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自転車・メダル候補たちも再開に喜び、全日本トラック有観客で開催

自転車・メダル候補たちも再開に喜び、全日本トラック有観客で開催
2020.11.11.WED 公開

11月5日から4日間にわたって、群馬県のヤマダグリーンドーム前橋で「第89回全日本自転車競技選手権大会トラック・レース(エリート・パラサイクリング)」が開催された。パラサイクリングは週末の2日間行われ、8選手(二人乗りタンデムのパイロットを含む)が出場。新型コロナウイルス感染症の対策を行ったうえで無料開放された観客席からは選手たちにあたたかい拍手が送られた。

オリパラ有望選手が自転車の魅力をアピールし、スタンドから拍手が沸いた

記録を更新し続ける杉浦&タンデムペア

ほとんどの選手にとって初めて走るバンクだった。今回の全日本トラックは周長335mの競輪場で行われ、伊豆ベロドロームなど国際規格の250mの競技場とはその特徴が異なる。加えて、コロナ禍で開催される初の全日本。久しぶりのレースで選手たちは緊張気味の表情だったが、それぞれが実戦で走る喜びを噛み締めた。

「緊張したけど、半年ぶりの大会は楽しかった」と語ったのは、パラリンピック初出場を目指す木村和平(男子Bクラス)だ。 7日に1kmタイムトライアルに出場し、大会新記録の1分4秒586をマーク。8日の4km個人パーシュートこそ振るわなかったが、今大会は木村と倉林巧和ペアが東京パラリンピックへ向けて再びギアを入れる、大きなきっかけとなったに違いない。

男子Bクラスの木村和平(右)と倉林巧和パイロット

コンビネーションが勝敗を大きく分ける二人乗りのタンデム。だが、この春から夏にかけての二人の練習環境は厳しいものだった。

2017年から倉林とペアを組む木村は、文字通り“二人三脚”で練習を行う。2018年春から倉林と同じ楽天ソシオビジネスに所属し、会社でも共にトレーニングに励んでいたが、コロナ禍で出社人数が制限されており、「ペアを組んで以来、一番練習できない年だった」と木村は明かす。

一方の倉林は「自粛期間は個々の力を伸ばすうえで、有意義な期間になったはず」と前向きだ。これについては木村も新たな気づきを得たようで「サドルのポジションの調整など、じっくり取り組めたのはよかった」と振り返る。

現在は、強化合宿も再開。スタートのタイミングなどの感覚を戻してレースに挑み、今大会を無事に終えたが、ここからが世界で東京パラリンピック出場のためのポイントを獲得する上で重要になる。
「今回走って自分たちの実力が分かった。東京パラリンピックに向かって、ベストの走りができるようがんばりたい」(木村)と気を引き締めた。

杉浦佳子は500mタイムトライアルで今年、世界選手権の表彰台に上がっている

7日に行われた500mタイムトライアル。41秒611の日本新記録を叩き出した杉浦佳子(女子C3)は、拍手が湧くメインスタンドに何度も頭を下げて感謝を表した。

ロードで東京パラリンピックの金メダルが期待されるが、パワー強化のためにトラックも重要視する。今大会に向けては、トラックの専門家に技術を習いにいくなど対策をして臨み、ペース配分などの課題はあったものの、まずまずの結果で大会を終えて胸をなで下ろした。

リオパラリンピック後に彗星のごとく現れ、ここまで順調に記録を伸ばしているように見える杉浦だが、レース後、報道陣の前に現れると思わず涙を見せた。
「日本記録が出て、すごくほっとしました。お世話になった人、支えてくれた人たちに恩返しできるなって……」

2020年夏に予定されていた東京パラリンピック開催延期による不安、日々の練習環境が整わないストレス……それは、数々の世界タイトルを手にしてきた“ロードの女王”の心理面に少なからず影響を及ぼしていた。

それでも、自らの日本記録を更新できなかった3㎞個人パーシュート後は「悔しいの一言。明日からの練習の糧になる」と清々しく語り、次戦までのステップアップを誓った。

男子Cクラスは、一本足でペダルを回す川本翔大が制した

また、男子C(二輪)カテゴリーは、リオパラリンピック日本代表の川本翔大(男子C2)が出場2種目で優勝。得意の3㎞個人パーシュートは自身の日本記録に3秒ほど届かなかったが、障がいのクラスによって異なる係数をかけて算出された計算タイムで藤田征樹(男子C3)を上回った。

「久々の大会は体力的にきつかった。タイムはよくなかったが、一位を獲れたのはよかったかな」。課題を口にしながらも前を向いていた。

コロナ禍の実戦経験を力に

スタンドから沸いた拍手に応える藤田征樹は日本のエースだ

今大会は新型コロナウイルス感染防止策として、観客にはマスクが配布され、観客席は一席おきに使用。入場時には手指のアルコール除菌が義務付けられ、サーモグラフィカメラでの検温も徹底されていた。

福島から家族の応援で訪れたという37歳の女性は「大会の盛り上がりをライブで感じることができたし、来られてよかった」と笑顔で話す。新記録やデッドヒートが生まれると、ふらりと立ち寄った競輪ファンらも拍手を送った。

そんな中で全日本に出場し、試合ができる喜びを語る選手が多かった。

北京・ロンドン・リオパラリンピックのメダリストで東京でも活躍が期待される藤田も、そのうちの一人だ。

自身は実業団のレースですでにレース復帰を果たしているが、パラサイクリングの国内公式戦はコロナ禍では初となる。

「自転車の大会も少しずつ再開されるようになり、今大会は競技のライブ配信もあった。(主催側が)スポーツをやっていくんだという情熱を持って開催してくれていると感じる。選手として感謝しかない」

競輪場で開催された全日本自転車競技選手権大会トラック・レース

日本自転車競技連盟(JCF)は、開催地及び日程を変更して本大会を開催したが、東京オリンピックの日本代表に決まっている新田祐大らトップ選手も「意義のある大会だった」と口々に述べていた。

また、これまでパラサイクリングは、日本パラサイクリング選手権として同時開催されていたが、今年度からJCFの運営になった。

「健常者の選手たちのレースを見て得るものがたくさんある。大会に参加させてもらえて感謝しているし、来年以降もぜひ続けてほしい」
とは杉浦。

元競輪選手の石井雅史は「気持ちよく走れた」

一方、パラサイクリングの出場選手(パイロットを除く)は昨年の11人から7人に減少しており、「地域の記録会で呼びかけるなどの普及活動も必要。東京パラリンピックをチャンスと捉えて、パラサイクリングの選手を増やしたい」と北京パラリンピックの金メダリスト・石井雅史は話している。

2020年の全日本自転車競技選手権大会トラック・レースは、さまざまな挑戦の始まりを感じさせる大会になった。

【第89回全日本自転車競技選手権大会トラック・レース(エリート・パラサイクリング)リザルト】

■タイムトライアル
女子C2-3:1位 杉浦佳子 2位 藤井美穂
男子C2-3:1位 川本翔大 2位 藤田征樹 
男子C4-5:1位 石井雅史 2位 沼野康仁
男子B:1位 木村和平/倉林巧和

■個人パーシュート
女子C2-3:1位 杉浦佳子 2位 藤井美穂
男子C2-3:1位 川本翔大 2位 藤田征樹 
男子C4-5:1位 石井雅史 2位 沼野康仁
男子B:1位 木村和平/倉林巧和

text by Asuka Senaga
photo by Jun Tsukida

自転車・メダル候補たちも再開に喜び、全日本トラック有観客で開催

『自転車・メダル候補たちも再開に喜び、全日本トラック有観客で開催』