「ママの試合は何時から?」バドミントン山崎悠麻、メダルを期待させるストレート勝ち

「ママの試合は何時から?」バドミントン山崎悠麻、メダルを期待させるストレート勝ち
2021.09.03.FRI 公開

東京2020パラリンピックで初採用されたバドミントンは9月1日に競技を開始し、女子車いすで金メダルを狙う山崎悠麻が、シングルス(WH2クラス)の初戦を制した。

パラならではの緊張感に戸惑いながらもストレート勝ち

第1ゲームで苦しむ展開。試合後には「待ちに待ったパラリンピックという形で、初戦。(緊張で)あがっているのが、すごく分かった。(コートに入るまで)待っているときから、指先が冷たくなって、こんなふうになっていた」と笑いながら、指をさすって温めるような仕草を見せた。

試合会場の雰囲気に飲まれたわけではなく、選手村で他競技のメダリストらとすれ違ううちに、パラリンピックという舞台の大きさを感じるようになったという。

普段以上の緊張感に襲われて臨んだ第1ゲームは、大接戦。19-20でゲームポイントを握られる苦境に立たされた。しかし、コート奥へ相手を追いやるクリアの打ち合いで長くなったラリーで得意のチェアワークを発揮。シャトルの落下点にしっかりと入って丁寧なショットで粘って同点に追いつくと、最後は相手が見送った球がコート内に落ちて22-20。苦しいゲームを物にした。第2ゲームは、中盤の競り合いから抜け出して21-16。ストレートで試合を制した。

東京パラリンピック・バドミントン日本代表の山崎 photo by AFLO SPORT

子どもたちがママの試合に興味

今大会は、ほかの国際大会とは違う。それが緊張を生む原因になったわけだが、ポジティブな面もある。山崎は、二児の母でもある。選手村に入る前には、自宅で子どもの夏休みの宿題の面倒を見ていた。選手村に入ってからはホテルでテレビ電話をつなぎ、2人の息子に部屋からの景色を見せるなどしている。本来なら家族も現地観戦できることが理想的だったが、今回は無観客開催。それでも自国開催の利点はあるようだ。

「何時から試合なの? とか、普段はそこまで聞いてくれないのを、日本開催ということもあって、自分も起きている時間にやるっていうところで、気にしてくれていて、本人たちなりにすごく応援してくれています。日本開催で同じ時間で見られるのは、すごく嬉しいなと思います」

東京パラリンピックが現役復帰に動かした

リラックスして子どもの話をする山崎は、母の顔になる。アスリート活動と母親としての生活の両立は難しいもののように感じられるが、山崎は、その両輪に自分が支えられていると感じている。

山崎が車いすバドミントンを始めたのは、2人の息子を出産してからのことだ。小、中学校とバドミントンを習い、全国大会の出場経験もあったが、中学卒業後は競技から離れていた。高校1年生だった2004年に交通事故で脊髄を損傷。腰から下の感覚がなくなり、車いすの生活になった。その後、就職や結婚、2人の息子を出産と、多くの出来事を経て、再びラケットを持ってコートに立った。

次男の翔湊(かなた)くんを出産直後の2014年10月に、バドミントンがパラリンピックの種目として東京大会で初採用されることが決まり、競技復帰への大きなきっかけとなった。以降、“ママ・パラアスリート”として活動している。

アスリートと母親の二つの顔をもつ photo by AFLO SPORT

母として、パラアスリートとして

「バドミントンだけを私一人でやっていたら、つらくてやめたくなっちゃうときに、『バドミントンだけじゃなくてママもある』『ママがつらいときにバドミントンがある』。両方で支えてもらって、どっちもやれている。意外と天秤(のつり合い)が取れています」

自宅を出て選手村に移動する際には、長男の倖翔(ゆきと)くんから「金メダルを取ってきてね」と言われた。山崎は優しく笑いながら、そんなエピソードを話した。

今、世界のトップで争えるアスリートとして活躍できることを証明している彼女の姿は、このパラリンピックを通して多くの人に刺激を与えるだろう。

この日初戦を勝ったシングルスでも上位候補だが、2018年にペアを組み始めた里見紗李奈(WH1クラス)と臨む車いすの女子ダブルスでは、優勝候補に名が挙がる。大舞台の緊張を楽しみに変えながら、山崎は世界の頂点を目指す。

text by TEAM A
key visual by Getty Images Sports

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