日本財団パラリンピックサポートセンター

パラリンピック2大会連続銅メダルの車いすラグビー。強いJAPANであり続けるために。

パラリンピック2大会連続銅メダルの車いすラグビー。強いJAPANであり続けるために。
2021.11.20.SAT 公開

東京2020パラリンピックを終え、3年後の金メダル獲得に向けた実戦がいよいよ始まった。ここでは、リオ2016パラリンピックに続き、2大会連続銅メダルに輝いた車いすラグビー日本代表の戦いぶりを振り返るとともに、強さの理由を紐解きたい。

パリ大会に向けて続投するアメリカ人のケビン・オアーヘッドコーチ(HC)は大会後、すぐには帰国しなかった。9月に育成合宿が行われたからだ。あと3年しかないという危機感を抱き、次なる代表候補の指導に熱を注いだ。

ロンドン大会から日本代表の中心として活躍する池崎大輔 photo by Jun Tsukida

オアーHCの声はいつもコートでよく響く。予選プールから厳しい試合が続いた東京パラリンピックでもベンチから「fight, fight」と走る選手たちを鼓舞した。だが、プール1位通過を果たした日本代表は翌日の準決勝、過去5年公式戦で負けなしだったイギリスに55対49でまさかの敗退。試合後、オアーHCは胸に手を当て、「I’m sorry for Japanese people」と声を絞り出して涙を流した。

「この5年間、努力が足りなかったのか。何が不足していたのだろうか」。そう話したエースの池崎大輔は、金メダルへの挑戦が終わったことを受け止められず、なかなか会場を後にすることができなかった。選手たちは翌日、宿敵オーストラリアに勝利して銅メダルを掴むことになるが、準決勝は何をしても悪い流れを断ち切ることができず、キャプテンの池透暢も「悪夢であってほしい」と呆然としていた。

チームを引っ張ってきた「イケイケ」と呼ばれる2人の姿は象徴的だったが、もちろん他のメンバーも思いは同じ。2大会連続とはいえ、銅メダルを手にしても満足するものはいなかった。メダリスト会見で池は「現在地はまだここなんだな」と受け止めたが、この夏の日本代表は、間違いなく世界一になれる力を持ったチームだった。

高さと正確なパスを武器とする池はコート内外でチームを引っ張る photo by Jun Tsukida

ロンドン大会で4位、リオ大会で3位だった日本代表が最高峰のパラリンピックで頂点を狙えると感じさせたのは、2019年10月に東京体育館で行われた車いすラグビーワールドチャレンジだった。前年に初めて世界一になり、チャンピオンとして臨んだ初の大きな大会。観客数35,700人を記録する盛り上がりを見せ、世界の中で研究される立場を経験するなど収穫も多かった。さらに、若手の中町俊耶長谷川勇基もコートで存在感を示し、東京パラリンピック代表候補に名乗りを上げたことで代表争いは激化。それでも、選手たちから支持を得るキャプテン池のもと、チームは一丸となって優勝を目指し、ベンチからは出場時間の少なかった副キャプテンの羽賀理之がゲキを飛ばし、観客席にいた倉橋香衣も声援を送った。これほどの結束感は、日本代表が世界一になった2018年のシドニーでは見られなかった。結果は準決勝でオーストラリアに敗れて3位だったが、選手は皆、一様に「金メダル」を目標に語るようになり、選手たちが同じ方向に意識を持っていることを感じさせた。

日本代表を変えた外国人HCの存在

チームの意識を変化させたのは、何よりオアー氏の存在が大きい。アメリカとカナダのHCを歴任したオアー氏は2017年に日本代表HCに就任。オアー氏を招聘した塩沢康雄氏(アテネ・北京大会日本代表監督)は、こう振り返る。

オアーHCはメダリスト会見で「日本の国民の皆さん、サポートありがとうございました」と感謝を述べた photo by Hisashi Okamoto

「ケビンは、アメリカのレイクショアというチームを全米選手権5連覇に導くなど、その手腕が世界から高く評価されてきたHCです。リオ大会でケビン率いるカナダが日本に敗れ、カナダのFacebookでケビンとの契約を絶ったと知り、すぐにオファーをして仮契約を結びました。その後、デンマークからもオファーを受けたそうですが……結局、日本に来てもらうことになり、その後、世界選手権で日本を優勝に導いてくれました。日本のHCであるケビンの存在感は、東京大会で金メダルを目指していたオーストラリアやアメリカの大きな脅威になったと思います」

