コロナ禍でも「工夫次第で何かはできる」を体現したボッチャ競技の奮励

コロナ禍でも「工夫次第で何かはできる」を体現したボッチャ競技の奮励
2021.04.05.MON 公開

新型コロナウイルスの感染拡大で多くのアスリートが練習環境を失い、自粛生活という制限下で過ごすなか、ボッチャの選手、関係者は「いま、できること」にフォーカスし、ポジティブに歩みを続けている。その背景には、日本ボッチャ協会のオンラインをフル活用した取り組みがあった。

できる最大の努力でメダル獲得に向け準備する

時は、新型コロナで多くのスポーツイベントが中止や延期になった矢先の昨春にさかのぼる。国際ボッチャ競技連盟(BISFed)は、他の競技に先駆けて2020年3月27日、同年12月までの公認大会を全て中止すると発表した。ボッチャの選手は、脳性まひなどで呼吸機能が弱く、新型コロナに感染すれば重症化するといわれるからだ。

日本のボッチャ競技の統括団体である日本ボッチャ協会も「健康が最優先」とし、2020年2月上旬から日本代表活動を休止した。また、選手たちに、ホテル宿泊、新幹線と航空機での移動禁止を通達。2020年2月末にはすでに三密を避けるなどの注意を選手たちに伝えていた。

以来、選手たちは個々に調整を行うことになったが、東京パラリンピックでのメダル獲得に向けて自信を深めていた選手たちだ。モチベーションの低下を感じたり、結束力が弱まったりはしなかったのか。

そんな心配は杞憂であったようだ。日本代表はメールでやりとりを重ねたあと、みんなの顔を見て話したいとLINEのビデオ電話機能を使ってリモートミーティングを始めた。

オンラインでインタビューに応える村上ヘッドコーチ

「リモートミーティングでは次々と意見が出たし、これまで対面でのミーティングでは出てこなかったアイデアも出るんです。離れていても一緒に取り組んでいけるんだ、という発見がありました」

と、笑顔で振り返るのは、村上光輝ヘッドコーチだ。当初のリモートミーティングでは、ボッチャの話題はほとんど出なかったというが、回数を重ねるにつれて必要な情報を聞き出すなどのコミュニケーションが円滑になっていったという。

次々と出る意見には「(離れていても)チームで一体感を出すためにユニフォームを着ましょう」というアイデアもあった。選手がひとりで頑張ったり、不安や問題を抱えたりするというわけではなく、コロナ禍で制限を強いられるからこそ一体になろうという連帯感があり、ボッチャでは、それがプラスに働いているようだ。

深刻な事態も前向きに

新型コロナの感染拡大は非常に深刻な事態だが、選手やスタッフは事態の収束を常に前向きな気持ちで待っている。そんな活動の一端を見られるのが、同協会が運営するフェイスブックインスタグラム。大会が開催されない期間でもボッチャへの関心を維持し、ボッチャのファンを増やそうと積極的に情報発信をしている。

卓上でできる小さいサイズのボッチャで選手たちがリモートで戦略練習。コロナ対策の中で新しい練習法が生まれた ©Japan Boccia Association

2020年4月下旬から日本代表「火ノ玉JAPAN」のフェイスブックページで始まった選手、スタッフによる「おうちdeボッチャ」の投稿は、難易度の高い課題(練習)に選手たちが挑戦しながらスーパープレーを見せているほか、誰でもボッチャを家で気軽に楽しめる方法やボールの作り方などを紹介しており、SNSでも拡散された。

全国で緊急事態宣言が解除された後、2020年6月13日と14日に強化指定選手を対象とした「リモート強化合宿」が行われ、報道陣にも公開された。リモート強化合宿は、各選手の自宅などをオンラインでつなぎ、筋力トレーニングや戦術研究をリアルタイムで実施するというもの。縮小版のコートで行う模擬戦「テーブルボッチャ」の披露もあった。

2020年12月の強化合宿は、座学やグループワークセッションなどをすべてオンラインで実施した ©Japan Boccia Association

リモート強化合宿は同年9月(一部選手)と12月にも実施。実際に練習場のある静岡からリモートで合宿に参加した日本代表キャプテンの杉村英孝は、その成果を感じているひとりだ。

「昨年秋に久しぶりに選手が集合したとき、プレーの質が全然落ちていなかった。チームのコミュニケーションについても、普段からリモートで毎週ミーティングを行っているので、コロナ禍でも成長できていると感じている。これなら、東京パラリンピック本番に合わせられる自信があります」

遠方で来られない選手はリモートで参加。同じ練習メニューをオンラインでつないで一緒に行った ©Japan Boccia Association

リモート強化合宿で得たノウハウで大会を開催!

