で大敗。「ミーティングや個々の話し合いを重ねて、雰囲気を上げてきた」(北田)という。それから10日後。大阪のコートには、一筋縄ではいかない日本チームの姿があった。

女子日本代表が、東京パラリンピックで掲げる目標は「銅メダル」。強豪国相手に“勝ちきる”ことのできなかった今大会を踏まえれば、現時点では高い目標なのかもしれない。それでも発展途上のチームは、他勢が知らぬ間に高みに到達する可能性も秘めている。到達速度を速めるには、パラリンピックまでの半年間の鍛錬にかかっている。

女子代表は自国開催のパラリンピックでメダル獲得を目指す

北田は、オーストラリア戦後にこう言い残した。
「40分後に1点でも上回っていなければ勝てない。そこをどう突き詰めていくのか、(パラリンピックまでの)半年間で、一人ひとりが責任と自覚を持ってやっていかないといけない。コート内外での自覚と責任。(日本代表の)12名であることの責任をしっかり果たしていきたいと思っています」

【2020国際親善女子車いすバスケットボール大阪大会 リザルト】
1位 カナダ
2位 イギリス
3位 日本

3日間にわたり、トップレベルの選手たちによる白熱のプレーが展開された

※カッコ内は、障がいの種類やレベルによって分けられた持ち点。

text by Naoto Yoshida
photo by X-1

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