2018 ITU世界パラトライアスロンシリーズ横浜大会 取材レポート

2018 ITU世界パラトライアスロンシリーズ横浜大会  取材レポート
2018.05.18.FRI 公開

パラトライアスロン最高峰のシリーズ戦である「ITU世界パラトライアスロンシリーズ」(全3戦)。その今季初戦となる横浜大会が5月12日、横浜市山下公園周辺特設コースで行われ、障がい種別男女各6クラスの計70選手が頂点を競った。日本からは9選手が出場し、PTWC(座位)女子で土田和歌子が1時間11分23秒で、PTS4(立位)女子で谷真海が1時間13分56秒で、それぞれ大会連覇を果たした。

可能性にチャレンジ。陸上競技から転向した土田和歌子

車いすマラソンでは今も世界記録保持者で、世界を極めている土田は、練習の一環としてトライアスロンにも参戦するようになり、前回大会で優勝。その後、競技の面白さと難しさに、「自分の可能性を試したい」と今年1月、陸上からの本格転向を表明した。

スイムのスタートを待つ土田

今季国内初レースとなったこの日、スイムではトップ選手と6分近くも遅れ、7選手中6位でのスイムアップだったが、陸上選手時代から練習に取り入れていたハンドサイクルを使うバイクパートと、専門だった競技用車いすで走るランパートをともにトップタイムで駆け抜け、2位に入ったローレン・パーカー(オーストラリア)に3分30秒という大差で圧勝した。

「(苦手な)スイムで離された分、残り2種目で一人ひとり追いつくことができた。目標としてきた横浜で結果を残せてよかった」と安堵の笑みを見せた。

ハンドバイクを使用するバイクパートでも追い上げた

だが、「まだまだ課題は山積み。一つひとつクリアしていかねば」と気を引き締める。とくに、運動性喘息の治療として始めたスイムは本格的な練習は1年半ほどで、今は専門のコーチについて週3日~5日の集中トレーニングで強化を図る。

また、脊髄損傷の土田は体温調節機能に障がいがあり、基本的に外界の温度に影響され、低体温症や熱中症などを発症しやすい。昨年は、低水温下でのレースで棄権を余儀なくされる経験もした。

基本的には環境への慣れが必要で、低温のプールで練習を積むなど、水温16~17度の耐性はできていたというが、「今日の(水温)予報が15度で、マイナス1度が身体にどう影響するのか恐怖との戦いだった」と明かす。

「できないことがまだたくさんある。だからこそ、自分の可能性を広げていけると思うし、そこにチャレンジしたい。転向して日が浅いので1戦1戦しっかり戦っていきたい」と、さらなる進化を誓った。

国際大会負けなしの谷真海「自分の実力は分かっている」

陸上競技の走り幅跳びでパラリンピック3大会出場の谷はトライアスロンに本格転向して2季目を迎えたが、昨年から世界選手権を含め国際大会で負けなしの好調さを維持する。今大会でも2位のアナ・プロトニコワ(ロシア)に2分7秒差での快勝。得意のスイムで2分42秒のリードを奪うと、バイク、ランも粘り強く走り、逃げ切った。

得意とするスイムでリードした谷(写真左)

フィニッシュ後は倒れ込むほどの力走に、「守りに入らず、力を出し切ろうと思っていた。最後はすごく苦しかったが、多くの方が待ってくださっていて、気持ちよくゴールできた」と笑顔を見せた。

だが、「まだ満足できるレベルではない。バイクもランも、もっと速くならないと」と課題も口にする。冬場の厳しいトレーニングで、「すべての種目で去年よりベースアップを感じたが、まだまだ。(連勝は)できすぎ。自分もコーチも実力は分かっている」と冷静に話す。

今季は海外参戦よりも国内での強化を重視し、一般のトライアスロン大会にも出場する予定だ。距離も長く出場選手も多いため、持久力や駆け引きなども磨けるだろう。「経験を積みながら、9月の世界選手権で連覇を目指したい」と意気込む。

谷は陸上競技・走り幅跳びのパラリンピアンでもある

雨中のレースとなった昨年と比べ、今年は沿道の観客も倍増。「(2020年の)東京もこんな感じかなとワクワクした。出たいなと思う」と大舞台にも思いをはせたが、実は東京パラリンピックの実施22競技中、トライアスロンだけ、実施される障がいクラスが未定のままだ。国際パラリンピック委員会(IPC)と国際トライアスロン連合(ITU)との間で、今年末をめどに調整が進められている。

谷は、「実施クラスについては選手が決められることではない。今、ステップアップできることを淡々とやって、待ちたい」と、まずはアスリートとして自身の課題に取り組む覚悟だ。

トライアスロンは2016年のリオパラリンピックからパラリンピック正式競技となったばかり。3種目をこなす過酷な競技だが、土田や谷のような転向組も少なくなく、選手層も競技レベルも増している。高い目標を掲げて挑戦する選手たちによる、熱く見ごたえある戦いから、今後も目が離せない。

text by Kyoko Hoshino
photo by X-1

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