車いすバスケットボール大阪カップ、女子日本代表が新たな門出で手にしたものとは?

車いすバスケットボール大阪カップ、女子日本代表が新たな門出で手にしたものとは?
2018.02.23.FRI 公開

2月15日から17日の3日間、大阪市中央体育館で「2018国際親善女子車いすバスケットボール大阪大会」(大阪カップ)が行われ、日本、オーストラリア、オランダ、イギリスの4ヵ国が参加した。決勝で接戦の末に57-52でイギリスを破ったオランダが優勝。日本は3位決定戦でオーストラリアと対戦したが、46-61で敗れた。今年8月に行われる世界選手権の切符を逃した日本にとって、今大会は世界の強豪と対戦することのできる貴重な場となった。果たして、日本は何を掴むことができたのか――。

オーストラリア戦で見せた「修正能力」

2017年10月、中国で行われた世界選手権予選「IWBFアジアオセアニアチャンピオンシップス」で日本は中国、オーストラリアに敗れて3位となり、世界選手権への2枚の切符を逃した。

そして今年1月、宮城MAXを日本選手権9連覇に導いた岩佐義明ヘッドコーチ(HC)の就任が発表され、新指揮官のもとで再スタートを切った。1月、そして大阪カップ直前に行われた合宿を経て今大会に臨んだ日本。結果は、総当たりで行われた予選リーグ、3位決定戦をあわせて4戦全敗。新たな門出は、2年後の東京パラリンピックへの道のりの厳しさを改めて突きつけられるかたちとなった。

しかし、可能性を感じられた試合があったことも確かだ。

例えば、予選リーグ第2試合のイギリス戦だ。48-56で負けはしたものの、1点差にまで詰め寄る場面もあり、最後までヨーロッパ3位の強豪に大きく引き離されることなく競り合ったことは自信につながったに違いない。

また、2試合を戦ったオーストラリアとは、初戦はチーム一の長身であるアンバー・メリットに力づくでインサイドを破られ、またリアン・デル・トーゾには100%の成功率で8本のシュートを決められるなど、オーストラリアの“個の力”に押されている印象があった。

だが、再戦となった最終日の3位決定戦では、そのオーストラリアの“個の力”に対し、日本は “組織力”で対抗。高さのあるオーストラリアに対しては、いかにゴール下に近づけさせないかが最大のミッションとなるが、それをチーム全員で徹底して取り組む姿勢が見受けられた。

最大の収穫となった「ローポインター」

たくましさを見せた萩野は個人賞受賞の活躍

そして、そのイギリス戦、オーストラリア戦(3位決定戦)でいずれも強く印象に残ったのは、ローポインター(持ち点の低い選手)のオフェンスでの活躍だ。

例えば、イギリス戦で見えたのは、ハイポインター(持ち点の高い選手)を活かす動きだ。ディフェンスからオフェンスへと転じ、相手コートに攻める場面では、マークに入ろうとする相手の前に割って入り、ボールマンのドリブルや、いち早くゴール下へと向かおうとする味方の進路を開けた。さらに、ハーフコートでのセットオフェンスでは、味方のハイポインターと、チェックにいこうとうするディフェンダーとの間に割って入ることで、シュートチャンスを引き出した。つまり、ハイポインターの得点の背景には、こうしたローポインターの支えがあり、それがイギリス戦では色濃く見えたのだ。

もちろん、支えているだけではない。3位決定戦のオーストラリア戦では、そのローポインターがハイポインターにマークがついた隙を見計らって、自ら積極的にゴールに向かった。とくに1クォーターは開始3分で、北間優衣、柳本あまねがゴール下へと抜けてシュートを決め、7点中5点を得点。すると、あわててオーストラリアはタイムアウトを取り、対策を図らなければならなかった。
しかし、それでも日本のローポインターの勢いは止まらず、なんと1クォーターで日本が挙げた17得点中、13得点を北間、柳本、そして今大会「オールスター5」の1人に輝いた萩野真世のローポインターがたたき出したのだ。これによって、日本の課題とされている「試合の入り」においても、オーストラリアに引き離されることなく接戦に持ち込むことができた。

岩佐HCも「今大会一番の収穫はローポインター。彼女たちに1試合で与えられるシュートチャンスは本当に数少ない。そこをものにできるかどうかが日本にとっては非常に大きいのですが、しっかりと決めてくれていましたよね。本当に良かったと思います」と称えた。

北間らローポインターも積極的にゴールを狙った

また、この試合では、日本のトランジションが非常に速く、オーストラリアが戻ってラインを敷く前に日本がペイントエリア内を攻める場面が多く見受けられた。スピードでは完全に日本が上回っていることが改めて証明された。現在のオーストラリアには、今後十分に勝つ可能性はある。そのことがはっきりと見えた試合と言っても過言ではなかった。

世界選手権を逃した日本のこれから

とはいえ、オーストラリアもこのままでいいとは決して思ってはいないはずだ。その証拠に、初戦の日本戦では珍しくプレスディフェンスを敷いてきた。しかも、スピードのある日本には明らかに機能しておらず、何度もプレスを破られていたにもかかわらず、3クォーターまで粘り強くトライしていた。

日本は岩佐HCのもと巻き返しを図れるか

試合後、このプレスディフェンスについてオーストラリアのデビッド・グールドHCに聞くと、こう答えてくれた。
「自分たちにとってディフェンスは非常に重要で、さらにより良くするためにも少しずつ新しいことにもチャレンジしている。今のままで通用するチームもあるが、このままでは通用しないチームもある。だから世界選手権に向けて、できるだけ多くの引き出しを身につけようとしている」と明かしてくれた。

今大会、世界選手権に向けてトライしていたのは、オーストラリアだけではない。オランダもイギリスも、多くの選手を起用し、さまざまなセットで臨んでいたことは明らかだ。つまり、世界選手権の出場権を得たチームは、今、その舞台に向けての準備に入っている。そして世界選手権では本気モードで激突し、お互いに「世界」を肌で感じ合い、その経験を今度は2020年東京パラリンピックという「本番」への糧とするのだ。

一方、世界選手権の出場権を逃した日本は、その本気モードの舞台を踏むことなく、2020年の「本番」に臨まなければならない。つまり、日本が今おかれた状況は、言葉では言い表せないほど厳しい。そのいばらの道を、新HCのもと、どのようにして乗り越え、2020年を迎えるのか。

今大会で見い出された可能性は大きいはずだ。次は、その可能性をいかに結果につなげるかである。そのために岩佐HCが最大の課題としてあげるのが「勝負どころでのシュート力」だ。

「競り合っている時や、試合終盤でのここぞという時のシュート力の差は非常に大きい。メンタル面も含めて勝負どころでしっかりと決めきれるシュート力を身に付けなければいけない」

今後は、10月に開催されるアジアパラ競技大会を目指すことになる。そこでどんな姿を見せてくれるのか。日本は今、2020年に向けた大きなヤマ場を迎えている――。

text by Hisako Saito
photo by X-1

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