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違いを認め合えるコミュニティづくりのヒントにも。視覚障がい者のボランティア参加をスタンダードにする取り組み

違いを認め合えるコミュニティづくりのヒントにも。視覚障がい者のボランティア参加をスタンダードにする取り組み
2021.03.05.FRI 公開

障がいのある人が自らの言葉で伝え、それを周囲が受け止め、双方が互いにコミュニケーションを図りながらよりよい社会をつくっていく――。東京2020大会に向けた準備をきっかけに動き出した、視覚障がい者と晴眼者のインタラクティブなボランティア活動は、これからの日本、そして世界のレガシーとなるのか。視覚障がい者の参加による、大会の3つの基本コンセプトのうちの1つ「多様性と調和」の実現に向けた取り組みを追う。

※本記事は、2020年12月に行われた、日本財団ボランティアサポートセンター主催の『視覚障害者のボランティア参加実践報告会~東京オリンピック・パラリンピックとその先に~』より構成しました。

視覚障がい者ボランティアを育成する

オリンピック・パラリンピックでは、これまで多くのボランティアが活躍してきたが、2012年のロンドン大会では、ゲームズメーカーと呼ばれたボランティアスタッフの活動がフォーカスされ、彼らは「大会をつくる人」として活躍し、同大会成功の一翼を担った。

車いすで観客を案内するロンドン大会のボランティア photo by Getty Images Sport

そして東京2020大会。視覚障がいのある人がボランティアになるという歴史的なチャレンジが始動した。この取り組みは、同大会を迎える日本だけでなく、今後行われるオリンピック・パラリンピックの開催都市にも受け継がれることが狙いである。

「東京大会のレガシーにしたい」と今回の取り組みの発起人の1人である日本パラリンピック委員会の河合純一委員長。この挑戦への思いは人一倍だ photo by Volasapo

実は1998年に行われた長野オリンピック・パラリンピックにおいても、視覚障がい者ボランティアはいたが、当時は鍼灸師や盲学校の教師など専門的な技術を持つ人のみだった。しかし今回のチャレンジは、学生など、必ずしも専門知識を有しない視覚障がい者への働きかけである。より多くの視覚に障がいのある人が参加し、さまざまなバックグラウンドを持ったボランティアがチームで活動することが、「多様性と調和」の実現につながるからだ。

東京2020大会で活動するボランティアの育成・研修・運営をサポートする日本財団ボランティアサポートセンター(以下、ボラサポ)では、まず、2018年に視覚障がいのある人がボランティアに参加するきっかけとなるセミナーを開き、その後、5回にわたり視覚障がい者のボランティア参加の機会提供を行った。

イベントでは、視覚障がい者ボランティアと一般のボランティアがチームとなって活動した。チームで活動することで、視覚に障がいのある来場者への具体的なサポート方法を互いに話し合える利点がある。だが、課題も見えた。そこで、視覚障がい者ボランティアから意見を集め、東京2020組織委員会へ注意点やサポートなどを提案した。

これらの試行錯誤は、オリンピック・パラリンピックによるさまざまなバックグラウンドを持つ人々が互いを認め、尊重し合える社会を実現するために、障がいのある人とどのように調和していくかというモデルを築くことにつながる。

活動前にチームでミーティングを重ねた(パラ駅伝 in TOKYO 2019にて)

浮かび上がった課題は?

実際に、視覚障がい者ボランティア活動では、何が課題となったのか。

「パラフェス」や「パラ駅伝」などの大規模イベントで行った東京2020大会本番に向けた視覚障がい者ボランティアの実践で、障がい者ボランティアスタッフは、資料の封入作業や入場ゲートでの配布業務、コンテンツの運営サポートを行った。しかし、スタッフへのサポート不足の声も上がった。そこで、集合時間を早め、空間把握や会場説明の時間を増やしたり、個別説明の機会を作ったりするなどして改善を進めた。視覚障がいと言っても、見え方や捉え方が一人ひとり異なるため、柔軟な対応が必要になった。

また、一般のボランティア向けに、視覚障がい者ボランティアからサポートについての要望などをより具体的に話してもらうことで、事前にコミュニケーションをとる機会を設ける工夫もした。

胸に障がい種別の目印となるステッカーをつけて活動した
(i enjoy! パラスポーツパーク in 東京おもちゃショー2019にて) photo by Volasapo

イベントでは、安全上の配慮やマネジメントのため、視覚障がい者ボランティアが着用するスタッフ用のユニフォームに目印となるステッカーを貼った。しかし、実際には“障がい者というレッテル”と感じる人もいたという。これについてプロジェクトの発起人でもある筑波大学非常勤講師の宮本俊和氏は、「障がい者ボランティアの受け入れ態勢ができていない状況ではやむを得ない。 」と話している。

