陸上競技・マラソンで銅メダル! あきらめの悪い男・永田務が走り続けた先で得た形あるもの

陸上競技・マラソンで銅メダル! あきらめの悪い男・永田務が走り続けた先で得た形あるもの
2021.09.06.MON 公開

人には、いろいろな可能性がある。パラリンピックという大会は、そんな驚きの集合体だ。

東京2020パラリンピックは5日に最終日を迎え、陸上競技マラソン男子T46(上肢障がい)クラスの永田務は、2時間29分33秒で3位となり、銅メダルを獲得した。永田が東京大会を目指したのは、まだ2020年に開催予定だった2019年のことだ。T46のクラス分けを受けてから初めて走った公認マラソンレースが今年2月のびわ湖毎日マラソンで2時間25分23秒のアジア新記録。突如、メダル候補に浮上し、その実力を本番でも発揮して見事にメダリストとなった。

途中まで複数の選手が先頭集団に残る展開に photo by Takashi Okui

背中を押した「誰かの一声」

レースは簡単ではなかった。当初は暑熱対策がカギとなると思われていたマラソンだが、前日から小雨が降る、肌寒い天候の中で行われた。その影響か、T46クラスはレースの半分まで複数の選手が先頭集団に残る展開。少しずつ人数が絞られていくサバイバルレースを想定していた永田は「思っているより人数が多かった」と、誰がいつどんな仕掛けをしてくるのか気になり、疲弊していった。

5km毎の通過点では、永田は常にメダル圏内にいたが、終盤に差し掛かる前の皇居付近では、4番手に落ちていたという。25km付近で中国の選手が先頭で抜け出し、30km過ぎには、後ろからスパートをかけてきたブラジル人選手に追い越された。3番手争いの相手は、マークしていた世界記録保持者のマイケル・ロジャー(オーストラリア)。彼の動きを気にするあまり、リズムの良い走りができなかったことを後に悔いた永田は、頭の中で、メダルを逃して謝っている自分の姿を思い浮かべたり、恩師や仲間からもらった激励の言葉を思い出したりと、弱気と強気の狭間で揺れながら、35km手前の皇居エリアを走っていた。

3番手でオリンピックスタジアムに戻ってきた永田 photo by Jun Tsukida

葛藤を打ち破ったのは、誰かの一声だった。「ちょうど皇居の辺りで、でっかい声で名前を叫ばれて、なんか、スイッチが入った」とスパート。前にいたロジャーを抜き去り、以降は3番手を確保し続けた。名前を呼んだ声の主は、分からないというが、永田は「開催国の強み。テレビで見ている方々もいらっしゃる。あんなに沿道に人がいるとは思わなかったんですけど、自分としては本当に力になって助けていただきました」と感謝を示した。想定とは異なる展開に悩みながらも、最後は身上とする諦めの悪さで粘り、メダルを手に入れた。

走り続けて難局を乗り越えたのは、レースそのものに限った話ではない。中学生で陸上競技を本格的にスタートさせた永田は、社会人になってからも種目を長距離に変え、マラソンを主戦場に競技を続けていた。

「ずっと走り続けてきただけ」

2010年12月に勤務先の工場でベルトコンベヤーに右腕を巻き込まれ、まひが残った。今でも右腕は可動域が狭く、重く感じる。右腕を速く振れないため、健常者のマラソンで高みを目指すのは厳しくなった。それでも、走ることは諦めず、2015年には日本代表としてウルトラマラソンに出場するなど健常者に混ざって走り続けた。

転機が訪れたのは2019年。結婚を機に地元の新潟へ帰郷し、障がい者福祉の仕事に携わったことで、パラスポーツの世界を知った。目前に迫っていた東京パラリンピック出場を目標としたが、世の中がコロナ禍に見舞われ、出場を予定していたレースがなくなるなど苦労した。しかし、今年2月のびわ湖毎日マラソンで好記録を残し、一気にメダル候補に浮上。見事に銅メダルを獲得した。

銅メダルを手に永田は笑顔を見せたphoto by Jun Tsukida

メディアには「突如現れた新星」と表現されるが、永田は「突然現れたわけではない。パラが自分を見ていなかっただけ」と、障がいの有無にかかわらず、ずっと走り続けてきた誇りを示した。今後も世界新記録という目標を掲げて走り続けるという。貫き通した一つの結果が、東京パラリンピックという大舞台の銅メダル。ゴール場面は「油断したら泣いてしまう」という思いで、胸をトントンと軽くたたき、最後の最後は歩くようにラインを踏み越えた。何があっても走り続けてきた努力が一つの形で報われた瞬間だった。

text by TEAM A
photo by Jun Tsukida

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