東京を花であふれる街に。東京2020オリパラがもたらす変化、イノベーション

東京を花であふれる街に。東京2020オリパラがもたらす変化、イノベーション
2021.08.03.TUE 公開

1964年の東京オリンピックでは、開催を機に新幹線や高速道路、地下鉄といった交通機関が発達。さらに上下水道などの生活インフラの整備が進んだ。このようにオリパラはさまざまなイノベーションが起きるきっかけになることでも知られているが、今回の東京2020オリンピック・パラリンピックも例外ではない。そこで今回は、内閣府が推進する「2020年オリンピック・パラリンピック東京⼤会に向けた科学技術の取組に関するタスクフォース」の中でも、現代的と言える注目の「ジャパンフラワープロジェクト」をご紹介しよう。

9つのプロジェクトが東京2020大会のレガシーに

「ジャパンフラワープロジェクト」とは、内閣府が立ち上げた「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けた科学技術・イノベーションの取組に関するタスクフォース 推進委員会」が掲げる9つのプロジェクトのうちの1つ。総務省や警察庁、文部科学省、農林水産省など10の省庁や、東京都、東京2020組織委員会などが協力する9つのプロジェクトは、東京2020大会を成功に導くためのものでもあるが、同時に大会後もレガシーとして残り続けるイノベーションを起こすことが求められた。そんな重要なプロジェクトの1つが農水省が主体となって行った「ジャパンフラワープロジェクト」だ。

日本の技術を世界に向けて発信

意外に知られていないが、日本の「花き(かき:花や木、苔、盆栽など観賞用の植物全般)」は、オランダの国際園芸博覧会の品種コンテストで最高得点を獲得するなど、世界的に高い評価を得ている。そんな品質の高い花で、真夏に行われる東京2020大会の会場や街を彩る、というのが「ジャパンフラワープロジェクト」の内容だ。プロジェクトの目的のひとつは、花や緑で会場を飾ることで大会を盛り上げ、参加する選手の心を癒やすということ。そしてもうひとつ、日持ち性に優れた品種を作る技術や、花の植栽が困難な条件が重なる夏季の都市でも元気に育つ花で街を彩る技術などが世界に広く認められることによって、「花き」を資源の少ない日本の重要な輸出品目のひとつにするといった、重要な目的も担っているのだ。

農水省から委託を受けた農業・食品産業技術総合研究機構(以下、「農研機構」と表記)では、2015年からこのプロジェクトに着手。花は華やかで見栄えがよく、近年人気となっている「ダリア」が選ばれたが、本来ダリアの季節は秋。そこで夏に強い品種の改良が進められた。

品種改良は時間と根気がいる作業。今回は暑い時期に適したダリアを作るため、研究者は7月下旬から9月上旬の最も暑い時期に、毎日ダリアの世話や収穫を繰り返し行っていた。そのため花がたくさん咲いた日は屋外での長時間の切り花収穫作業を余儀なくされ、帰宅後風呂上がりに体重を量ると前日に比べて数キロ減っていることもあったという。

研究の成果が集約された美しいダリア3品種

こうした地道な品種改良を重ね、農研機構野菜花き研究部門では、2020年に日持ち性に優れたダリア3品種の育成に成功。品種名は、日持ち性に優れていることから英語で「永遠」を意味する「エターニティ(eternity)」を冠したエターニティシリーズとされた。その3つをご紹介しよう。

エターニティトーチ

オリンピックの聖火のような花色・花型から「エターニティトーチ」と名付けられた。日持ちが安定していて、露心と呼ばれる花の中心の黄色い管状花がむき出しになる症状がほとんど発生しないのも特徴のひとつ。花弁の先端に向かって花弁が外側に反るセミカクタス咲きの花が大きく豪華なため観賞性が高い品種。

エターニティロマンス

美しい桃色の花色から「永遠の恋」という意味の「エターニティロマンス」と名付けられた。日持ち性に優れ、早生で生産性が高い品種。桃色のダリアの品種としては、花径が大きく、ボリュームのあるブーケなどにするのにも適している。

エターニティルージュ

口紅のような深赤色の花を咲かせることから「エターニティルージュ」と名付けられた。3品種中で最も日持ち性に優れている。舟形の長い花弁が幾重にも重なる「フォーマルデコラ咲き」のフォルムと、くすみのない発色の良い赤色が豪華な印象を与える。早生で収穫本数も多く、需要拡大に適している。

この他、愛知県では、夏場は冷房が必須のコチョウランの栽培において、冷房コストを下げるとともに栽培期間を短縮して早く花を咲かせる画期的な間欠冷房技術を開発。この技術を使うことによって、花の数を増やすなど、品質も向上させることにも成功した。

大会期間中はここで花をチェック!

東京サマーランドでも、プロジェクトで開発された花を見ることができる

日本が誇る技術を集約して作られた新種のダリアやコチョウラン(白色とマスコット・ソメイティをイメージしたピンク色の品種)は、大会期間中プレスセンターとして使われる東京ビックサイトを飾ることになっている(ダリアはパラリンピックの期間のみ、コチョウランはオリンピックとパラリンピックの両方の期間に使われる予定)ので、テレビを通して、美しい花々を見ることができるかもしれない。 

そして今、東京では猛暑の中でも元気に、そして可憐に咲き誇る夏に強い花をさまざまな所で目にすることができる。夏に強いと言っても単に暑さに強ければいいというわけではない。さまざまな実証実験や調査の結果、都市における夏の植栽に適した条件として、以下の3つが重要であることがわかった。

1 耐暑性
2 耐陰性
3 耐乾燥性

1つめの耐暑性はその文字からも分かるとおり暑さに強いこと。2つめの耐陰性は、意外かもしれないが日陰に強いこと。実は高層ビルの多い都心は日当たりが悪い場所も多いため、日陰でも育つのが重要だということが調査によって判明したそうだ。そして3つめの耐乾燥性。これも都心ならではのビル風による乾燥を想定したもの。これら3つの条件をクリアするとともに、都市部での植栽試験において夏でも観賞に耐えうる花の選抜が行われてきた。直接花を見たいという人は、以下の場所で植栽を見ることができる。ここに広がる光景は、多くの人の試験研究の努力が、文字通り花開いたものである。

1)シンボルプロムナード公園(東京都港区台場)
2)水元公園や戸山公園など
東京都農林水産部が主催する「花と緑の夏プロジェクト」の一環として、約50か所の都立公園などに都内生産者が栽培した3万鉢以上の夏花が植栽されている。
3)夢の島公園や東綾瀬公園など
日比谷アメニスグループ主催の「夏花プロジェクト夏花2021夢の島セレクション100『応援花』」の一環として、東京都を含む近県の生産者が栽培した夏花が夢の島公園を含む16箇所の公園で植栽されている。
4)葛西臨海公園
夏花を活用した都内最大の花壇およびヒマワリの花壇が作られている。


残念ながらコロナ禍によりオリンピック・パラリンピックはさまざまな制限を受けている。しかし、そんな中でも、大会開催に向けて地道に続けられてきた研究は実用に向けて着々と進んでいた。本プロジェクトも大会が終了したら終わりではなく、2022年の秋頃からダリアエターニティシリーズが一般の生花店に並ぶ予定だという。57年前の東京大会では、さまざまなイノベーションによって私たちの暮らしは便利になった。今大会でも、豊かな社会に向かう歩みが確かに進んでいるといえるのではないだろうか。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)

東京を花であふれる街に。東京2020オリパラがもたらす変化、イノベーション

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