【Road to Beijing 2022】全国障がい者スノーボード選手権&サポーターズカップ・激戦の下腿障害クラスで市川貴仁が4連覇!

【Road to Beijing 2022】全国障がい者スノーボード選手権&サポーターズカップ・激戦の下腿障害クラスで市川貴仁が4連覇!
2021.03.18.THU 公開

7回目を迎える「全国障がい者スノーボード選手権大会&サポーターズカップ」が、3月14日、2年ぶりに長野県・白馬乗鞍温泉スキー場で開催。実施されたスノーボードクロスは、本来、2人同時に出走し、より速くゴールしたほうが勝ちというノックアウト形式だが、今年は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、1人が単独で2本ずつ滑り、より速く滑ったほうが勝ちというタイムレース形式で行われ、9部門でチャンピオンが誕生した。

下腿障害クラスは市川が4連覇!

春を告げる雷が都心で鳴り響いた日、長野にも雨が強く降った。だが翌日は快晴で、気温がぐんぐん上昇し、コースは柔らかい春の雪に。転倒しやすいコンディションのなか、北京2022冬季パラリンピック出場を狙う選手たちが参戦するエキスパート男子「上肢障害」「大腿障害」「下腿障害」の3クラスが注目を浴びた。

柔らかい雪に強化指定選手たちも頭を抱えるコンディションだったが……

もっとも激しい戦いになったのは、「下腿障害」。4連覇をねらう市川貴仁と、2月にフィンランドで行われたワールドカップで4位に入った岡本圭司が熱い火花を散らした。

1本目は、市川が32秒17でフィニッシュし、「板が走らなかった」という岡本に1秒78の大差をつける。だが、2本目、「だんだんワックスが合ってきたので攻めた」という岡本は、低い姿勢を保つ弾丸の滑りで31秒99を叩き出した。

「北京では出場が目標。ミラノで金を獲りたい」と戦略を語った29歳の市川

しかし、ディフェンディングチャンピオンは、この強気の攻めに屈しなかった。「1本目、(いい)タイムが出たけど、2本目はもっとできる」と手応えを感じていた市川は、31秒12で滑走し、ゴール下で待ち構えていた岡本にガッツポーズ。

市川は、「昨日までやっていた(白馬近くの)鹿島槍合宿で、圭司さんにこてんぱんにやられていたので、思わずガッツしてしまいました」と振り返り、岡本は「合宿では10連勝くらいしてたけど、いっちーは、やっぱり勝負強い」と苦笑していた。

市川は「カービング」、岡本は「縦セクション」が得意

実はこの言葉に、北京出場を目指す2人の強みと課題が含まれている。標高差のある鹿島槍での合宿は、ジャンプなど上下動のある縦セクションや、急斜度のスタートセクションのトレーニングを可能にした。

これらのセクションは、元はフリースタイルのプロライダーだった岡本の得意分野だ。「(フリースタイル時代の経験があるから)、僕は細かいスタートセクションやキッカー(ジャンプ台)が速いんです」と自己分析する。

そのため、ノックアウト形式では「圭司さんにスタートセクションで0.5秒くらい差を付けられ、先行されてしまう」と市川は嘆き、岡本が逃げ切るのがパターンになっている。

「スノーボードクロス1本に絞って北京出場を狙いたい」という岡本

一方、市川の強みは、カービング力だ。今回も、実況アナウンサーが「魔のカーブ」と連呼した終盤の難所を、「転ばず、加速もできるカービング法」で乗り切った。

タイムレースで速さだけを追求するなら市川に分があり、岡本は、「いま、速さならいっちー。僕にとっては、それも課題です」と振り返った。もちろん、市川の課題は、いかにスタートセッションで前に出るか、だ。

このように市川と岡本は、それぞれの得手・不得手を認め合いながら、切磋琢磨している。岡本によれば、今回、欠場した田渕伸司を含めた3人は、「悪いところを教え合ったりもする、めっちゃ仲のいい関係」だという。

表彰台では、市川が「僕の大会なんでね」と冗談をいいながら4連覇の賞状を高々と掲げると、岡本が「お前のじゃねーし」と突っ込みで返す、ほのぼのした光景が広がり、「一緒に北京に出たい」という言葉が、2人の本心だということが窺われた。