そして、2021年3月16日に行われた「第5回全国ボッチャ選抜甲子園~with コロナ~」。この大会こそ、日本代表におけるリモート強化合宿の取り組みが活きる大会となった。全国ボッチャ選抜甲子園とは、中学生以上の特別支援学校および特別支援学級などの生徒で構成されたチームが全国から参加する大会で、日々のボッチャ練習成果を発揮する場であり、また次世代の日本代表を発掘する機会にもなっている。

大会は例年、実際の会場で予選が行われ、勝ち進んだチームが決勝を戦うという一般的な方法で行われるが、今回は予選会から決勝まですべてオンラインで実施された。

オンライン大会という新たな形で大会を実施するに至った背景には、まず「中止ではなく、開催を前提として方法を考える」という考え方があった。そのうえで、強化合宿で行っていた「選手に課題を出し、それを動画撮影して送る」という方法を予選大会に取り入れた。

初の試みということもあり、各学校がスムーズに予選会に参加できるよう、まずはオンライン競技説明会をウェビナーで開催。その約1週間後に課題を発表し、決められたルールのもと、5日間で課題を行い、その様子を各チームが自身で動画を撮影する。記録用紙とともに指定されたクラウド上にアップロードするか、または実行委員会に郵送か、ファイル転送サービスなどを利用してEメールで送るかで期日以内に提出する方式が取られた。

課題への取り組み方法はサンプル動画が用意され、日本ボッチャ協会のホームページ大会フェイスブックに掲載された。また、関東1都3県に緊急事態宣言が発出されたことで部活動が停止してしまっている状況を考慮し、技術説明会や予選の日程も柔軟に変更。中止ではなく、開催に動いた日本ボッチャ協会には参加校から感謝の声が寄せられたという。

予選会には、全国から48校50チームが参し、予選大会の課題で多く点数をとれた上位3チームが決勝へ進んだ

その感謝の思いは、決勝戦に参加した生徒も同様だった。

「コロナ禍の状況でも試合をすることでモチベーションを保つこともできたし、今後の課題がわかった。こうして仲間と団体戦に出ることができてすごく嬉しかったです」と優勝した小牧特別支援学校の岩瀬創太郎さん。

一方で、オンライン大会の難しさもあったと教えてくれたのは、福井特別支援学校の山田愛莉さん。

「緊張感がすごくあり、大会の楽しさはあったけど、他のチームのことを詳しく知ったり、選手と話をしたり、対面の試合ではできることができなかった。学校という環境が慣れすぎていて、大会という感覚になれなかったのが難しかったです」

オンライン大会でもハイレベルな戦い

それでも、「試合のレベルが高かった」と選手たちを称えたのは日本代表エースの廣瀬隆喜だ。

「今大会はリモートでの対戦だったが、そのなかでもみんなで力を合わせて『この課題なら何点取れるか』と考える場面が多く見られたのがすごくよかったです」

東京パラリンピック出場が内定している廣瀨もリモートで登場し声援を送った

大会を終え、インタビューに応じた村上ヘッドコーチは、ボッチャ選抜甲子園が認知・技術向上の機会にもなったと感慨深そうに語る。

「予選では、ルールなどに関する学校からの問い合わせが多くあり、細かい競技説明ができた。それに、過去に遠方という理由で大会への参加をあきらめていた学校も、リモートなら参加できますよね」

加えて、オンラインだからこその手ごたえものぞかせる。

「これまでは、学校に足を運んだり、実際の試合に出ている生徒たちしか見ることができなかったが、(ビデオを活用した)予選会でより簡単に多くの選手を発掘できたことも収穫だった。もちろんボッチャの楽しさは対面で戦うことだが、今回の予選大会のような手法も何らかの形で残していけたら」と村上ヘッドコーチ。

制限された状況下でも、とにかく、できることをやる。日本ボッチャ協会のさまざまな挑戦は、「工夫すれば、いろいろなことができる」というパラスポーツの本質を体現している。

text by TEAM A
key visual by Japan Boccia Association

コロナ禍でも「工夫次第で何かはできる」を体現したボッチャ競技の奮励

『コロナ禍でも「工夫次第で何かはできる」を体現したボッチャ競技の奮励』