このように、課題の抽出と改善や工夫を繰り返しながら、視覚障がい者ボランティアの活動に対し、障がい者と晴眼者が互いに思いやることを大切にして理解を進めた。そして、ボラサポでは実践などで作り上げてきた視覚障がい者へのサポートに対するメソッドを一般化できるよう、『ボランティアガイド』を作成。視覚障がいのある人がボランティアに参加する最初の一歩を踏み出す後押しをしたいという思いが込められているほか、一般の人にとっても有益な障がいのある人への声掛けやサポートのポイントが掲載されている。

参加者からのリアルな声

ここでは、実際にイベントでスタッフとして活動を行った視覚障がい者ボランティアの声を紹介したい。

石川県で盲学校教諭として勤務する全盲の石田陸雄さんは、東京2020パラリンピックの射撃会場でのボランティアを予定しており、ボラサポ提供のイベントでスタッフとして活動した。当初はボランティアをすることに不安があったと言うが、「視覚に障がいがあっても周りの人のサポートがあればボランティア活動ができると実感した」と語り、「会場の全体構造を把握できる時間を設けてくれたのが助かった。自分から支援やサポートしてもらいたいことをしっかり伝えたこともよかったと思う」と回想した。

白杖を手にブースで来場者に説明を行う石田さん
(2019年のi enjoy! パラスポーツパーク in ParaFesにて)

東京パラリンピックでオリンピックスタジアムに配置される予定の秋吉桃果さんは、弱視ながら以前よりボランティア活動を経験している学生だ。ボラサポ提供のボランティアには誘われて参加したが、「『障がいのある人もボランティアに積極的に参加しよう』というスローガンのようなものがないと、障がいのある人はボランティアに参加できなかったのか」と率直な思いを述べた。支援不足も感じたと言い、「私が参加してきたボランティア活動は、障がいに理解のある友だちがサポートしてくれていたからできたと気づいた。障がいのあるボランティアスタッフにはどういったサポートが必要なのかを浮き彫りにすることで、東京2020大会に視覚障がい者ボランティアが多く参加していくことができるとわかった。また、個別に説明してもらえたことで不安が解消された。ボランティアのチーム内に視覚障がいのある人がいれば、一般のボランティアも障がいのある観客への説明もしやすくなるのでは」と続けた。

これまでも多数のボランティア活動を経験している弱視の秋吉さん photo by Volasapo

視覚障がい者ボランティアの取り組みには、障がい者と晴眼者の相互理解という目的もあるが、障がい者自身が成長する場所にもなり得る。

教師である石田さんは、視覚障がい者ボランティア参加への一歩を踏み出すまでの過程が、自己表現を培うと言う。

「自分の障がいを受け止めきれない生徒もいる。その中で、まずは生徒自身が授業や日常生活を通じて自分自身を知り、理解していくことが必要かなと思う。その上で、自分の得意・不得意や自分が求めることを自分の意志で周りに伝えていく自己表現の能力を身に着けていくことが大切。そこからコミュニケーションが生まれ、輪が広がっていく」と熱っぽく語る。

一方、秋吉さんはボランティア活動を通じて自己表現を学んできた。

「いつもの生活の中では、周りは私の目の見えにくさをわかってくれている。でもそこから一歩離れると、障がいのある人と接したことのない人と関わることになる。ボランティア活動を通じて、自分が求める具体的なサポートを説明しないと、一緒に活動するにあたってお互いにすれ違ってしまうということ、私自身から視覚に障がいがあって苦手なことできることがあると伝えなければならないことを学んだ。ボランティア活動は自己表現を身に着けるいい機会。いろいろな人に参加してほしい」と話した。

リオパラリンピック競技会場で記念撮影をするボランティアたち photo by X-1

視覚障がい者ボランティア参加の取り組みは、障がいのある人もない人も自身の学びと成長の機会であり、同じ空間を共有しながらお互いの歩み寄り方や関係の築き方、さらには相互作業が生み出す新たな可能性も照らしている。これはオリンピック・パラリンピックという世界的イベントだからではなく、地域、会社、学校など日常のあらゆる場面で参考になるのではないだろうか。

ただ、今のコロナ禍において、ソーシャルディスタンスなどの感染対策により、障がいのある人への支援やサポートが減ってしまっている現状もある。しかし、なにか壁にぶつかったとき、この視覚障がい者ボランティアへの取り組みと同様に、改善や工夫でお互いが安心して参加できる方法が見つかることもあるだろう。そこに行きつくにはまず、障がいの有無という枠にとらわれず、人と人とのコミュニケーションが大事なことは言うまでもない。

<参考リンク>
視覚障害者のボランティア参加 実践報告書(ボラサポ)
https://www.volasapo.tokyo/column/report/4013/

text by TEAM A
photo by Parasapo

違いを認め合えるコミュニティづくりのヒントにも。視覚障がい者のボランティア参加をスタンダードにする取り組み

『違いを認め合えるコミュニティづくりのヒントにも。視覚障がい者のボランティア参加をスタンダードにする取り組み』