ギリギリまで磨き続けた肉体とフォーム、銀メダル富田宇宙は「大きく」泳いだ

ギリギリまで磨き続けた肉体とフォーム、銀メダル富田宇宙は「大きく」泳いだ
2021.08.27.FRI 公開

26日の水泳男子400m自由形で銀メダルを獲得した富田宇宙(S11/視覚障がい)は、コロナ禍でプールでの練習ができなかった時期、地元・熊本などで陸トレを中心に行い、器具を使った加圧トレーニングに励んでいた。同時に取り組んだのが、泳ぎのフォームの大幅な変更。東京パラリンピックの大舞台で自己ベストを記録できたのは、本番直前まで取り組んでいた“改革”に秘密があった。

最後は気持ちだけでつかんだ銀メダル

レース後、富田は顔をしかめた。それは金メダルにあと一歩届かなった悔しさからではなく、疲れてヘトヘトになっていたからだった。

「苦しかった。本当に出し切ったので立っていられなくて。倒れそうになった」

持ち味である後半の粘りをもってしても、「最後の100mは死ぬかと思った」という。「体が全然動かなくて、ラスト50mはメダルを獲るぞ、ほかの選手には絶対に負けないという気持ちだけで泳いだ」と振り返った。

力泳する富田宇宙(写真は同日の予選) photo by Jun Tsukida

タイムは4分31秒69。自身が2019世界パラ水泳選手権大会で出した日本記録(4分32秒90)を1秒以上縮める、アジア新記録だ。

ひとかきで長く進むには?

コロナ禍を経て記録を伸ばした富田は、どんな強化に取り組んできたのか。

以前の泳ぎを「テンポで泳ぐ、小さく泳ぐ」と表現していた富田は、それを自身の強みであるとも語っていた。しかし、効率を考えるとそれは必ずしも良いわけではない。泳いでいる最中に体が立ってきてしまい、キックのタイミングも遅れてしまうのだ。

もっとレベルアップするには、「大きく泳ぐ」ことを意識する必要があった。

そこで富田は、ひとかきでいかに長い距離を進めるかを追求し、ストローク数を少なくすることを意識したフォームの改良に着手した。

大きく泳ぐというのは、手先で引っ張るのでなく、体幹を使って泳ぎに体重を乗せて大きく進むという感覚である。

大きく泳ぐためには体を大きくすることも大事だが、可動域を広くするため、柔軟性も大切になる。富田は、泳ぐ前のウォーミングアップにストレッチなどの柔軟体操を加え、これまで30分かけていた時間を、約1時間に延ばしてしっかりと行うようにした。休みの日はヨガを行ったりするなど、柔軟性を高める運動も積極的に行った。

富田の上半身からもトレーニングによるパワーアップがうかがえる photo by Jun Tsukida

また、ドリル練習(部分的な練習を繰り返し行うこと)ではただ泳ぐのではなく、道具を使って泳いだり、片手で泳いだり、後ろ向きに泳いだり、さまざまな泳ぎ方をすることで、水をつかむ感覚を養った。

「パラリンピックは本当の本番」

フォーム改良の努力は実り、今までのストローク数よりも50mにつき2ストロークほど減らすことに成功。スピードも出るようになった。

またターンの際、今までは壁ギリギリのところまで泳いでいたが、手前(壁から遠い位置)で大きく回るようにタイミングを変えた。ターンのタイミングが変わったことで、タッピング(※)をするタッパーとの連携がうまくいかないこともあったが、パラリンピック前の今年5月に開催された2021ジャパンパラ水泳競技大会では、タッパーとの連携も精度を増した。また、ひとかきの軌道を変え、キャッチ(みずをかく前の動作)の肘を曲げる角度も意識するようにした。

※視覚障がいの選手の頭または額をたたいて壁を知らせる技術で、安全確保のために全盲の選手には必ず行う。日本チームは弾力性のある釣竿を改良した手作りのタッピングバーを使用している。

タイムを少しでも縮めるにはタッパーとの連携も重要 photo by Jun Tsukida

個人メドレーにも出場する富田は、自由形(クロール)だけでなくバタフライでもフォームの改良に取り組んだ。呼吸するタイミングを少し後ろにし、キックのタイミングをプル(水をかく動作)がフィニッシュする少し前にしてタイミングをずらした。また、ストロークのリカバリーの際にコースロープの横に引っかかることもあったため、手の高さを下げて、コースロープの上を手が飛び越えないように変えた。フォームの改良はキックの蹴り方にも及んだ。これまではひざが落ちて完全に曲がった状態から足先で蹴るスタイルだったのを、おなかから足を伸ばした状態で全身を使った蹴り方に変えた。

パラリンピック初出場で銀メダルを手にした富田 photo by REUTERS/AFLO

病気の進行によりクラスが変更になり、ブラックゴーグル(※)をつけた当初はあざだらけになりながら泳いだ。しかしそれは、「パラリンピックは本当の本番」と語る富田には大した問題ではない。初出場という緊張感のなかで、自由形では堂々たる泳ぎを見せたといえるだろう。30日に出場予定の200m個人メドレーにも期待したい。

※S11クラスの選手が着用する光を通さないゴーグル。同じクラスでも選手によって見え方が異なることから、公平に競技を行うために使用する。

text by TEAM A
key visual by Jun Tsukida

ギリギリまで磨き続けた肉体とフォーム、銀メダル富田宇宙は「大きく」泳いだ

『ギリギリまで磨き続けた肉体とフォーム、銀メダル富田宇宙は「大きく」泳いだ』