オアーHCはリオ大会後に競技を始めた橋本勝也を16歳で世界選手権代表に抜擢し、東京大会の日本代表に選出するなど人材の育成にも長けているが、実はその指導により40歳越えのベテランたちも著しくレベルアップさせた。

競技歴22年の島川もパリに向けて再始動した photo by Takashi Okui

なかでもアテネ大会から5大会連続出場のレジェンド島川慎一の進化は目を見張る。選手やスタッフに取材の中で成長している選手を訪ねると必ずその名が挙がるほどだ。コロナ禍でチーム練習がなくともフィジカルアップに励み、その背中でもチームを鼓舞。実際に、東京大会では5試合で約60分出場と、ロンドン大会、リオ大会より長い時間プレーした。池、池崎に次いでプレー時間の長い島川の進化により、日本代表はメンバーを入れ替えても戦力を落とさずに戦うことができ、常にアクティブにトランジションを仕掛けていくスタイルを実践。このレジェンドこそが連続メダル獲得に貢献した「過去最強ジャパン」のキーマンだった。

一方、東京大会では6人のローポインターの存在も光った。とくに、3連覇を狙ったオーストラリアに土をつけたデンマークとの試合では、若山英史今井友明らが得点を重ね、相手に的を絞らせなかったことで9点差をつけて勝利。オアーHC体制下では、かつてはボールを運ばない役割と思われたローポインターも練習中から積極的にボールに絡んでいく。ボールへの意識が高まった選手たちは、コロナ禍でもパスレンジを広げ、ヒッティングの精度を磨いた。

東京大会では、橋本(左から2人目)、中町(左から3人目)、小川(右)ら若手も全員が出場した photo by Takashi Okui

東京大会の1年延期をチャンスにして代表入りした27歳の小川仁士もローポインターだ。東京大会で世界のローポインターのレベルを知ったと言う小川の経験も、次世代の大きな原動力になることは間違いない。

専用体育館も選手をバックアップ

そして、この選手たちの成長の場となった日本財団パラアリーナの存在も忘れてはならない。強化指定選手の中でもっとも長い競技歴23年の岸光太郎(※東京大会では日本代表リザーブ)は、2018年6月以降、いつでも練習できるようになったこの環境がチームの底上げを演出しており、日本代表が強豪であり続けるために存続させることが重要だと訴える。

池キャプテン、オアーHCとともに金メダルを目指した日本代表 photo by Takashi Okui

「企業からアスリートとして雇用されている選手たちは平日も練習できます。合宿には呼ばれない育成レベルの選手たちも利用できるパラアリーナでは、若手がトップ選手とともに合宿と同じような練習をすることができた。(パラスポーツ専用の)体育館があったことは、HCの存在と同じくらい大きかったと思います」

加えてこの競技は用具に費用もかかるため、支援がなければ競技を始める垣根も高い。東京大会後、自治体などの金銭的なサポートが減っていく不安は残るが、国内の車いすラグビーの競技人口は約80人と少ないため、これからは選手発掘も課題になる。

もちろん日本代表で簡単に活躍できるわけではないが、「世界は身近」と岸は言う。

「たとえば、オーストラリアにライリー・バットという世界最高と言われる選手がいますが、日常の練習で冗談っぽく『ライリーのタックルはこんなもんじゃねえ』とか世界のスーパースターの話題が出てくるんです。だから、これから代表を目指す選手もまだ見ぬ世界の幻影を追うことができる。そういった積み重ねで普段の練習の意識が違ってくるのかもしれません」

敗戦の翌日、日本代表はオーストラリアとの3位決定戦で勝利し、銅メダルを手にした photo by Jun Tsukida

その意味でもメダル獲得の意味は大きい。リオ大会銅メダルの悔しさを胸に戦ってきた乗松聖矢は、メダリスト会見でこうコメントした。

「(もともと金メダルを目標にしていたため)銅メダルマッチの前は、メダル獲得後にどういう気持ちになるかわからなかったが、思っていたよりも嬉しい気持ち。パラリンピックでメダルを獲得するということの偉大さ、価値を改めて考えさせられる大会でした」

世界上位7チームによる群雄割拠の様相を見せている車いすラグビー界。そんな中、日本代表はパリで一番輝くメダルを獲得できるか。「無限の可能性を秘めたチーム」(池崎)が高みに上っていく姿を多くの人とともに見届けたい。

東京大会で金メダルに輝いたのはイギリスだった photo by Getty Images Sport

text by Asuka Senaga
key visual by Jun Tsukida

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