優勝した市川(中央)と2位の岡本(左)

世界ランキング1位の小栗は2本とも転倒

「大腿障害」は、平昌パラリンピック代表の小栗大地のみ出場となったため、小栗が3年ぶりに優勝した。

注目された小栗だったが、この日は2本とも転倒に終わった

しかし、2本とも転倒し、タイムは43秒63と振るわず。小栗は申し訳なさそうに、「ざくざくの雪が苦手というのもありますが、言い訳すると、義足が合宿中に壊れ、足部は歩行用を使っていました」と打ち明けた。

だが、平昌パラリンピックで2種目ともメダルに届かず終わった無念から3年経ち、自信は増している。

平昌のレースが終わった翌日から、スタンスを健足である左足を後ろにする「グーフィー」に変えた。

「健足が後ろだと、後ろ足で蹴ってジャンプする動きができるので、苦手だった縦セクションをこなしやすくなるからです。ターンの入り方は難しくなりますが、もともとターンは得意なので、対応できると思いました」

スノーボードクロスに重きを置いている小栗。表彰では笑顔を見せた

スタンス変更という大改革の成果をやっと出せたのが、今年2月のワールドカップ。「グーフィーに違和感がなくなるまで3年かかった」という小栗は、平昌パラリンピックのスノーボードクロス銀メダリストであるクリス・ボス(オランダ)に勝ち、うれしい初優勝を遂げた。

「一騎打ちじゃなかったので……」と、喜びは爆発させていなかったが、それでも北京パラリンピックでは、「目標は金メダル。(平昌で金銀の)ノア・エリオットとマイク・シュルツ(ともにアメリカ)に勝ちたい」と打倒・メダリストに意欲を燃やしていた。

大岩根が上肢障害クラス3連覇

「上肢障害」の部は、大岩根正隆が3回目の出場で3連覇を飾って「ホッとしました」と優しげな顔をほころばせた。

17歳のとき、バイクの事故で右腕を肩から失った40歳は、2017年にスノーボードを本格的に始め、北京パラリンピックを目指している。

大きな課題はスタート。2年前、「片腕なので両手でレバーを引けない分、タイムが遅い」と話していた大岩根は、今回、左手で右側のレバーを掴んで斜面に飛び出すスタートを体に馴染ませていた。これで「体を引く量が増し、板をまっすぐに出せるようになった」と速さを増し、世界トップに近づきつつある。2月のワールドカップでは、スノーボードクロス4位の好成績だった。

上肢障害クラスで3連覇を飾った大岩は北京を目指す

北京に向けて「課題は3つ。スタートをより速くすること。かかと側のターンの改善。筋肉をあと5kg増やして加速をつけること」と明確に目標設定していた。

大会を終え、二星謙一スノーボード委員長は、北京パラリンピックに向けた強化について話し、「平昌の後、2年間は選手の地力をつけるため、大会より合宿やトレーニングを優先し、とくに勝負が決まりやすいスタートセクションを重点的にやってきました。今年からは、バンク、キッカー、ターンのトータルコースで仕上げていきたい」としたうえで、「北京でメダルは獲れると思っています」と自信を滲ませていた。

【第7回全国障がい者スノーボード選手権大会&サポーターズカップ リザルト】
下腿障害エキスパート男子:1位 市川貴仁 2位 岡本圭司 3位 小礒孝章
大腿障害エキスパート男子:1位 小栗大地
上肢障害エキスパート男子:1位 大岩根正隆 2位 洌崎晃宏 3位 橋本広司
下腿障害一般男子:1位 後田風吹 2位 長山豪 3位 岩瀬亮祐
下腿障害一般女子:1位 坂下恵里 2位 橋口みどり3位 小林はま江
大腿障害一般男子:1位 中川清治 2位 辻林慧
上肢障害一般男子:1位 嶋田年起
健常者男子:1位 高嶋侑真 2位 杉田亮 3位 上橋健一
健常者女子:1位 大岩根涼子 2位 岡本純子 3位 市川美貴
選手たちの家族も出場し、表彰では選手たちが撮影側に回った

text by Yoshimi Suzuki
photo by X-1

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